「は?」
自分でも相当間抜けな声を上げてしまったと思う。しかしそれ程寝耳に水な話だったのだから仕方ない。聞き間違いである可能性も考慮してもう1度問いかけてみるが、やはり返ってくる答えは変わらなかった。
「だから、ボスの誕生日会は22日にやるんだって。おかしいなぁ、何でJJだけ知らないの?」
「それはこっちが聞きたい……」
「まぁ今言ったんだしいいよね?」
よくない、と目の前でニコニコしてるパオロに文句を言いたくなる。しかし奴は用件は済んだとばかりに身を翻し素早く去ってしまったのでそれは叶わなかった。溜息を吐いてから、どうしたものかと考える。
瑠夏の誕生日は8月23日、つまり明日だ。なら当然その日にキングシーザーでは恒例行事となっている誕生日会とやらをやるんだろうと思っていた。しかしなにやら周りがやたらばたばたと騒がしいのでパオロを捕まえて理由を聞いてみれば、
「23日の夜に、大事な顧客との商談が入っちゃったんだよ。ボスが居なくてもなんとかなるならよかったんだけどそうもいかなくて……だから22日の夜に誕生日会をして、ボスにはそのまま次の日の夜まで半休を取ってもらおうってことになったんだ……ってJJ、知らなかったの?」
などとかっけらかんと言い放たれ、俺は間抜けな声を上げる羽目になったのだ。しかし普通なら1日早まった程度でそこまで愕然とする必要はない。少なくとも俺以外の奴らは数日前からその話を知っていたのだから準備は多少慌ただしくも準備は滞りなく進んでいるのだろう。そう、普通なら、だ。
俺はもう一度大きな溜息を吐く。少なくとも俺には、23日でなければ困る理由があった。ポケットに手を入れ、無造作に突っ込まれていた紙を取り出し、そこに記入された日付を眺める。
「ちっ……」
慣れないことはするもんじゃない。瑠夏の誕生日にプレゼントを、とかつてセンスがないと言われた俺が必死に考え、しかし何も思いつかず結局無難にワインを送ろうと決めた。マスターやキングシーザーの奴らに聞いて回り瑠夏の一番好きなワイン、ディナリ・シャルドネを本場シチリアから取り寄せた、ところまではよかった。しかし今そのワインは品薄らしく、こちらへの到着が23日ギリギリになってしまうと言われ、当日に届けばいいかと了承した、のが間違いだったようだ。
誕生日自体は23日とはいえ、今日の誕生日会に手ぶらで出席するのは気が引ける。いや、プレゼントは事前に部屋へ送るのだったか、まあどちらでもいい。
ちらりと時計を見る。今は朝の10時。パオロに聞いたところ誕生日会は19時から始めるらしいので、リミットはあと8時間程か。何か適当に、とも考えるが出来ればおざなりにはしたくなかった。仮にも、その、俺の……恋人である、瑠夏の誕生日だ。その言葉を思い浮かべただけで頬に熱が昇ってくる、そういう甘ったるい言葉に慣れていないのだ。
頭を軽く振り、今はそれどころではないと思考を切り替える。しかし、本当にどうしたものか。ワインを用意するのでさえ苦労したのだ、あと8時間で一体何が用意出来るというのだろう。
「………………」
何も思い付かない。この際だ、他の奴らに相談してみるのもいいかもしれない。そもそも俺がこんな事態に追い詰められているのも奴らの伝達ミスのせいなのだから。瑠夏に近しい奴に聞くのがいいだろうか、なら石松、パオロ……霧生は、俺と一緒でこういったことは苦手な印象がある。見つかれば聞いてみるのもいいがわざわざ探す必要はないだろう。ならあとは……マスターがいいだろうか。
誰に聞くのがいいだろうかと考え、俺は……
・石松に聞く
・パオロに聞く
・マスターに聞く