俺は休憩時間を利用して、エピローグバーへと足を運んだ。今は昼間だが、何故か大体の場合マスターはここに居ることが多い。趣味が仕事になっているからだろうか、その辺りの公私の区別はあまりないようだ。
カラン、と耳慣れたベルの音。それに気付いたマスターはこちらへと振り返り、俺を見た途端目尻を下げ穏やかそうに笑う。
「やぁJJいらっしゃい、こんな時間に来るのは珍しいですね。今日はお休みですか?」
「いや、休憩時間に寄らせてもらった……マスターに相談があってな」
「相談ですか?君が僕に相談なんて、今日は雪でも降りそうですねえ」
真夏に雪が降ってたまるか。からかうように笑ったマスターは、俺をカウンターの席へと誘った。何か飲みますか?と聞かれ断ると、夏場の水分補給は大事ですよ?とレモンを絞った水を出してくる。つくづく世話焼きだな、と俺はつい小さく笑ってしまった。
「それで、相談とはなんですか?まさか今日になって瑠夏へのプレゼントが用意出来なくなった、なんて言いませんよね?」
「……マスター、あんた、どこかで聞いてたのか?」
「おや当たりですか。聞かなくても、このタイミングで君が僕に相談してくることくらい想像つきますよ」
マスターには何もかもお見通しのようだ、俺は促されるようにしてマスターへ事の次第を話した。要は、別のプレゼントを今夜までに準備しなければいけなくなったんだ、と最後にまとめると、マスターは「なら、これをもっていきなさい」と綺麗にラッピングされた中くらいの袋を渡してくる。咄嗟に受け取ると、重さはそれほどではないが何か冷たいものが入っているようだ。
「マスター、これは?」
「開けてのお楽しみ、ということで。大丈夫、瑠夏なら気にいってくれますよ。あ、渡すまでは冷蔵庫に保管しておいて下さいね、保冷剤も入ってますが、夏場ですからねぇ」
「……ということは、食べ物、なのか?」
「ですから、開けてのお楽しみですよJJ……ほら、そろそろ戻らないと休憩時間が終わってしまうんじゃありませんか?」
言われて時計を見れば、確かにそろそろ戻らなければ間に合わない。俺は出された水を半分程胃へ流し込むと、渡された袋を持ったままバーの出入り口へと向かう。
「……だがマスター、これはマスターが瑠夏へ用意してたプレゼントじゃないのか?」
「いえ、こんなこともあろうかと用意しておいたんですよ。君は妙な所で抜けていますから」
どんなことがあると考えていたんだ、と思いつつも素直に礼を言ってからバーを出る。屋敷に戻ったら、まずはこれを冷蔵庫に……瑠夏に見つからないように入れておくとしよう。
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23日深夜へ