「……いや」
人に頼るより、自分で考えた方がきっと瑠夏も喜ぶだろう。センスがないと言われたこともあるが、キングシーザーで過ごす日々の中で少しくらいはセンスも鍛えられた、はずだ。そう思い直し思考を巡らせていると、廊下の向こうから霧生が歩いてくるのが見える。
……人に頼らないと言った矢先にあれだが、霧生が瑠夏に何を送るつもりなのか興味があった。あいつも俺と同じでこういったことには疎いイメージだが、どうなのだろう。「霧生」と呼び掛けると、何故か不機嫌そうな面で俺を見ながら歩み寄ってくる。そんな表情をされるような心当たりはないのだが。
「……名前を呼んだだけで、その態度はないだろう」
「俺が必死で今日の準備に駆けずり回っているというのに、暇そうなお前を見たらこんな面にもなる……で、何の用だ。さっさと済ませてお前も準備を手伝え」
「わかった、わかったからそう睨むな……1つ、聞きたいことがあったんだ」
「……何だ?」
敬愛するボスの誕生日会の準備を滞らせてまで聞く価値のある質問なんだろうな、と言わんばかりの目で睨みつけてくる霧生。どうやら誕生会の日にち変更の皺寄せは主に霧生にいっていたらしい。下手なことを言えばレッドホークで頭を撃ち抜かれかねないくらいピリピリとした空気を纏っている。まぁ、瑠夏にねぎらいの言葉1つでもかけてもらえればその疲れなど吹っ飛ぶのだろうが。
俺はなるべく霧生を刺激しないよう注意しながら口を開き、「お前は瑠夏の誕生日に何を渡すんだ?」と問いかけた。すると奴は不審そうに眉を顰め、尚も俺を睨む。
「何故お前に言う必要がある」
「いや、参考に、だな……」
「参考……?まさかお前、まだボスへのプレゼントを用意してないとでもいうつもりか」
その通りだ、と言えばきっと霧生は狂犬さながらに噛み付いてくるだろう。おれは出かかった肯定の言葉を飲み込み、代わりにあまり得意ではない嘘を口にする。
「……そんなわけないだろう。単に興味本位だ」
「なら聞く必要はないだろう、くだらないことに時間を取らせるな。ほら付いてこい、仕事は嫌になるほどある」
「あ、あぁ……」
俺はそれ以上話を引き延ばす気にはなれず、言われた通り霧生の後ろへと付いていく。まぁ、仕事の間考えていればどうにかなるだろうと、そんな甘いことを考えながら。
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23日深夜へ