香りは歪んだ想いを零す
「あぁっ……!もう、やめ、あっ!」
「っ、まだだ、だってまだキミは反省してないだろう?」
「ん、あっ、して、る……!だから、も……あぁっ!」
強い快楽が弾け身体をびくびくと震わせる。もう吐き出すものはない、何度目の絶頂なのかすらあやふやになっていた。長い時間俺は瑠夏に揺さぶられ続けている、苦しいほどに快楽だけを与えられ続け、気絶する度激しい突き上げで無理矢理起こされる。
この行為の名目は、お仕置きだ。単独行動をとりオメルタに背いたという理由で俺は瑠夏に犯されていた。腕を縛り、執拗なまでの愛撫で俺を煽った瑠夏は充分すぎるほどに解れた場所へ熱い昂ぶりを突き入れ、そのままもうどのくらい経っただろうか。
「はぁ、はっ……頼む、もう、止め、んあっ……!」
「本当に反省したかい?もう、二度と単独行動はとらないと、誓える?」
「うぁっ、誓う、から……!許して、くれ、あっ、あ……!」
「キミのその言葉も何度目かな、JJ。こうしてボクに許してくれって縋ったのは、今回が初めてじゃないだろう?」
檻を出た後、俺は瑠夏の屋敷――もとい、キングシーザーの屋敷へと連れて来られていた。瑠夏に手をひかれながら屋敷へ足を踏み入れた俺を中の奴らは不審げに見ていたが、瑠夏が新しいファミリーとして紹介し、そいつらの前で大袈裟な儀式をさせられ、そうして1年程が過ぎた今では他の奴らの態度も随分軟化していた。一部の幹部に至っては俺をからかうのを生きがいにしているようなのもいるくらいだ。俺は変に気まじめだからからかいたくなると言って、豪快に笑う男と一見人の良さそうな笑みを浮かべる男、特にその2人はやたらと俺に絡んだ。
正直なところ、居心地は悪かった。マフィアとはもっと殺伐としたものだと思っていたし、そうであってくれた方が俺は助かる。家族と呼び合い、本当にマフィアなのかと疑いたくなるような親密さを押しつけてくるこの組織は、どうしても自分の性に合わなかった。
1人で動く方が効率的だったから、そうしただけだ。任務の遂行を優先するならば数人がかりでもたつくより俺が1人で動いた方が手っ取り早いと、今回も、その前だって、そう思って実行しただけだ。しかしそれはオメルタに背く行為で、何より瑠夏のお気に召さないらしい。
「あっ……もう、嫌、だ……っ、イきたく、ない……あ、あっ!」
「――っ……ふふ、もうすっかり後ろだけでイけるようになったみたいだね……」
「や、だ……んっ、頼む、許してくれ……っ」
「どうしようかな……そうしてボクに許しを請うキミは可愛いし、もう少し見ていてもいいかもしれない」
意地の悪い笑みを浮かべながら、尚も俺を揺さぶり続ける瑠夏。この男もすでに数度俺の中へ熱を注いでいるのにどうしてこんな余裕の口振りなのだろう、底なしにも程があるだろう。今度は俺をうつ伏せに倒すと後ろから深く貫いてくる、身体はとっくに限界のはずなのに自分のものはまた昂ぶってしまう。悔しくなり、中のものをきつく締め付けてやると後ろから瑠夏の苦しげな声が聞こえた。
「はぁ……っ……何だ、やっぱりまだ余裕があるじゃないか」
「なっ……!違、う、あっ!」
激しくなる抽挿に、また意識が眩んでいく。背中を仰け反らせまた絶頂を迎えた俺は、ほぼ同時に瑠夏が俺の中に熱を注いだのを感じながら、そのまま意識を闇の中に落とした。
目を覚ますと、広いベッドに裸のままで寝転がっていた、毛布は掛けられているから寒くはないが。まだぼんやりとする視界の中で隣に目をやると、そこにはすでに誰も居なかった。ひんやりとするシーツの感触から、随分前に居なくなったことがわかる。
というか今は一体何時なんだと身体を起こそうとすれば、どこもかしこもぎしぎしと音が鳴るように痛んだ。瑠夏に散々無茶な抱かれ方をしたからそのせいだろう、諦めてまた身体をベッドに沈め首だけを動かす。備え付けの時計を見て、目を見張る。
すでに夕方に近い時間だった。昨日の夜は一体何時間瑠夏に求められていたのかわからないが、それでも流石に朝になる前には解放されたはずだ。それだけ身体が疲弊していたということかもしれないが。
「……っ」
やはり起き上がれそうにはない、自分に割り当てられていた今日の仕事はどうなっているのだろう、瑠夏がうまいことやっておいてくれたのだろうか。この時間まで起こされることがなかったということはきっとそういうことだろう。
瑠夏は、変わったと思う。この屋敷に戻ってから檻の中の時のようなピリピリとした雰囲気を纏うことはどんどん少なくなり、俺に対する扱いも少しその形を変えていた。瑠夏の好きな時勝手気ままに抱かれるのは変わらないにしろ、前のように屈辱を与え支配するかのように抱いてくることはなくなった。手中に収まったのだから、その必要がなくなっただけかもしれないが。
先程の行為だってお仕置きと言いながら痛みを与えてくることはなく、代わりに執拗なまでの愛撫で俺を溶かし、中の感じる場所を集中的に刺激しながらおかしくなりそうな快楽を与えられ、最後には自分が何度絶頂を迎えたのかわからなくなってしまう程だった。
淀んだ諦念の中に居たのに、そんなことをするから。檻から出た後だって憎むことも嘆くことも、殺してしまいたいという程の激情に駆られることすら、出来ない。今更俺はどんな感情だってあの男に向けたくはない。だから全てを諦めこの男に飼い殺されることを享受していたのに。
わからなくするのは、やめてくれ。
毛布に包まり、もう一度目を瞑る、毛布からはふわりと甘い蘭の香りがした。余った部分を腕の中へ抱え込むようにしてその香りを抱きしめながら、また緩慢な眠気に身を任せ眠りに落ちた。
とある日の深夜、俺は瑠夏へ報告しそびれていたことを思い出し、溜息を吐きながら奴の部屋に向かっていた。これを理由に何をされるかわかったものじゃないが、先延ばしにすればそれが悪化するのは容易に想像つく。ドアの前に立ちノックをしようと腕を上げたところで、俺の耳は小さな異変を捕らえた。
掠れたような、鼻にかかる甘ったるい声。ドアの向こうから微かに聞こえるその声に、俺は腕を上げたままの恰好で固まってしまった。それに混ざり聞こえてくるのは、情事のとき特有の艶を含んだ瑠夏の声。
「……っ!」
腹の底から頭までを、言いようのない感覚が昇っていく。これはなんだ、頭はやけにはっきりしているのに、浮かんでくるどんな感情もはっきりとした言葉にならない。顔は熱いのに脳は冷水を浴びたように冷えている、眼球の奥から何かが漏れ出しそうで俺はきつく目を瞑った。頭まで昇った感覚は、濁りを増しゆっくりと下がってくる。それがどんどん腹に溜まっていくのがわかって、俺は無性に胃の中のものを全て吐き出したくなった。
もう1人の声の主は、わかる。少し前にここキングシーザーに迎え入れられた男、霧生礼司だ。瑠夏とひと悶着起こし、何が琴線に触れたのかは知らないがその男を気に入ったらしい奴は、そいつをこの屋敷に連れてくると半ば無理矢理家族として迎えたのだ。瑠夏はやたらと霧生を気に入っていたし、霧生自身も瑠夏の奔放さに振り回されながら、少しずつマフィアという組織に慣れていっていた。
俺自身は積極的に関わろうとはしなかったし、奴もあまり俺に関わってくることはない。互いに干渉しない性格なのだろう、可もなく不可もなくの付き合いなので奴について多くは知らない。
こうして瑠夏に抱かれ甘ったるい声を上げる程瑠夏に気を許していたことなど、知らなかった。
瑠夏の気の多さは知っている、俺以外の奴を抱いていたことだって。それでもこうして、その現場に出くわすのは初めての経験だった。
動けない。この場から去るどころか、腕を下げることすら今の俺には困難なことだった。自分の感情にここまで振り回されるのは初めてで、聞きたくもない2つの声が耳へ届くのをただ耐えることしか出来ない。
「……か」
一度だって、呼び掛けたことはなかった。それが意地でも悪足掻きでもよかった、呼び掛けてしまえばきっとその存在は深く自分の中に刻まれてしまう。離れられなくなる程に、俺の中に爪痕を残す呪いのような言葉。
しかしそれは、誰にも届かない、自分にしか届かないくらいに大気を揺らし俺の耳へと戻ってくる。
「瑠……夏……瑠夏……」
細々とした音が耳に届き、咄嗟に俺は両手で自分の首を絞めつける。酷く衝動的に自分を殺してしまいたくなった。
「ぐっ……か、はっ……」
苦しさに手の力が緩む、自分で自分を絞め殺すのは無理だとわかっている。でも今ここには銃もナイフもない。
俺はようやく動くようになった足で、自分の部屋へと戻っていく。死のうという気はもう失せていた、強く揺さぶられたはずの感情は、もう見る影もない。
ふらふらと自室に戻り、俺はそのままベッドに倒れ込んだ。何の匂いもしない毛布を腕の中に抱え込む。甘い蘭の香りに、今は別の男が包まれているのかと考えて、俺は未だ腹の底に残っていた淀みに気付く。それを残したまま眠るのは困難で、何度も寝返りをうっている内に遠くから鳥の声が聞こえた。
今日は、久々の休みだった。休みだからといって特別何かをしていたわけではないが今は動くことも億劫で、俺はそのまま眠れもしないのにベッドから身体を起こさずただ時間が過ぎていくのを待った。せめて眠ることが出来ればマシだろうと思うが、眠気は一向にやってこない。
頭は冴え、なのに思考はバラバラで何かをまともに考えることが出来ない。そうして、気付けば夜だった。眠ったのか眠っていないのかわからない、とりとめない思考は夢に似ていて意識をぼやけさせる。
「JJ……?居るか?」
ノックの後、俺を呼ぶ声。途端ぼやけていた意識がはっきりし、ざわりとまたあの時の感覚が昇る。ノブをひねる音に次いで、ガチャと金属音。鍵を閉めていたので俺が招き入れるまであの男……瑠夏は、ここに入ることは出来ない。
「……居るんだね。キミ、今日は一度も食事をとっていないそうじゃないか、具合が悪いんじゃないかと皆心配していたよ」
「……」
「口もきけない程具合が悪いのか?JJ、鍵を開けてくれ」
瑠夏の言うとおり、具合は悪い。ただし身体ではなく頭の具合だ、昨日の深夜からずっと悪いままになっている。眠ることも出来ないままベッドから身体を起こすことも出来ない。身体の向きを変え、ドアの方へ視線を向ける。その向こうに瑠夏が居るのだと思うとどうしても気持ちがざわついた、どうしてあの程度のことにここまで揺さぶられなければいけないんだ。ただ、
瑠夏が霧生を抱いていただけで。俺以外の男が、あの香りに包まれていたという、それだけのことで。
「放って、おいてくれ……」
「……?JJ、今何て……」
ぼそりと呟いた声は、瑠夏に届いたらしい。しかし音として俺の声を聞き取っただけで、はっきりとした言葉としては伝わらなかったようだ。それならそれでいい、俺はまた寝返りをうつとドアから視線を外した。しばらく瑠夏は俺への呼び掛けを続けていたが、しばらくすると諦めたのか足音と共にその存在は消えた。それを聞いて俺は目を瞑り、ようやく訪れてくれそうな眠気に身を任せることにする。
うつらうつらと、半分夢の中に居るような感覚。それが深い眠りに変わりそうになった時、ガチャリと、金属音が響く。同時に自分以外の気配が部屋へと侵入してくきた。はっとして身体を起こしその侵入者へ視線を向ける。
「……ん?何だ、元気そうじゃないか」
「っ……アンタ、どうやって……」
どこかに外出していたのか、スーツ姿の瑠夏は小さく笑いながら手元で銀色の物を遊ばせている。見れば覚えのある形状の鍵が瑠夏の手の中でくるくると回っていた。合い鍵だと気付き何故そこまでするのかと溜息を吐く。俺の居るベッドへと腰を下ろした瑠夏は空いている手でするりと俺の頬を撫でてくる。その仕草だけで、肌がぞくりと粟立ちそうになった。
「でも、顔色が悪いな……あぁ、目も少し赤い……もしかして、眠ってないのか?」
「……」
「……JJ、何かあったのかい?」
「うる、さい……」
俺の言葉に、少し瑠夏の雰囲気が変わる。鍵を置いた瑠夏は今度は両手で俺の頬に触れる。じっと俺を見るその瞳は、微かに檻の中に居た時の瑠夏を思わせた。
「……ボクが気に食わないって顔だ」
「っ……」
「キミのそんな表情を見るのも久しぶりだな、最近はどこか諦めたような顔ばかりしていたから」
「おい、離……っ」
「すごく、そそるな……酷くしたくなる」
ギシリ、とスプリングを軋ませながら瑠夏は俺を組み敷いた。俺の腕を外したネクタイで後ろ手に括ると、性急な手つきで俺の服を脱がせてくる。止めろと制止の言葉を紡ぐ俺の口を、瑠夏が噛みつくような口付けで塞いだ。閉じようとした唇に無理矢理舌を割り込ませると、逃げようとする俺のそれを絡ませ息も吐けない程激しく口腔を犯される。
「ふ、う……っ、はぁっ、止め、ん、う!」
「ん……はぁ……」
色を含んだ吐息に、ぞくりと身体が震える。捲くられた服に潜り込むようにして瑠夏の大きな手が触れた、突起を押し潰すようにして弄られると、口付けの合間に小さく喘ぎが漏れていく。
「んっ……は……あっ、う……」
「……ふふ、可愛いな……」
「はぁ……っう!」
ガリ、と突起を爪で引っ掻かれる。痛みに歪ませた俺の顔を見て、瑠夏は楽しそうに笑った。そして唇を離すと今度は俺の胸へと顔を寄せそこを舌先で刺激する。しみるような感覚と弱い快楽に視界がぼやけていく。空いた手が下着ごとスラックスを脱がせ、少し勃ち上がり始めている俺のものに触れる。それを数回擦られ、すっかり昂ぶってしまったものは先端から先走りを漏らし始める。
「く、う……あっ……!」
「そんなに瞳を潤ませて……気持ち良さそうだね」
「んあ……はぁ……っ」
「こっちも、もう欲しがってる」
先走りが伝い濡れた場所へ、俺のものから離した瑠夏の指が入り込んでくる。そこを濡らしているものを潤滑剤にするつもりなのか、中へ押し込むように浅く抜き挿しをしてからぐちゅりと卑猥な音を立て指が根元まで埋められる。痛みもなくそれを飲み込むと、身体はすでに先の行為を期待してか熱を上げていく。瑠夏の長い指が中を擦る感覚はそれだけで俺を興奮させた。そういう風に教え込まれたからだと誰にでもなく言い訳をしながら、固く目を瞑る。
「……あぁ、それ、いいかもね」
「……っ?」
楽しげに響いた声を不審に思い、目を開いた矢先瑠夏の大きな掌が俺の視界を覆った。塞がれた暗闇の向こうで 瑠夏が楽しげに笑ったのがわかり、手を振りほどこうと身を捩るが唐突に増やされた指に身体をびくんと跳ねさせてしまう。視界が塞がれているせいかその指が中で動く感覚がいつもより強く伝わってきた、瑠夏の指がぐっと深く入り込み、中を探るように動き回る。
「く、あ……」
「あぁ……ここかな」
「うあっ……!あっ、やめ……っ!」
さらに指が増え、中の感じる場所を見つけたのかそこを強く擦られる。与えられる快感はさらに鋭くなり、電流のように身体の芯を痺れさせた。強すぎる刺激に腰が逃げ、ギリギリまで抜けた瑠夏の指がまた深く押し込まれる。
「あぁっ!」
「自分から腰を振って……もう我慢出来ない?」
「違、う……っ!」
カチャリ、と金属音が耳に届いて俺は身を竦ませた。これはきっと瑠夏がベルトを外した音だ、前をくつろげ昂ぶりを取り出し、それが俺の後ろへとあてがわれる、何度も繰り返し見せられた動作は視界を塞がれていても瞼の裏で鮮明に再生される。想像した通りに後ろへ熱い塊が押し当てられると、今度は貫かれた瞬間の衝撃を思い出しぶるりと身体が震えた。見えないからこそ想像してしまう、その後にくる感覚を、衝撃を思い浮かべてしまう。それが実際に与えられると想像が被さり、二重の刺激として俺に襲いかかった。
「っ、う……」
「……想像した?ボクのものがキミの中に入る所を。貫かれて揺さぶられる衝撃を、想像したんだろう……?」
あてがわれたものがゆっくりと、焦らすかのように埋め込まれていく。じわじわと自分の中を埋めていくその存在は中でさらに質量を増していき、俺は後ろ手に括られた手でぎゅうっとシーツを握りしめた。
「や、ぁ……」
「っ……JJ、力を抜いて」
唇にやわらかいものが触れる、瑠夏の唇だと気付き半ば衝動的にそこへ噛みついた。苦しげな声がして一瞬離れた唇が、鉄の味を連れてまた俺の口を塞ぐ。舌が入り込み俺の舌を絡め好き勝手に動き回る、鼻から抜けていく血の香りにどうしようもなく目の奥が熱くなった。それが、ぼろりと流れ出す。
「……JJ、どうして泣くんだ」
「泣いて、なんて……」
「僕の掌を湿らせているのはキミの涙だよ。噛み付かれたボクが泣くのならわかるけれど、噛み付いたキミがどうして泣くんだい?」
そっと、視界を塞いでいた瑠夏の手が離れていく、途端、溜まっていた涙がぼろぼろと流れていった。悔し涙ではない、痛みで流れる涙とも違う、なら一体これは何だ。歪む視界の向こうでは瑠夏が訝しげな表情で俺を見ている、血の滲む唇を舌がぺろりと舐める、俺は止まることなく流れる涙をそのままにただ瑠夏の姿を見ていた。
まるで違う。檻の中に居た頃の瑠夏と今の瑠夏ではまったくの別人のようだ。あの男は、霧生は、この瑠夏に抱かれたのか。
俺の時とは違い、優しく慈しむようにして、きっとほとんど痛みなど感じることもなく。
「嫌、だ……」
「JJ……?」
「もう、アンタに抱かれるのは……嫌だ」
「……どういう意味だ?」
瑠夏の語気が強くなり、苛立ちがその声に表れる。それで俺はようやく涙を止めた。それでいいんだ、瑠夏は檻の中に居た時のように常にピリピリとしていて、気に入らないことがあるとすぐそれに噛み付いて、人なら屈服させ服従させる。そうして、お気に入りの玩具を誰にも渡さないと執着していた、あの頃のままでいいだろう。
「意味も何も、そのままの、」
「ボクに抱かれるのが嫌だって……?こんなに」
瑠夏はぎゅうっと痛いほどに俺のものを握り込んだ、それでも焦らされていたそこは浅ましく先走りで瑠夏の手を濡らす。口角を上げてそれを見た瑠夏は、濡れた指を俺の口の中へと入れ、無茶苦茶にかき回した。
「ぐっ、う……っ」
「ボクに貫かれて、ボクの手で触られて、悦んでいるのに?なぁJJ」
「――っんう!むっ、ぐ……!」
手はそのままに、瑠夏が性急な抽挿を始めた。後ろを瑠夏のもので貫かれながら、口を瑠夏の指で犯される。まるで全身を使って瑠夏のものを受け入れているかのような錯覚に、精神は酷く昂ぶっていった。くぐもった呻きの中に、喉の奥からあられもない喘ぎが漏れる。
「ぐうっ、うあっ、ああっ!」
瑠夏の指が抜けていき、すぐ前を擦られると俺はあっけなく熱を吐き出した。それでも尚瑠夏は揺さぶりを止めない、達したばかりの身体には強すぎる刺激に、俺は瑠夏の身体を挟むようにして両足を絡ませた。
腕が自由だったのなら、縋りついていただろうか。両腕はこの男を求めて、体温と香りを求めてしがみついていただろうか。瑠夏の表情を窺うとそこにははっきりとした苛立ちが浮かんでいて、俺はどうしてか安心したように息を吐いた。それもすぐ容赦のない揺さぶりに翻弄される喘ぎに掻き消される。
「キミはボクのものだって、言っただろう…っ、絶対に、逃がさないと……!」
「んっ!あっ、……か……!」
「JJ……?」
「あっ、る、か、瑠夏……!」
「――っ!」
俺の身体を掴んでいる瑠夏の手に力がこもる、瑠夏は数度深く俺を貫きそのまま最奥へ熱を注いだ。ぞくりとする程の色香を含んだ声で小さく呻いた瑠夏は、自分のものを抜くとようやく俺の腕を解いた。どろりと瑠夏の出したものが流れ出す感覚、口の中に広がる血の香りと青臭い匂い、そして最後に自分が何を口にしたのかを自覚した途端、ぐっと胃の奥から何かがせり上がってくる。咄嗟に口を抑えるが、耐えることすら間に合わなかった。
「う、ぐ、えっ……っげほ……っ!」
何も食べていないのだから当たり前だが、吐き出されるのはほとんど胃液のみだった。喉を焼きながらせり上がり、自分の掌に落ちたそれはそのままシーツに垂れ染みていく。数度えずき、咳き込みながらようやく嘔吐感は引いていった。
「はっ……はぁ……っ」
「……そんなに……吐く程に、嫌なんだね」
「っ……?」
「ボクの名前を呼ぶのはそんなに嫌なんだね、JJ」
瑠夏は俺から離れると、身なりを整えベッドを降りる。俺は嗚咽のようにひゅうひゅうと喉を鳴らしながら、苦しさに滲む視界の中でその様子をぼんやりと眺めた。
声は出ない、出たとしてもかける言葉など見当たらない。こうして瑠夏が離れていくことを、俺は望んだのではなかったか。先程かけられた言葉には強い落胆が含まれていた、愛欲の強い瑠夏がたった1度で俺を離したことからもそれは伝わる。
「……後で、シーツの替えと、軽く食べれる物を運ばせるよ。落ちついたらシャワーでも浴びてくるといい」
「……」
「……今まで、すまなかったね。許してくれとは言わない、だから」
せめて憎んでくれ、と呟いた瑠夏は、そのまま俺の部屋を出ていった。奴の呟いた言葉が響く、それでも、何度再生されても言葉の意味を理解することは出来ない。
ただ真っ白になった頭の中に反して、ようやく止まったはずの涙がまた流れていった。