甘い夜に沈む
マスターは念を押すように「開けてからのお楽しみ」と言っていたが、俺はその時点で気付くべきだった。人が良さそうに見えてその実、性質が悪いのだ。
「っ、やめ、瑠夏……!」
「JJ、動いちゃ駄目だろう?ベッドに零したらお仕置きだって、言ったよね……?」
そういって、瑠夏はまた俺の肌にひんやりとしたものを乗せていく。甘いバニラの香りが鼻腔を刺激し、その度俺は羞恥で顔に熱を昇らせる。
俺はマスターから渡されたものを手に、深夜瑠夏の部屋を訪ねた。「誕生日おめでとう」と告げ渡したそれを嬉しそうに受け取った瑠夏は、中身を見て少し目を見開いた後妖しく口角を歪ませた。そして、「これ、ショウが用意したものだろう?」と言いながら俺の額へ口付ける瑠夏を見て、どうしてわかったのかと問いかける。すると瑠夏はそれには答えず今度は唇へと触れ、口付けでどんどん俺を溶かしていった。膝が崩れそうになり瑠夏にしがみつきながら見上げると、支えられるようにしながらベッドへと運ばれ、衣服を全て脱がされる。深夜この男の部屋をわざわざ訪ねたのだ、俺も期待していなかったわけではない。瑠夏へと腕を回し、自分からも唇を重ねる。少しずつ官能が高まり熱くなっていく身体を瑠夏は優しくベッドへ縫いとめると、そのまま持ってきたらしい先程のプレゼントの袋から何かを取り出す。
取り出されたものは、ケーキを作るときに使う、生クリームを絞るチューブのようなもの。なぜそんなものが袋から出てくるんだと、俺は溶かされかかっている脳で考える、が、すぐ瑠夏はその中身をあろうことか俺の身体へと絞り始めた。白いクリームが肌に触れ、ひやりとした感覚に身体を震わせる。そうして抵抗しようとした俺を「ベッドを汚したらお仕置きだよ」と脅し、次々とクリームを肌へと乗せていった。
「ふふ、こんなものかな」
満足したのか手に持っていたそれを袋に戻す。そして今度は、そのクリームを舐めとるように瑠夏の舌が俺の肌を何度も往復しながらなぞっていく。くすぐったさに身を捩りそうになるが、クリームは徐々に俺の体温で溶け始めている、下手に動けばベッドを盛大に汚してしまうだろう。
シーツを握りしめながらそのもどかしい刺激に耐えていると、腹に乗せられたクリームを全て舐めとった瑠夏はそのまま舌を上へと滑らせ、胸の周りをくるりとなぞった。跳ねそうになる身体をどうにか抑え、俺は足の指にも力を入れ四肢の先でシーツをくしゃくしゃにしながらその行為の終わりを待った。
「ん……ふ……甘いな……」
「っ、ぁ……」
突起を押し潰され、そのまま舌先で転がされると腰に耐え難い疼きが走る。触られてもいない俺のものは瑠夏の舌の動きに煽られ、先走りをたらたらと漏らしてしまっていた。ようやく身体に乗せられたクリームが全て瑠夏によって舐めとられる、満足そうに笑った瑠夏はそのまま唇を重ねてきた。差し込まれた舌から甘ったるいクリームの味がする。
「は、ぁ……っ」
「おいしかったよ、JJ……ねぇ、もっとキミを味わいたいんだけど、いいよね?」
俺に答えを求める問いかけではなく、断定的な、答えを求めない問いかけをした瑠夏はまた袋からチューブを取り出すと、今度はその中身を昂ぶった俺のものへと垂らしてくる。そしてそれをまた袋へ戻し、俺のものをその口に咥えた。そして垂らされたクリームを舐めとるように舌を這わせ、射精を促すように吸い上げる。
「あっ……瑠夏、いい加減に……っ」
「ん、でもここ、物欲しそうに蜜を垂らしていたじゃないか」
「違、っん、待、駄目だ、もう……っ」
限界は想像以上に早くやってきた。随分時間をかけて体中を愛撫されたため、直接的な刺激が与えられてしまえば我慢することなど出来ない。俺はシーツを握りしめる指に力を入れ、あっけなく瑠夏の口の中へと熱を吐き出した。荒い息を落ちつけようとしている俺に構うことなく、瑠夏は舐めとる前に熱で溶け後ろへと流れていったクリームを指ですくい、それごと俺の中へ侵入してくる。
「瑠夏……っ」
「すごいな、中、熱く絡みついてくるよ……」
「アンタが、ねっちこい攻め方する、から、っあ」
「ふふ、必死に耐えるキミの表情可愛かったな……零してくれても、ボクとしてはよかったんだけどね」
「俺が、御免だ、ん、あ……っ!」
ぐちゃぐちゃと卑猥な水音を立てながら、瑠夏は徐々に指を増やしながらそこを掻き回す。どこもかしこもクリームだらけにされたせいで、やたらと甘いバニラの香りが鼻についた。全身ベタベタで気持ちが悪い、なのに身体は昂ぶらされているため早く瑠夏に貫いて欲しがり、浅ましく脚を擦り付けてしまう。
マスターは何を考えてこんなものを寄越したんだ、俺自身が誕生日のケーキにでもなれということなのだろうか。マスターならやりかねないと思えるから恐ろしい。
……というか、瑠夏はどうしてあのクリームのチューブを見ただけで、それがマスターから渡されたものだと気付いたのだろう。先程ははぐらかされてしまったが、やはり気になる、というか、おかしい。
「瑠、夏……っ、何でアンタ、んっ、あれが、マスターからだって……あっ!」
「ん?あぁ……ショウからメールでね、ボクが一番好きな甘いものを贈るから美味しく頂いてくれって言われてたんだよ」
「甘い、もの……っ?」
「だから、今味わってるだろう?……キミを」
指が抜かれ、代わりにあてがわれた瑠夏のものが一気に貫いてくる。強い衝撃に俺は喉を仰け反らせ、声にならない呻きを漏らす。そうして落ち着く暇もなく、瑠夏は俺を激しく揺さぶり始めた。
「あっ、あ……!」
「JJ、もっと声を聞かせて……キミは、身体も声も……すごく甘い」
「ん、あっ!何、言って、ん……っ」
また唇を重ねられる、甘ったるい香りが強くなり、頭がくらくらとしてくる。
甘いのはアンタもだろう、と、熱に浮かされた頭で思った。今触れている唇も舌も、俺にかける言葉も声も何もかもが甘い。その中でも、慣れない、恥ずかしいといくら言っても止めてくれない俺への想いを告げる言葉がきっと一番、このクリームより甘ったるい。
「JJ……愛してるよ」
「あ、んっ……!」
「キミの何もかもが愛おしいんだ……ボクの、ボクだけのJJ……」
「やっ、瑠夏……もう……っ!」
それは自分の限界を告げる言葉だったのか、それとも飽きずに繰り返される愛の言葉を止めたかったのか、ぐちゃぐちゃに掻き乱された思考では判断がつかなかった。つい中のものを締め付けると、それはびくびくと反応し瑠夏自身も限界が近いことを教える。ギリギリまで引き抜かれては一気に深く貫かれるという激しい抽挿が数度繰り返されながら同時に前も刺激されると、俺は瑠夏の言う甘ったるい声を上げながら、その手へと熱を吐き出す。そのときの締め付けで、瑠夏も苦しげに呻きながら俺の中へと欲を注ぎこんだ。
「はぁっ……あ……」
ぐら、と意識が揺れる。このままベッドに沈んで眠ってしまいたかったが、瑠夏がそれを許してくれるとも思えなかった。案の定繋がったまま身体を抱えられ、瑠夏の上へと乗せられてしまう。呆れながらもゆるゆると下から突き上げられると、俺の身体はまた熱を上げていく。
「あっ、瑠夏……んっ」
「ん……JJ」
自分から唇を重ね、何度も口付けを繰り返す。1度火のつけられた身体を冷ますことなど不可能だ、なら瑠夏にその責任を取ってもらおう。結局のところ俺もこの男と同じように自分の欲望には素直なのだ。瑠夏に貫かれ、その腕の中に抱かれることに喜びを感じてしまう。瑠夏のように甘ったるい愛の言葉は返せないが、せめて少しでも行動で、と自分からも腰を動かす。中が擦れる度快感がせり上がり、喉の奥からは絶えず喘ぎが漏れていく。
「瑠夏、あっ、瑠夏……!」
「JJ……もっとだ、もっと愛し合おう……っ溶け合ってしまえるくらいに」
「あ、ぁ……っ、ん、あっ!」
甘い香りに、甘い言葉。それごと溶けていってしまうかのような快楽に包まれながら、俺達は長い夜に沈んでいった。