温かい夢に包まれる

そもそも、そんな片手間に思い付くようならばここまで悩みはしていなかっただろう、と浅はかな自分を呪いながら瑠夏の部屋の扉をノックした。手ぶらで来るのは気が引けたが、呼び出しを断るわけにもいかない。特に今日は瑠夏の誕生日だ、そんな日を共に過ごそうと言ってくれたことに感謝こそすれ、拒否など出来るわけもなかった。

「JJ、会いたかったよ」
「……さっきまで、会場で嫌という程一緒に居ただろう」
「JJはロマンがないな、こんな日くらいひとときでも恋人と離れたくないというボクの気持ちがわからないのかい?」

放っておいてくれ、俺とロマンの間には何の関係もない。所在なく立ちつくす俺へ近付いてきた瑠夏は、腕を伸ばし俺をその胸へと抱き込んだ。少し躊躇いながら、俺も瑠夏の背へと腕を回す。何も語らずお互いに強く抱き締め合うだけの時間が過ぎ、それを破ったのは俺の弱々しい懺悔の言葉だった。

「その……瑠夏……すまない」
「ん?どうしたんだい、いきなり謝ったりして」
「アンタの誕生日会までに、プレゼントが用意できなかった、んだ」

瑠夏の胸へと顔を寄せ視線を伏せたままそう告げた俺に、瑠夏は「なんだ、そんなことか」と軽く笑ってから俺の髪を梳くように撫でてくる。その優しい仕草に、俺はより申し訳なさを募らせた。

「いいんだよ、こうして一緒に夜を過ごしてくれるだけでも充分だ」
「だが……俺は、アンタを喜ばせたかった」

他の奴らは当たり前のようにプレゼントを用意し、瑠夏を喜ばせることが出来るというのに。瑠夏の……恋人である俺が何も用意できず、手ぶらでここを訪れるのはとても心苦しい。女々しい思考かもしれないが、出来ることなら今この時、俺の渡したプレゼントを見て顔を綻ばせる瑠夏を、見たかった。
俺の落ち込みに気付いたのか、瑠夏はするりと頬を撫で先程より優しげな声で囁く。

「なら、今日はボクのお願いを聞いてくれないかい?」
「……お願い?……何だ?」

そうして、耳元に顔を寄せてきた瑠夏が吐息と共に吐きだした言葉に、俺は目を丸くする。咄嗟に拒否の言葉が喉まで出かかるがぐっと堪え、しばらくの逡巡の後「……わかった」とその言葉を受け入れた。








「っ、あ……」

少しずつ、手の中のものは固さを増していく。漏れ出す先走りを塗りつけるように動かすと、快感はさらに高まっていった。その行為を見られている、という事態すら興奮を高めていく材料になってしまい、いつの間にか俺は手の動きを止めることが出来なくなってしまっていた。

「可愛いよ、JJ……もっと足を開いて……よく見せて」
「っ、あぁ……これで、いいか?」

おずおずと足を開いた俺を見て、瑠夏は満足そうに頷く。
瑠夏は、「キミが一人でしているところが見たい」と俺の耳へと囁いた。いつもなら断固拒否するような要求だが、今の俺は瑠夏に対して引け目がある。一蹴することも出来ず、散々迷った末俺はその要求を受け入れた。
そうして今、俺は瑠夏のベッドの上で大きく足を開きながら自分で自分のものを昂ぶらせるという事態になっているのだ。強い羞恥に何度ももう止めると言いそうになるが、萎みそうになる気持ちをどうにか奮い立たせ俺は瑠夏に自分の行為を見せつけた。

「ん……っ、はぁ……」

すっかり張り詰めてしまったものは、徐々に限界へと近付いていく。散々恥ずかしい姿を見せておいて今更ではあるが、こうして自分だけが乱れ瑠夏の前で射精するという行為は抱かれるとき以上の羞恥があった。それでも、後は昇り詰めるだけの状況で手を止めることは出来ない。動きを速め、せめてさっさと終わらせてしまおうと自分を追い詰めていく。

「あっ……っ、んっ!」

びく、と身体が跳ね、俺は自分の手の中に熱を吐き出した。荒くなった息を整えながら、間近で俺を見ていた男へと視線を向ける。これでいいか?という意味合いを込めその瞳を見つめると、そこにある青が妖しく細められた。どうやら、まだ満足していないらしい。

「……次は、どうすればいい」
「ふふ、今日のキミは素直だね……そうだな、ボクのをキミの口で楽しませてくれるかい?」
「……わかった」

瑠夏の前に膝をつき、スラックスの前をくつろげ中のものを取り出す。俺の姿を見て興奮していたのか、それはすでに反応を見せていた。手に伝わってくる温度は熱いと感じるほどで、大きくなっているこれを全て咥えるのは無理だろうと浅く口に含み、舌で先端を刺激する。
口の中に広がっていく雄の味と匂いに、俺自身の身体もゆっくりと熱を増していく。全体に舌を這わせ口の中で瑠夏のものを育てていくと、目の前の男は俺の髪をくしゃりと乱しながら息を荒げ始める。その呼吸に混ざる色気に、俺はもぞりと身体を疼かせた。

「っ……はぁ……JJ、もういいよ……」
「んっ……でも、まだ、」
「次は、自分でボクを受け入れる準備をするんだ。キミも、我慢出来なくなってきたんだろう?」

図星をつかれ、俺は瑠夏のものから口を離す。自分で解せ、と言われたのは初めてではないが、それでも慣れるものではない。ましてやこの男に見られながら、後ろに自分の指を入れそこを掻き回すのは耐え難い羞恥を俺に与える。
それでも昂ぶってしまった身体は瑠夏に貫かれる瞬間を待ち望んでしまっている、俺は指を口の中で充分に濡らしてから、後ろへとゆっくり埋め込む。異物が入り込んでくる感覚が過ぎると、後には圧迫感と、期待に疼くもどかしい感覚が残る。自然と抜き挿しする手の動きが速まり、3本程をすんなり飲み込むくらいまで解した頃にはもう我慢できなくなり、俺は生理的な涙で滲んだ視界に瑠夏を映す。
瑠夏の手が俺の頬へ伸び、「おいで」と熱っぽく囁いた。後ろから指を抜いた俺は、その言葉に誘われるまま瑠夏の上へ跨り、ゆっくりとその昂ぶりを飲み込む。

「あ……は、ぁ……」
「ふふ……今のキミ、すごく色っぽい表情をしている」

瑠夏はあやすように俺の顔中にキスを降らせ、耳元に甘い言葉を囁く。ぞくぞくと官能が高まり、俺は我慢出来ず半分程まで埋め込んでいたそれを一気に全て飲み込んだ。俺の中を奥まで瑠夏のものがぎっちりと埋め、俺は背筋を震わせた。

「っは、あ……っ」
「我慢出来なかった?可愛いね、JJ」
「っ、あ、あぁ……!」

唇に軽く口付けた瑠夏は、そのまま優しく俺を押し倒した。抽挿の角度が変わり、中の感じる場所を擦られ俺は甘ったるい声を抑えることも出来ずに喘いだ。腰を高く抱えられ、俺を2つ折りにするようにして覆い被さった瑠夏は何度も深く俺の中を抉る。その獣じみた求め方に、俺の興奮はどんどんと高まっていった。
瑠夏の瞳に宿る獰猛な光に、足を掴む手の力の強さに、俺の名前を呼びながら吐きだされる熱い吐息に、それらを感じるだけでも俺の身体はぞくぞくと震え、中のものをきつく締め付けてしまう。その度瑠夏は苦しげに呻きながら、抽挿を激しくしていった。

「あ、あっ、瑠夏……っ、ん、あ……!」
「JJ……もっと、もっとキミを感じたい……っ」

俺のものを擦りながら、瑠夏はその欲望のままに俺を貫く。普段はなつっこく気さくな男だが、こうした行為の時は壮絶なまでの色気を漂わせ、俺はいつもそれに当てられてしまう。もっと求められ、この男が余裕をなくしてしまうくらい激しく抱かれたいと望んでしまう。
瑠夏に足を絡ませ、自分から更に深く飲み込むように腰を揺らす。埋め込まれたものを煽るように締め付けると、瑠夏は噛み付くように俺の唇を貪り、舌を絡める。両腕で瑠夏にしがみついたまま、俺は自分のものが昇り詰めていくのを感じていた。

「ん、はぁっ……瑠夏、も、う……っ!」
「あぁ、ボクも……そろそろだ……!」

中を何度も抉られ、容赦なく感じる場所を擦られる。同時に前を扱かれると頭が白く弾け、自分の腹へと白濁を撒き散らした。瑠夏も俺を深く貫き、最奥へとその熱を注ぐ。ぐったりベッドへ身を預ける暇もなく、出したばかりだというのに固さの失われれていないそれは俺の中でまたゆるゆると動き始める。

「あっ、瑠夏、少し休ませ、ん、あ……っ」
「駄目だ。あれだけボクを煽って、休めるなんて思わないでくれよ、JJ?」



そしてその言葉の通り、瑠夏は底なしの欲望で俺を抱いた。互いに何度も熱を吐き出し合い、ようやくその行為が終わるころには俺の意識は朦朧とし、今にも沈んでいきそうな程だ。瑠夏は俺を抱き締めながら、優しい仕草で髪を撫でてくる。先程の獰猛さはすっかりなりをひそめていた。俺はその胸に擦り寄るようにして、半ば夢の中に居るような意識で、言いそびれていた言葉を口にする。

「瑠夏……誕生日、おめでと、う……」
「……うん、ありがとうJJ……愛しているよ」
「ん……俺も、愛……し……」

つられるようにして口にした言葉は、襲ってきた眠気に負け最後まで言葉にはならなかった。それでも瑠夏には伝わったらしく、優しく口付けると、唇が触れ合いそうな距離のままやわらかい声で囁く。

「おやすみ、JJ……」

それに返すより早く、俺の意識は闇へと沈んだ。高い体温に包まれながら、俺は夢も見ない程に深く眠る。
来年もこうして瑠夏の腕の中で眠りたいなどと、夢うつつに考えながら。