触れるsentiment

「おいJJ、質問に答えろ」

いつもと変わらない無愛想な声が俺の耳へと響く。しかし俺はその言葉を聞くどころではなかった、目の前で顰め面をしている男が俺に覆い被さってきているからだ。
瑠夏から頼まれた依頼を2人で片付けてきた帰り霧生の運転する車に揺られていると、外の景色が見慣れないものになっていくことに気付いた。霧生に尋ねてみても「少し遠回りをする」とそっけない答えしか返ってこず、まぁ好きにすればいいと放っておいたのがまずかったようだ。人通りの少ない路地に車を止めた霧生は、自分のシートベルトを外すと唐突に俺に覆い被さり、流れるような動作でこちらのシートベルトも外しシートを倒してくる。咄嗟に懐へ手を入れたがその腕を取られ、逆の手ごと抑えつけられた。体格はそう変わらない相手に覆い被さられてしまえば思うようには動けない、ただでさえこの車内は広いわけではないのだから。

「霧生、何のつもりだ……」
「いいから答えろ、お前は……」

やたらと覚えのある場面だと思った、キングシーザーへと足を踏み入れたその日、似たような問いかけをされた事を思い出す。またこいつは愛しのボスのことで暴走でもしているのか、流石にまた好き勝手殴られるのは御免被りたい。抑えられている腕を解こうとするがその力は少しも緩むことはない、そういえばこいつは過去に警察だった時期があったと聞く、ならこうして暴れる相手を抑えつけるなど訳ないのだろう。
霧生の表情を見れば、そこに浮かぶのはあの私刑の時のような狂気ではない。何かに耐えるような、苦しげな表情だ。

「お前は……その……」
「おい霧生、聞きたいことがあるならさっさとしろ、腕が痛い」
「……っ、お前は、ボスをどう思っている!?」
「……は?」

どう、と言われても、瑠夏は瑠夏だろう。こいつは一体何が聞きたいんだ。俺は質問の意図を探るように霧生の目を見据える。よく見れば奴の頬は薄く染まっており、ようやく俺は霧生が何を問いたいかに気付く。こいつが瑠夏をどう思っていようが自由だが、そこに俺を組み込むのは止めてくれ。

「……どうも、こうも、瑠夏はキングシーザーのボス、つまり俺たちの上司だろう。それ以外何とも思っていない」
「正直に答えろJJ!」
「正直に答えただろう……しつこいぞ」
「なら、どうしてお前はボスに……!」
「……?霧生……?」

歯を喰いしばり目を伏せる霧生、こいつのこんな表情をいつかも見た。俺達3人が妙な関係を持つようになってすぐの頃、瑠夏の問いかけに霧生は似たような表情を浮かべながら頷いていたのを思い出す。 その時も今もこいつが何に対して苦しんでいるのかはわからない、わからないが、どうしても放っておく気にはなれなかった。1度とならず肌を重ねた相手だからだろうか。
あれ以降俺は2人同時に求められる夜が幾度もあり、その上瑠夏の求めも頻繁になっていた。霧生もだが瑠夏も何を考えているのか、逆らわない俺も俺だが。
俺の腕を掴んでいる霧生の手に力がこもる、痛いと言ったのが聞こえなかったのかこいつは。

「どうして……っボスに、抱かれるんだ……!」
「……一緒になって俺に無茶苦茶してる奴の台詞じゃないな」
「っ、それは、その……違う!」

違わないだろう、と突っ込むのも可哀想なうろたえっぷりだ。やたらと霧生をからかいたがる石松とパオロの気持ちがわかるような気がする、こいつの反応は露骨で、見ていて面白い。つい小さく笑いを漏らすと、霧生は咳払いをしてからまた俺を睨みつけてくる。

「違う……JJ、お前は……ボスだけにも、抱かれるだろう」
「……まあ、瑠夏は隠す気がなさそうだからな……気付かれていない訳はないか」

しかし元々気の多い瑠夏の性格は、霧生の方が俺以上にわかっているはずだ。今更いちいち誰に手を出したの出さないのと追及したところでどうしようというんだ、というかこいつはそれを確認するためにわざわざこんな人気のないところに来て俺を拘束してるのか?キングシーザーの幹部ともあろう奴がいくらなんでも暇すぎるだろう。

「聞きたいことはそれだけか?なら手を離せ」
「まだだ!最初の質問に答えていないだろう!」
「最初の……?瑠夏をどう思っているかなら、答え、」
「なんとも思っていないというならどうしてボスに体を許すんだ!どうして……っ!」
「おいきりゅ、ん、う」

腕をギリッと締め上げられ流石に文句を言ってやろうと口を開いた矢先、霧生が無理やり唇を重ねてきた。そのまま舌を差し入れ、がむしゃらに口腔を貪ってくる。息もつけない程の激しい口付けからようやく解放されると、俺は酸素を求め喘ぎながら霧生を睨みつけた。

「なん、なんだ……はあっ、お前、は……」
「っ、はぁ……」
「霧生、よせ……!」

霧生は俺のベルトを抜くと、それで両腕をシートのヘッド部分に固定してくる。そうして自由になった両手で俺の服を脱がせ、露わになった肌へ手を這わせた。身を捩り抵抗するが少しも効果はなく、霧生は的確に俺の感じる場所へ指や舌で触れてくる。

「っ……霧生、やめ、ん、あ……」
「…………」

胸の突起を舌で弄りながら腹部をなぞっていた手をさらに下げていき、少し昂ぶり始めてしまっている俺のものを布越しに撫でた。びくりと体を固くした俺を見て霧生はまた唇を重ねる。今度の口付けは俺を宥めるように落ち着いたもので、優しく絡ませられる舌の動きに俺は体の芯が溶かされていくような気がした。
糸を引きながら離れていくその唇の動きを目で追ってしまう、その視線を上げ霧生を見ると切なげに、それでも欲情を隠せない瞳が真っ直ぐに俺を射抜いてくる。ぞくりと、肌が粟立った。

「JJ……」
「……待、て、霧生……なら俺も、お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと……?何だ?」
「お前こそ……どうして俺を抱くんだ。俺のことを鬱陶しがっていただろう」

それは純粋な疑問だった。しかし今まではなるべく自分からその話題を振りたくなかったことと、どうにも問うタイミングが掴めなかったことから霧生にその疑問をぶつけたことはない。でもこの際だ、はっきりさせておきたかった。
瑠夏を好きなはずの霧生が俺を抱くのは瑠夏への当てつけなのかと思っていた、しかしそうならここで俺を組み敷く理由はないはずだ。優しく口付けを交わす必要などないはずだ。

「――っ……俺は……」
「瑠夏への当てつけのつもりなら無駄だ、あの男はそういうことを気にする性質じゃないだろう」
「違う!ボスは関係ない!」

霧生は強い口調で俺へ言葉をぶつけてくる。当てつけじゃないとすれば何だ、俺への嫌がらせのつもりなのか。しかしそうならこいつが時折浮かべる苦しげな表情の説明がつかなくなる。

「なら何だっていうんだ……お前の態度も行動も、わけがわからないぞ」
「それは、その……い、今言うことじゃない!」
「じゃあ、いつなら……っあ、おい霧生、まだ話が、んっ!」
「話なら、後だ……っもう待てない」

霧生の息が肌へ触れる、中途半端に昂ぶっていた体はその刺激にすらぶるりと震えてしまう。霧生も待てないと言っていたが、俺もすっかり与えられる刺激を待ち望んでしまっているようだ。熱い舌が突起をねぶり、逆の突起を手で弄られる、もう片方の手は俺のズボンの前をくつろげ中のものを取り出し性急に擦り上げてくる。霧生の両手と舌が同時に与えてくる苦しい程の快楽に、俺はなすすべもなく飲み込まれてしまう。

「ん、あ……っ、やめ、ろ、あっ……!」
「JJ……気持ちいいか……?」
「あっ……一々、聞くな、ん、あ!」
「……気持ち、いいんだな」

片方の突起から手を離し俺の下着とズボンを一気に足から抜くと足を抱え上げ、俺のものに触れていた手を後ろへと移した。先走りで濡れた指が周囲をゆるくなぞりながらゆっくりと入り込むと、霧生の長い指が俺の中を探るように動き、時間をかけて指を増やしながらそこを解していく。丁寧すぎる抱き方に、俺の方がたまらなくなってしまう。
拘束されている手を無理やり外そうとするがベルトは緩む気配もない、一体どんな縛り方をすればこうなるんだ。

「おいJJ、暴れるな」
「なら、手を外せ……っ、もう……あっ!」

昂ぶっているものがびくびくと震える、それはどうしてか、後ろを解している霧生の指の動きだけで達してしまいそうになっていた。それくらいなら自分で触れた方がマシだと思い手の解放を願う、霧生に後ろだけでイカされるなんて絶対に御免だ。

「っ……JJ……お前……」
「あ……っ!やめ、っ!やめろ、霧生……っあ、ああぁ……!」

俺の反応を見た霧生はゴクリと唾を飲み込み、中を抜き挿ししている指の動きを激しくする。すでに限界だった俺のものは、その刺激に耐えられず勢いよく熱を吐き出す。腹や胸へ落ちていく白濁を、俺は羞恥と悔しさの入り混じった気持ちで眺めていた。
いつかは霧生に触ってくれとねだったが、霧生はいつの間にこんなに的確に俺の感じる場所を把握していたのか。あのときは触れられなければ達することが出来なかったのに、今回は後ろへの指の刺激だけで昇り詰めさせられてしまった。

「霧、生……もう止め……ん、あ……!」

達したばかりの体へ、後ろを抜き挿ししている指の動きも激しいまま、また霧生が指や舌を這わせてくる。体に落ちた白濁を舐めとるように舌が動き、空いている手が今度は直接俺のものを握り込みゆっくりと上下させた。
霧生はどうしてこんなに丁寧に俺を抱くんだ、瑠夏と同時に求めてくるときは性急で余裕のない抱き方をするくせに。もどかしさに体が揺れてしまい、シートや縛られたベルトがギシギシと音を立てる。こうなると両手が括られているのは逆に良かったかもしれない、もし自由だったとしたら今頃目の前の奴にしがみつき、さらなる刺激をねだってしまっていたかもしれないから。
後ろから指が抜かれカチャリと霧生のベルトが外される、それだけで俺の体は期待に震えてしまった。すっかり昂ぶってしまっているものが丁寧に解された場所へとあてがわれ俺を気遣うようにゆっくりと入り込んでくる、俺の体は待ち望んでいたそれを貪欲に飲み込んでいった。

「あぁ……あ……」
「く……JJ……」

すんなりと霧生のものを全てを飲み込み、俺は深く息を吐いた。霧生は苦しげな息を吐きながら俺の腕を戒めているベルトを外し、動きを止める。その表情を見てしまうと、駄目だった。こいつが苦しげな表情をすると、俺はどうしてもそれを無視出来なくなってしまう。自分は薄情な方だと思っていたが、キングシーザーの奴らに影響でもされてきているのだろうか。
そろそろ、と、霧生の背中へ手を伸ばしそこへしがみつく。そんな俺の様子を見て霧生は目を丸くした。

「J、J……?」
「……っ、いいから、早く……動け」
「し、しかし……」
「今更気遣うな……ぁ、霧生、早く……っ」

俺の言葉に煽られるようにして霧生が抽挿を始める、最初こそまだ戸惑うようだったが、すぐに動きはペースを上げていく。車内に響く粘つく水音、それにどんどん抑えられなくなる俺の喘ぎが混ざっていった。

「あ、あ……っ、はぁ……あっ」
「っ……は、JJ……!」

ずっと耐えていたものをぶつけるかのように、霧生の揺さぶりは激しさを増していく。熱い塊が中を擦り上げるたび、背筋を痺れさせるような快楽が俺を襲い、俺はもう羞恥も忘れその背中へ縋りつく手に力を込める。何かにしがみついていなければどうにかなってしまいそうだった。

「あっ……霧生……っ!」
「JJ……JJ……!」

張り詰めている俺のものを握り込み擦り上げながら、深い抽挿を繰り返す霧生。こいつもそろそろ限界が近いのか、表情には少しの余裕も感じられない。そのまま互いに昇り詰め、俺は霧生の手の中へ熱を吐き出す。後を追うように、霧生も俺の中へ熱を注いだ。
荒い息を吐きながら、また唇同士が重なる。俺は達したばかりのぼんやりとした思考のまま、それを受け入れた。








その後互いに慌ただしく身なりを整え、キングシーザーの屋敷へと戻った。気恥ずかしさや気まずさで、着くまでの間俺たちが会話を交わすことはなかった。霧生は別件があるため、仕事が終了した報告は俺だけで向かうことになってしまう。本人からすればボスに褒められる機会は逃したくなかっただろうが、時間が押していたためどうにもならなかったようだ。俺にあんなことをしていなければ充分間に合ったと思うのだが……と考え軽く頭を振った。仕事の報告に向かう時に思い出すようなことではないだろう。特に相手はあの瑠夏だ、どこで勘付かれからかわれるかわかったものじゃない。
気を取り直し、重厚な扉をノックする。「JJだ」と告げると中から瑠夏の声が返ってくる。それを受けて扉を開くと奥の椅子に腰かけながら、何やら書類を片付けているらしい瑠夏が俺へ笑顔を向けた。

「やあおかえりJJ……と、霧生は?一緒だっただろう?」
「別件とやらで、またすぐ出て行った……慌ただしくな」
「そうか……まあいい、報告を聞くよ、頼めるかい?」
「あぁ……」

言われた通り済ませた仕事の報告を始めるが、どうにも瑠夏の視線が気になってしまう。真っ直ぐに俺を見つめる瑠夏の目は妖しい光を宿しているように感じる、先にあった霧生とのことでそんな風に考えてしまうだけだろうか。報告が終わった途端俺は気まずさから視線を逸らしてしまい、すぐ今の反応は露骨だったかと後悔する。これでは自分からやましいことがあると言っているようなものではないか。

「うん、ありがとう……あぁそうだJJ、ちょっとこっち、来てもらえるか?」
「……?あ、あぁ……」

手招きをされ瑠夏の机へと近付いていく、正面に立とうとした俺に瑠夏はさらに近付くよう命じ、仕方なく机の後ろへと回り瑠夏の横に立つ。一体なんだというんだろうか。

「瑠夏、何だ」
「素直だなJJ……ほら、ここにおいで」

グイッと腕を引かれ、瑠夏の膝の上へ座らせられる。焦って立ち上がろうとする俺の腰をその腕で抱え込むと、後ろから抱き締める体勢のまま耳元に息を吹きかけてきた。ぞくりと肌が粟立ち、俺は瑠夏の持つ空気が変わっていたことにようやく気付く。先程瑠夏の瞳に見た光は、やはり気のせいではなかったのだ。

「おい瑠夏、何、っ」
「んー?……なあJJ、キミから霧生の匂いがする」

びくりと肩が揺れ、俺はつくづく嘘のつけない自分の性格を呪った。すぐ傍から瑠夏のからかうような笑い声が聞こえて、舌打ちしたい気持ちをどうにか抑え込む。瑠夏は俺の服の袖をたくし上げ、そこに残る赤い跡を指でなぞった。どうやらこの男は目ざとくこれを見つけていたらしい。

「無理矢理?それとも、そういう趣向だったのかな」
「っ……瑠夏、放せ……」
「ははっ、恥ずかしがることはないだろう?ボクらも今度やってみようか」
「違う、無理矢理だ!……変な勘違いしないでくれ」
「へえ……無理矢理だったのか。でもJJ」

瑠夏の舌が俺の首筋を舐め上げてくる。先程まで昂ぶっていた体はその刺激だけでまた熱を持ち始めてしまう、瑠夏から逃れようと身を捩るが、腰を抱える腕が緩む気配はない。

「瑠夏、放せっ」
「本当に、最後まで無理矢理だったのか?キミから霧生に縋ったりは、しなかった?」
「っあ、止め……っ」
「キミからねだったりは、本当にしなかったのか?」

耳を甘く噛まれ、ぞくぞくとした感覚が背筋を走っていく。腰を抱えているのとは逆の手が服の前を開いていき、俺はうまく力の入らない腕でそれを押し留めようとするがあっという間に肌を露わにされてしまう。すでに立ってしまっている突起を指で押しつぶされると、さっきよりもダイレクトな刺激に背中が仰け反った。

「ん、あっ……!」
「霧生に可愛がられた後だからかな……いつもよりずっと敏感だ」
「や、め……んっ、瑠夏……!」
「なあJJ、自分から霧生を求めたんだろう?」
「違、あ、あ……」

瑠夏の指はどんどんと位置を下げていき、ベルトを外し下着の中に手を差し込むと、すでに勃ちあがり始めていた俺のものを焦らすようになぞる。

「もう濡らしてる……よっぽど霧生とのがよかったみたいだね」
「瑠、夏……っ、本当に、もう止め……ぁあっ!」

昂ぶったものを強く擦られ、あられもない声が上がる。瑠夏に言われた通り、俺の体は霧生との行為の後の所為かいつもよりずっと敏感になってしまっていた。瑠夏に擦られるたび先走りが飛び、今にも達しそうになる。しかし瑠夏は指で俺のものを締め付け、達することが出来ないようにしてしまう。びくびくと体が震え、絶頂の直前の感覚が出口を求め体中を暴れまわる。

「っあ……!あ、瑠夏……っ手を、放して、く、れ……っ!」
「正直に言えたら、ね。JJ、自分から霧生に抱いてくれってねだったのか?」

腰を押さえている手が外されまた胸の突起を弄ってくると、体の中を暴れまわる快楽の量が増した。俺は瑠夏の質問に首を振る。

「じゃあ、本当に最初から最後まで、無理矢理だったっていうのかい?」

おかしくなりそうな快楽を抱えながら、俺はその質問に戸惑いがちに首を振った。最初こそ腕を縛られ無理矢理求められていたが、腕を解かれたとき俺はそれを霧生の背中へと回した。しがみつき、「早く」とねだった。熱に浮かされていたようなものだったとしてもそれは俺の意思で行ったことだ。

「我慢できずに、ねだった?」
「っ……瑠夏、もう……」
「駄目だJJ、答えないとこのままだよ?」
「――っ……!」

半ばやけになりながら何度も頷く、耳元で小さく笑った瑠夏は「よくできたね」と楽しげに呟き、指の締め付けを解くと強く抜き上げてくる。俺はびくびくと体を跳ねさせながら熱を吐き出した。焦らされた分絶頂が長く続き、ようやく終わるころにはもう逃げようとする気力すら失っていた。

「はぁっ……は、あ……」
「ほらJJ、次は僕の番だろう?」
「なっ……待て、っ!」

俺を抱えたまま瑠夏は立ちあがり、机の上へと俺の体をうつ伏せに倒した。先程まで瑠夏が見ていた書類が崩れ、机一面へとバラバラに広がっていく。いくつかは俺の体の下でグシャグシャに潰れてしまっていた。

「お、い、仕事の書類じゃない、のか」
「そんなの、コピーし直せば済む話さ。それより……ボクに集中してくれ、JJ」
「瑠夏っ、止め、っあ!」

瑠夏は後ろから俺へ覆い被さるとズボンと下着を膝までおろし、性急に指を挿し入れてくる。そこは霧生との行為の名残でまだ柔らかく解れており、瑠夏の指をすんなりと飲み込んでいく。すぐに指が増え中をかき回されるが痛みはなく、代わりに体はどんどん快楽を拾って行ってしまう。

「ああ、大丈夫そうだね……霧生は、キミを優しく抱いたんだな」
「瑠、夏……アンタ、っ、今日は……ぁ」
「ん?何だJJ」
「やけに、霧生のこと……っ、気に、するんだな」

霧生は瑠夏の事をどう思うのかとしつこく問い詰めてきたし、瑠夏は瑠夏で霧生との行為を細かく俺に言わせようとしてくる。どうしてこいつらは間に俺を挟もうとするんだ、もし互いに好き合ってるんだとしても、ならそこに俺が居る必要はないはずだろう。

「ふふっ……だって、キミが霧生にどんな風に抱かれたのか気になるじゃないか」
「アンタ、は、いつも、っ、見てた、だろ、あぁっ!」
「違うよ……だって今日は、そこにボクが居なかっただろう?」
「っ……?」

今の言葉だけは、少し調子が違って聞こえた。机に突っ伏している状態なので瑠夏の顔は見えないが、声のトーンがわずかに変わったように感じて俺は言葉を詰まらせた。途端瑠夏は指を抜くと、ベルトを外した音のすぐ後熱い塊でいきなり俺を貫いてくる。痛みはないが強い圧迫感に、俺はうまく呼吸が出来なくなってしまった。

「キミがどんな風に乱れて、喘いで、求めて、ねだったのか……知りたいよ」
「っ……なこと、知りたがる、な……ん、あ……」

全てを埋めた瑠夏は休む間もなく動き始めた。背中に口付けを落としながらも、激しく俺を求めてくる。いつもの瑠夏の求めも激しいが、今回のは性急で余裕がない求め方に感じた。俺は肩に置かれた瑠夏の手へ、どうにか自分の指先を触れさせる。激しくも優しく抱かれることに慣れてしまった俺は、いつもと違う抱かれ方に不安になってしまったのかもしれない。だから、自分から瑠夏の体温を求めた。

「っ……JJ……?」
「瑠、夏、がっつき、すぎ、だ、あっ、あ……!」
「そう、かな……?」
「も、少し、ゆっくりに、っあ、して、くれ、んっ!」
「……そうだな……ごめん……」

抽挿のペースが少し緩やかになると、ようやく俺はまともに呼吸を継げるようになった。荒い呼吸が幾分か落ち着いたころ、瑠夏は突然中から己のものを抜き俺を抱きかかえると、椅子に座りその上へと跨らせた。そうして今度はゆっくりと、俺の腰を沈めてくる。

「あ、あ……っ、ん……!」
「JJ……」

すんなりと全て飲み込んだ俺を、瑠夏はぐいっと抱きよせた。すっかり嗅ぎ慣れた甘い蘭の香りに酔うように頭がくらくらする、瑠夏の少し高めの体温に魅かれるように首へと腕を回すと、それでようやく瑠夏はいつも通りの優しい笑いをこぼした。

「は、ぁ……今日は瑠夏も霧生も、一体何だっていうんだ……」
「霧生が、どうかしたのかい?」
「アンタをどう思ってるのかって、しつこくてな……」
「へえ……霧生が、ね……それだけ、キミに本気ってことだ」
「は……?何言ってるんだ、あいつは瑠夏、あんたにご執心だろう」

俺の言葉を受けた瑠夏は目を丸く見開いた後、俺の肩に顔を埋めながら堪え切れないといったように笑い出す。俺は自分の発言が笑われてることがわかり、一体何がそんなにおかしいのかと瑠夏に問いかけてみる。ひとしきり笑って気が済んだらしい瑠夏は俺の頬を優しく撫でながら口を開く。

「そうだった、キミは自分のことになるとやけに鈍いんだったね」
「は……?」
「キミのアモーレが、キミのことをどう思っているのかにも気付いていなかったみたいだしね」
「梓のことか……だから瑠夏、何度言ったら、」

俺の言葉が終わる前に唇を重ねられ、そのまま深く口付けられる。舌が絡まりあい慣れた風に俺の口腔を犯しながら、瑠夏は下から俺を突き上げてきた。

「んうっ……は、あっ!」
「なあJJ、ボクはキミが好きだよ」
「んっ、ア、ンタは……っ、ファミリーの、あっ、皆が、好きなんだ、ろ……っあ」
「そうだな……うん、もうしばらくはこのままでいようか、JJ」
「この、まま……っ?」
「でも……キミが、もし霧生だけを選ぶなら……」

肩口に唇を寄せた瑠夏は、さながらライオンが獲物を捕食するかのようにそこへ強く噛みついてくる。痛みに顔を歪めるが、突き上げられた時の快感がその感覚に勝りすぐ瑠夏との行為に飲まれていってしまう。激しく俺を揺さぶりながら、瑠夏は俺のものへと手を添え強く擦り上げる。瞬間、頭が真っ白く染まるような快感の波が襲いかかり、俺は中を埋めている瑠夏のものを締めつけながら喘いだ。

「あ、ああっ!駄目、だ、瑠夏……っ、もう……!」
「あぁ……ボクも、限界だ……っ」

瑠夏はギリギリまで俺の腰を浮かすと、そのまま深く貫いてくる。俺はその目が眩むような衝撃に、瑠夏の胸や腹へ白濁を撒き散らしてしまった。同じ動きがもう1度繰り返され、瑠夏も俺の中へと熱を注ぐ。ぐったりと瑠夏へ体を預けると、髪をくすぐるように弄りながらまた瑠夏は口付けを落としてくる。啄ばむように数度唇へ触れた後、それは深いものへと変わっていく。

「ん、う……はぁ……ん……」
「……ん……なぁJJ、ベッドへ行こうか」
「お、い、もう無理、だ」
「だってボクはまだ満足してないよ、付き合ってくれるだろ?JJ」
「……どうせ、断っても無駄なんだろ」
「よくわかってるじゃないか」

ふらつく身体を瑠夏に支えられながらどうにかベッドへ辿り着くと、すぐ瑠夏は俺へ覆い被さってくる。そうして今度は、優しく俺を溶かしていく。

「あっ……ん、あ」

もうしばらくはこのままでいようと言った瑠夏の言葉を思い返す。それはこの3人の関係のことだろうか。2人が俺を激しく求め、それをどうしてか拒むことの出来ない、奇妙な関係。霧生が苦しそうな表情をすると、瑠夏が余裕のない声を出すと、俺は2人に触れたくなってしまう。それが一体どんな感情なのか今のところ適切な言葉は見つからず、どちらの手も離せないままだ。まるで離れがたいとでもいうように。

何かを決める時など来なければいい。そんなことを、俺は溶かされていく思考の中で願った。