チョコのお返しは苦い程甘く

瑠夏・ベリーニとの奇妙な邂逅の一ヶ月後、俺は見覚えのある屋敷の門の前に立っていた。あの日、甘く苦いチョコレートの味と共に交わした約束を守るために。
男の姿はすぐ見つける事が出来た、丁度出掛けるタイミングと重なったようで門の所で車に乗り込む様子の瑠夏に声をかければ、驚きもせず「いらっしゃい、JJ」と俺に微笑みかけてきた。来ないなどと欠片も思っていなかったという表情だ、一度しか……その一度で充分という程の濃密な時間を過ごす羽目にはなったが、ともかくそれでも、相変わらず自信に溢れた男だと感じる。

「でも、もう少し遅く来てくれれば嬉しかったな。今からほんの少しだけれど屋敷を空けなければいけないんだよ」「……出直した方がいいなら、そうするが」
「いや、屋敷の人間には話を通してあるし、そのまま中で待っていてくれ。ボクが戻ってから正式に皆へ紹介する、勿論その前に交流を深めてくれていても構わないよ」

瑠夏達はマフィアと聞いていた、つまりここに住まう奴らもそうなのだろう。それならば、俺のような得体の知れない奴と交流を深めたがる輩など居ないように思うのだが。それともこの人懐っこそうな瑠夏がトップを務めるような組織の連中だ、皆この男と同じようにやたらフレンドリーなのだろうか。それはそれでうんざりする程に望ましくない事態だ、自分はこれからそこに身を置かなければいけないのだから。
溜息を吐きそうになった所で、ふとこの屋敷へ初めて足を踏み入れた時感じた蔑みの色を思い出す。そういえば露骨に不快そうな表情を浮かべていた男も居た、名は何といったか、はっきりとは思い出せないが。同時にその時感じた嗜虐心を思い出し、俺は少しだけ口角を上げた。瑠夏が居ないのならば、その男を少しからかってやるのもいい。出掛ける瑠夏を見送り、俺を案内するという男について屋敷の中へ足を踏み入れた。そのまま、以前瑠夏に腕をひかれ入った部屋へ通される。

「ボスからは、ここでお待ち頂くようにと」
「わかった……しかし、瑠夏が戻るまで俺はここに閉じ籠ってないといけないのか?」

俺が「瑠夏」とその男のボスを呼び捨てにしたからか、少し不快そうに眉が寄った。しかしそれを態度には出さず「出歩く際は、自分をお呼び頂ければ」と慇懃に告げると部屋から出ていってしまう。が、ドアの向こうに人の気配があるのでそこで見張っているのだろう、ギスギスした空気を漂わせながら屋敷を散策するよりはここに閉じ込められていた方がいくらかマシだ。俺は金のかかっていそうなソファーへ遠慮なく腰掛けると目を閉じる。そうすると、以前も嗅いだ甘い香りが鼻孔をくすぐった。あの日屋敷を出た後も嫌というくらい身に纏わりついていた、瑠夏の香りが。
それが呼び戻すのは、あの日同じく嫌という程に与えられた快楽だ。激しい行為の後意識を落とし、しばらくして眠りから覚めた俺を瑠夏はまた好きなように抱き、この身にその香りと温度を……快楽を覚えさせてきた。二度目の行為で理性を失うことこそなかったが、翻弄されてしまった事に変わりは無い。
あの男の余裕を崩してやりたいと、ふらつく身体をどうにか支えながら屋敷を出た事を覚えている。こうして瑠夏の下で飼われる事になったのだ、常に飢えているような獣にまた求められることもあるだろう。主導権を握られたままには、決してしない。

「……っ」

ドアの外からの喧騒に、沈みかけていた意識は一気に浮上した。ここ数日碌に眠れていなかったからか、いくらこのソファーの座り心地が良かったとはいえこんな風にまどろんでしまうなんて。はっきりした五感は先程俺を案内した男の声を聞き取った、誰か、新たに来た男と何か言い争っているようだ。心なし、もう片方の声にも聞き覚えがあるように思う、とはいってもドア越しの籠ったような声だ、ただの気のせいかもしれないが。
しばらく続いていたそれがようやく治まったかと思えば、荒々しくドアが開かれた。視線だけをそこへ向ければ、見覚えのある薄茶の髪が目に入ってくる。

「……貴様、本当に来たのか」
「…………」
「おい、何とか言ったらどうだ」
「……………………」

姿を見れば思い出すかと思ったが、やはり名前ははっきりと出てこなかった。その時の会話をぼんやり頭に思い浮かべてみても、名前の部分だけノイズがかったようになってしまい、面倒になり記憶を手繰るのを放棄する。
まぁ、名前くらいわからずとも会話は可能だろう。丁度退屈していたところだ、機会があればからかってやりたいとも思っていた奴がノコノコやってきてくれたのだから、これを逃す手は無いだろう。

「会話をしたいんなら、そんなところに突っ立ってないでこっちに来たらどうだ」
「……余所者が、随分な態度だな」
「残念ながら、今日からは余所者じゃなくなる。お前が納得しようがしまいがな」
「――っ!!」

笑みを含んだ声でそう口にすれば、男は俺に向かって大股で歩み寄り襟元を乱暴に掴んできた。表情を見ればそれでも精一杯怒りを抑え込んでいると言った様子で、眉間にはわかりやすく皺が寄っている。
想像通りの反応だ、組織を、自らのボスを敬愛し異分子を許せない「正しさ」をもった男。だがこうしてすぐ感情を表に出してしまう所を見ると、ただ従順なだけではなく上が手を焼いている激しい部分もありそうに思う。まぁ、俺の知った事ではないが。
俺の服を掴んでいる手へするりと指を添えれば、びくっと過剰な反応をした奴は慌てて放そうとする。それを許さず逆に腕を掴むと、自分もソファーへ倒れ込みながら男を上へ覆い被せた。

「なっ……!離せ!」
「退屈していたんだ、暇つぶしに付き合え」
「何をする気だ、っ、おい……!」

嫌悪、怯え、汚いものを見るようなその瞳、もしかすると俺の事について調べたのかもしれない。情報や金と引き替えに自分の身体を売るような人種だと軽蔑している事を、男の視線はありありと伝えてきた。
だからこそ、そんな俺にこうされるのはこの男にとって何よりの屈辱だろう、離れようとする奴のネクタイを掴み引き寄せると首筋に舌を這わせる。暴れていた身体はその刺激に固まり、その反応を受け俺は体勢を入れ替えると素早く掴んでいたネクタイを解き、それで男の手を括った。

「止めろ……っ!」
「お前がおとなしくしているか、開き直ればすぐ済む」
「どっちも断る!っ、おい……!」

上に圧し掛かったままワイシャツのボタンを外し、鎖骨に唇を触れさせる。部屋に香っていた甘い蘭とは違い、鼻を触れさせた首筋からは石鹸と汗の匂いがした。その匂いは妙に俺を興奮させ、少しからかってやるだけにするはずが、どうにも治まりがつきそうにない。

「随分ウブな反応だな、慣れてないのか?」
「慣れてるわけ、あるか!」
「その様子じゃ……お前、童貞か」

俺の発言に奴は顔を真っ赤にし更に暴れ出す、そんな露骨な反応を返されると、半ば冗談のつもりだった言葉が正解だとわかってしまうのだが。気に食わないとばかり思っていたが、なかなか愉快な男かもしれない。
暴れる身体を抑えつけながらズボンの前を布越しに撫でてやれば、少し張り詰めたものの存在を感じる。こいつも何だかんだ言いつつこの状況で興奮してしまっているらしい、耳までを赤く染めている奴のベルトを外し、前をくつろげ頭をもたげているものを取り出した。

「貴様、いい加減に……っ」
「ここまできたら、お前も引っ込みがつかないだろう?気持ち良くしてやるからおとなしくしろ」

尚も暴れようとする奴をどうなだめようかと思案し、ゆるゆると扱いていたものを口で咥える。両腕が縛られているにもかかわらず器用に身体を起こした奴は俺の頭をどかそうとするが、舌を這わせ先をぐりと刺激してやるとその指は髪をくしゃりと力なく掴んだ。

「っ、く……は、止め、ろ……っ!」
「んぅ……すぐイきそう、だな……ふ……っ」
「んっ……!おい、本当に、もう……」

苦い味が舌の上に広がる、強くなる雄の匂いに俺の身体は触れられてもいないのに熱を上げていく。早くこれで後ろを埋めて欲しい、奴のものを支えているのと逆の手で自分のベルトを外しズボンと下着をずらした。一度離した口腔で指を濡らすとそれを後孔に埋め、また奴のものを咥えながら性急な動作でそこを慣らしていく。

「な、にを……っ、はぁ……っ、も……離せ……っあ!」
「んぐっ……ん、く……っ」

俺のその行動をどう思ったのか知らないが、奴は離せと言いながら俺の口腔へ自らのものを押し込むと、喉の奥へどろりとした液体を勢いよく吐き出した。やたらと絡むそれを唾と共に飲み込み、視線を上に向ければ奴は荒い息を吐きながらぐったりとした様子で目を伏せている。手の中のものは未だ固さを保ったままだ、おとなしくなったのならば好都合だと、自らの身体をその上へのせた。

「……お前、名前は何だ」
「は、ぁ……貴様、名も知らない相手に、こんな……」
「今聞いただろう、さっさと教えろ」

俺の問いかけに「……霧生、礼司だ」と不服そうに答えた奴……霧生は、その瞳で戸惑いながらも熱っぽく俺を見つめてくる。ぞくぞくと、熱は更に量を増していった。後孔を昂ぶりへ擦りつけ、戯れに「礼司」と呼びかけると男の腰が押しつけるように動く。ぐちゅ、と先が入り込み、欲しがるようにそこは男のものを締め付けた。そのまま一気に腰を下ろそうとした所で、背後のドアが開く音がする。俺も驚いたがそれ以上に過剰な反応を見せたのは霧生だ、先程まで赤らんでいた顔はすっと血の気を失いいっそ青く見える程になり、身体は固く強張ってしまっていた。

「……JJ、に……霧生……?」
「瑠夏、か……遅かったな」
「あ……っ、ボス、これは……っ!」

俺の身体を押し返そうとする奴の反応が気に入らず、手をソファーへと押さえつけるようにして組み敷くと焦った様子の霧生が睨みつけてくる。ここまで見られてしまったのなら今更誤魔化そうとしても無駄だろう、瑠夏を無視して霧生のものへ手を添えながらぐっと腰を落とした。

「止め、ろ……!JJ!」
「何だ、俺の名前を知っていたのか……礼司」
「名前、を、呼ぶな……っ、どけろ!」
「随分な言い草だな……っ?」

甘い香りが濃くなる、背中に熱を感じまさかと思った次の瞬間には腰を抱えられ、自分の意思とは関係なく霧生のものを深く咥え込まされてしまう。

「あ、ああっ……!」
「っ、く……ボ、ボス、何を……っ」
「流石に、ここで止めさせるのは酷かなと思ってね」

あっけらかんと言ってのけた瑠夏は、そのまま俺の服の前を開くと胸に手を這わせてきた。突起を摘ままれ、指の腹で転がされるとそこから甘い痺れが生まれ、深く入り込んでいる昂ぶりをきつく締め付けてしまう。霧生の苦しげな呻きを聞きながら、俺は瑠夏の広い胸へと身体を預けた。

「あっ……瑠夏……っ」
「まったく、確かに交流を深めてくれとは言ったけれど……少しやりすぎだよJJ」
「や、あっ、あ……!」

半ば無意識に腰を揺らしながら、瑠夏の手が与えてくる刺激に酔う。ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き、固い昂ぶりが中を何度も擦り上げると自分のものも限界まで張り詰めていった。触れようと両手を伸ばす、が、その手を掬われ後ろ手に括られてしまう。

「なっ……あっ!」
「は、あ……っ、おい、あまり締め付け……っ」

霧生の非難に言葉を返せる余裕は無い、両手を押さえつけているのとは逆の手がゆるゆると俺のものを擦り上げてきた。快楽に頭が溶けていくようだ、もっと激しく中を突かれたくても腕をとられているためうまくバランスがとれず、もどかしく腰を揺らす事しか出来ない。

「き、りゅう……っ、動け……!」
「っ……!」
「ふふ、もどかしいんだろうJJ……もっと気持ち良くなりたい?」
「アンタも、手を離……っあ、ああ……!」

頭が白く染まっていくような感覚、中を埋めているものをきつく締め付けながら果てる直前、瑠夏の手が根元をきつく掴んできた。高まった射精感は治まらないのに、それを吐き出す事は出来ない。

「ひ、ぁ……っ、あ!」
「先に霧生をイかせてあげて。キミは、後でボクが沢山気持ち良くしてあげるから」

そう耳元に囁いてきた瑠夏は俺の腕を解放し、自分の両手を自由にするためか解いたネクタイで俺のものを縛ってしまった。甘い響きの言葉に理性は溶けていく、瑠夏の与えてくる快楽をこの身体は嫌という程に覚えていて、それを早くと欲してしまう。自由になった両腕で身体を支えながら腰を深く上下させ、時折ゆるく締め付けてやると霧生は熱い息を吐き出しながら自らも腰を揺らしてきた。それを見てもう逃げる気は無いだろうと解釈し、拘束していた両手を解いてやる。解放された手は身体を支え起こすと、すぐ俺の腰へと伸びてきた。

「あぁ……!はっ、きりゅ……っ」
「あっ、も、っと……JJ……!」
「馬、鹿……っ、そ、んな、激しく……ひぁっ!」
「はぁっ、気持ち、いい……っ、く」

自分で動けるようになったからか、霧生はがむしゃらに奥を何度も突いてくる。普段ならそれほど快楽を呼ぶような動きではないというのに、今はその激しさが気持ち良くて仕方なかった。
瑠夏の手は俺の身体を好き勝手に這い回る、身体の内側で暴れている快楽は酷くなる一方だ。早く終わらせなければおかしくなってしまうのではないか、もしかするとこの男は俺を壊そうとしているサディストなのかもしれないと、冗談にもならない想像が浮かぶ。

「ん、ぁ……っ、も、霧生、早、く……!」
「あっ、J、J……っ?」
「早く、出せ……あっ、あぁ……っ」

両方の突起を指の腹でぐり、と押され背が仰け反る、耳の中にぬるりと舌が入り込みその刺激からも身体は貪欲に快楽を拾っていった。絶頂に至る直前の快感が続き思わず掴んだ瑠夏の腕に爪を立ててしまう、その痛みを返すように耳を強く噛まれると身体に力が入りまた霧生のものをきつく締め付けてしまう。
腰を掴んでいる指の力が増す、腹の奥が苦しくなる程に深く抉られた後、すぐそこにどろりとした熱を注がれた。

「っあ……はぁ……」
「あ、あ……」

瑠夏が俺の腹に腕を回し自分の方へ引くと、萎えた霧生のものがずるりと抜ける。後孔から生温かいものが溢れ出しソファーを汚してしまい、瑠夏に後で何か言われるかもしれないな、と流れ出したものをぼんやりと見送った。呼吸を乱していた霧生はふと我に返り、慌てた様子で脱げかけの服を整えると足をふらつかせながら危なっかしく立ち上がる。俺とも瑠夏とも目を合わせないよう顔を伏せながら「す、すみませんでした……!」と絞り出すような声で告げた奴は、そのまま逃げるように部屋を出ていった。

「ははっ、また逃げられちゃったね」
「は……?」
「最初にキミを見つけた時も、ボクのせいでキミの相手を逃がしてしまっただろう?」

そういえば、と瑠夏に初めて会ったときの事を思い出す。あのときも今も、確かにこの男が原因で逃げられたことには変わりない。そうでなくとも瑠夏との一件以来あの手の取引は上手くいかなくなり、こうした行為自体久し振りだというのに。もしかするとそれも瑠夏の所為なのではないかと、根も葉もない疑いすらかけたくなる。

「……なら、また責任を取ってくれるのか?」
「今回はキミが仕掛けた事だろう?欲しければ、ボクをその気にさせてごらん」

とっくにその気だろうと、俺の耳にかかる熱い吐息を感じながら思った。腕ごと抱き締められているため昂ぶったものを自分で解放する事も出来ない、これは言葉だけで瑠夏を誘えという事なのだろうか。以前も思った事だが、この男は爽やかな顔をして悪趣味だ。

「今度は、俺に何をさせたいんだ」
「何、って訳じゃないよ。ただ霧生を苛めないでくれって、前に言っただろう?」

それに対する罰という訳か、と理解はするが改めるつもりは欠片もない。欲求不満だった所に絡んできたあいつも悪いのだ、だから思い出した嗜虐心と溜まっていた苛立ちをそのままぶつけるようにして、組み敷いた。

「っあ……!お、い……っ」

すんなりと入り込んできた指を思わず締め付ける、中に残るものを掻き混ぜるように……というよりは、何かを塗りつけるようにその指は動く。今更過ぎるがローションでも使ってきたのだろうか、そう意識すれば瑠夏の香りとは違う人工的な匂いが鼻についた。いよいよこの男のしたい事がわからない、後ろに触れているものは張り詰め、瑠夏はそれを擦りつけるようにして腰を揺らしてきた。その固いものが自分の中に埋められる想像に、ぞくりと肌が粟立つ。

「んっ、あ……瑠夏、するなら、さっさと……!」
「何だか、前より余裕がないね……もしかして、こういうのは久し振りかな」

この男は知っている、知っていてわざとこういう言い方をしているのだ。やはりあの妙に上手くいかなかった取引は裏で瑠夏が何かしら手を回していたのだろう、自分の組織に引き入れることを決めたのだから、これ以上トラブルの種になりそうな事をするなということか。舌打ちしたくなる気持ちを隠し、自ら瑠夏のものを身体に擦りつけるよう動く。

「あぁ、足りない、んだ……ん、早く、アンタをくれ……」
「……誘い方は流石に上手いね……でも、まだ駄目。もっとボクを欲しがるところを見せて」

瑠夏の両腕が離れ、後孔からも指が抜かれた。まだ俺に浅ましく誘ってみせろというのだ、疼きも暴れ回る熱もこのままではとてもじゃないが治まりがつかない、ちまちまとした誘い方ではこの男を長く楽しませるだけになるだろう。
そんなのは御免だと、俺は瑠夏へ後ろを晒すようソファーへ四つん這いになり、後孔に自らの指を埋め込んだ。ぐちゅぐちゅとわざと大胆に抜き挿しをしながら、視線を瑠夏へと向ける。

「は、ぁ……っ、瑠夏、ここに、アンタのが欲しい……んっ」
「っ……」
「指じゃ、足りないんだ……瑠夏ので、俺の中を一杯に、してくれ……あっ、う……」

それがただの誘い文句なのか、自分でもわからなくなっていた。指で中を擦る度募るのは物足りないという感情で、想像するのはひと月前、苦しい程に貪られたあの行為。激しく求められ負けを認めても尚許されず、男の飢えを満たすまで続けられた長い一夜を思い出すと、それだけで内の官能は高まっていく。
瑠夏がベルトを外しながら圧し掛かってくるのが見える、指を抜き衝動に耐えるようソファーにしがみつくと、熱の塊のようなそれが一気に押し入ってきた。

「ああっ!ぁ、苦し、い……っ」
「っ、は……そんなこと言って、すんなり根元まで飲み込んでくれたじゃ、ないか」
「くっ、う……瑠夏、も、解いていい、だろ……」
「んー……そうだな……じゃあボクがイったら解いてあげる」
「なっ……!いっ、止めっ……!」

また腕が後ろで括られ、俺は頬をソファーに擦りつけながらゆっくりと動き出したものが中を穿つ感覚に耐える。深くまで埋められたそれがギリギリまで抜け、またゆっくりと入り込んでくるという動きが繰り返されると、もどかしさとせり上がる快楽に内部は瑠夏のものへ貪欲に絡みついた。
抜き差しの速度は徐々に増し、時折意地悪く中の弱い部分を掠められる。そこに当てようと無意識に腰が動くのをからかわれ、しかしそれを悔しいと感じる余裕すらない。早く解放してもらわなければ、頭が焼き切れてしまいそうだ。

「ひ、ぁ……っ、も、イきた、い……っ」
「ふふ、まだだよ……もっとじっくり楽しもう?」
「やぁ、あっ!そこ、駄目、だ……!」
「どうして?ここ、突いて欲しかったんだろう?さっきからずっと腰を揺らしてたじゃないか」
「んんっ、あっ、止めて、くれ……っあ、あぁっ……!」

ざわざわと全身が粟立つような感覚、四肢の先全てが何かにしがみつくよう丸まり、力の加減が出来なくなる。絶頂の感覚が全身に広がり、吐精出来ないままに弾けた。びくんと身体を跳ねさせ、それでもいつもと違いその後の脱力感は襲ってこない。またすぐにでも達してしまいそうな快楽が続いている、加減出来ず締め付けてしまったからか、瑠夏は俺の中で動きを止めていた。

「あっ……は、ぁ……っ」
「んっ、JJ……もしかして、ドライでイったのか?」
「ひっ……あ、動く、な……!触るな……っ、ああ!」
「ほら、また……すごいな、イきっぱなしじゃないか」

瑠夏がまた弱い所をわざと突きながら前をゆるく擦ってくると、同じような感覚に襲われる。ガクガクと下肢が震え、感じすぎて苦しいのにその動きで自ら中を擦り上げてしまい、俺はソファーへ爪を立て引っ掻きながら続けざまの絶頂に翻弄されていた。

「っ、く……すごいな……はぁっ、もっと楽しみたいのに、これじゃあ……っ」
「あっ、あ……!待って、くれ、っう、あぁっ!」
「は、ぁ……っ、なぁJJ、キミ、もう何回目だい?」
「ふ、あっ、わから、な……瑠、夏、もう、出した、い……っ!」
「そんなに、欲しがらないでくれよ、っ、ボクも……」

後孔から瑠夏のものが抜かれる。突然の喪失感に声を上げる暇もなく身体がぐるりと反転し、腰を高く抱えられたかと思えばまた深く貫かれる。その衝撃に、両足で瑠夏を挟むようにしながらびくんと身体を跳ねさせた。あぁ、本当にこれは何回目だったろうか、限界は曖昧で、快楽は休みなく続いていた。
瑠夏の手が痛い程に張り詰めた俺の昂ぶりに触れる、解放された両腕で瑠夏へしがみつき耐え難い感覚に抗うよう爪を立ててしまう。

「んっ……JJ、出すよ……っ」
「ん、んっ……!」

唇を深く重ねてきた瑠夏は、そのまま俺をガクガクと揺さぶり奥へと熱を注ぎ込んできた。その刺激ですら自分の身体は簡単に限界を超えてしまう、いくら久し振りの行為で、その上射精を止められているからとはいえ、感じ易すぎるのではないだろうか。

「は、ぁ……っ、ん、約束だからね、解いてあげる」
「あ、やっ、イ、く……っああ……!」

縛られていたネクタイを解かれる、布の擦れる感触だけで散々耐えさせられていたそこは、自分の胸や腹、顔にまで撒き散らすように白濁を吐き出してしまった。

「あっ、あ……止まら、な……っ」

瑠夏の手がゆるく昂ぶりを撫でる度、びく、びくと反応を返しながら腹の上に熱を重ねていく。そうして残滓を吐き出しながらも、尚奥が疼いて仕方がない。ゆるゆると腰を動かしてしまうと、瑠夏は笑いを含ませながら唇を軽く合わせてきた。

「まだ、して欲しい?」
「……っ、アンタ、まさか……」

その表情がやけに楽しげで、俺はようやく自分の身体がこうなっている理由に思い当たる。ローションだとばかり思っていた、いや実際にそうだったのかもしれないが、あれに媚薬か何かを混ぜていたのだろう。睨みつける俺の瞳を見つめ返しながら、瑠夏はまたゆっくりと抽挿を始めた。

「ふふ、ようやく気付いた?」
「動く、な……っ、本当に、悪趣味、だ、あっ……!」
「霧生を苛めたお仕置きだよ……ああでも、それはさっきので充分かな。止めて欲しいならそうしてあげる」

そう言って本当に俺の中から昂ぶりを抜き、身体を離してしまった男にあらんかぎりの暴言を吐きたくなる。こっちがもう止まらない事をわかっていて、どころか自分もまだ満足していないだろうに、そうして何でもない事のように言ってのけるのだ。
そんな男に、俺は今日から飼われる。手綱を握られ、瑠夏の好きなように扱われるのか。
そんなのは、御免だ。

「瑠夏、待て」
「ん?……どうしたんだい、JJ?」
「前の、チョコの礼をしてないだろう……3倍返しだったか?」

追い縋るように瑠夏に身を寄せ、腰の浮きかけていた身体をソファーへと座らせる。首の後ろへ腕を回し首筋にキスを落としながら、瑠夏の出したものが流れ出している後孔を、男の昂ぶりへ擦りつけた。それだけでぞくそくと官能は高まっていく、どうしたってこのままでいられないなら、それすら利用するまでだ。

「アンタが欲しい……まだ、全然足りないんだ」
「あんなに何度も気持ち良くなっていたのに?」
「あぁ、アンタと一緒にもっと気持ち良くなりたい……瑠夏が満足するまで、俺を好きにしてくれ」

甘えたように見つめながらそう口にすると、瑠夏の雰囲気が変わった。そう、余裕を失くして俺を貪る姿が見たいんだ。もう取引をするなと言うのなら、俺のボスになるアンタがこの無くならない渇きを満たしてくれるんだろう?と、心の中で嘲笑いながら瑠夏に口付ける。

「そうして求められたら、断れないよ……もうボクの扱い方を学んだのか?」
「さぁな。いいだろそんな事、どうだって」
「そうだね……なら、お返し、たっぷり堪能させてもらうよ」

身体が満たされるのは好きだ、心に踏み込まれない相手ならば尚の事。この男はきっと心も手に入れたいという強欲な性格をしているだろうが、それまで譲り渡す気は無い。
流されるようにここまで来たが、ここでの楽しみ方を見つける事が出来たかもしれないな、と、先程逃げていった男を思い出し、目の前の男と口付けを交わしながら、思った。






おわり