【君の世界に祝福を】瑠夏JJ前提マスター+JJ



「瑠夏は、君を大切にしてくれていますか?」

仕事の合間にふらりと寄ったバーの主人がそんな事を言うので、俺はきっと随分間の抜けた顔を返してしまっただろう。グラスに向けていた視線を上げた先では、慣れた優しい瞳が俺を探るように見つめていた。

「……どういう意味だ」
「されていないんですか?」
「いや……そんなことは、無い……と、思う」

歯切れの悪い言葉に、マスターは手に取っていたリキュールの瓶を戻しながら苦笑を零す。鮮やかな桃色ガラスの中で揺れた液体は、程なくして動きを失くした。ぼんやりそれを眺めていると、ふいに瑠夏の顔が頭に浮かぶ。
大切にされているか、そうマスターは問い掛けてきたが、きっと大切にはされているのだと思う、ただそれをはっきりと肯定するのには些か抵抗があった。あの男はそれこそ毎日のように想いを伝えてくれるし、仕事で必要な時以外も傍に居る事を許してくれる、むしろ積極的に二人の時間を作ってくれて……本当は、まだ少しそれが落ち着かない。
大事に、大切にされ守られる事より、男の前に立ちその命を守る事の方が、楽だと思えてしまうから。

「君は、まだ生きていたくなりませんか?」
「……?」
「もう十年近く前、初めて君に会った時も、いつ死んでもいいという目をしていましたから」

悲しげに目を細めたマスターを見て、過去の自分へ想いを馳せる。そうだっただろうか、あの頃、何もかも失くしてしまった自分が何を思っていたか、今でははっきりと思い出す事が出来なかった。
死にたがってはいなかったはずだ、それでもマスターの言う通り、生きたがってもいなかったかもしれない。どちらでもよかった、このまま死んだように生きるのだろうとも思っていたし、どこかでのたれ死ぬだろうとも思っていた。
過去を失くし、それでも叶えたかった絶望すら死に、この世に取り残されてしまったあの日から、俺はきっとそれほど変わってはいないのだろう。

「瑠夏にして欲しい事は無いんですか?」
「……して、欲しい事……」
「恋人に甘えられて、嬉しくない男は居ませんよ。たまには甘えてやりなさい、やり方がわからなければ、傍に居たいと伝えるだけでいい」
「だが……迷惑にならないか、瑠夏は忙しい身だ」
「それで迷惑だと突っぱねるようなら、JJは渡せません。そのまま僕の所へいらっしゃい、優しく迎えてあげますから」

ふふ、といたずらっぽく笑ったマスターの横顔は、どうしてか少しだけ瑠夏に似ている。きっと瑠夏がマスターに似ているのだろうとも思ったが、自分が選んだ男は、これ程無条件に優しくない。そうしてそんな所を、愛おしいと感じる気持ちは知っていたから。

「そうならないよう願っていてくれ」

そう苦笑気味に返せば、マスターはいつもと同じ柔和な笑みを返してくれる。上手くいかないなどと本当は欠片も思っていないのだろう、マスターは、俺より瑠夏を良く知っているのだから。
この人にはきっと生涯敵わないのだろうと、多分瑠夏も思っているだろう言葉を、グラスに残っていた酒と共に飲み込んだ。


【終】





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【溢れる優しい時間】


目が覚めると身動きが取れない朝というのは最近珍しくもない。すっぽりとこの身体を包む筋肉質の腕が、抜けだそうと動いた俺を更に強く抱き締めてくる。温かいそれについ身を委ねそうになるが、そうすれば後で怒られるのは主に俺だ。

「ん……瑠夏……起きろ」

寝起き特有の気だるさとまた眠りに落ちたがる意思を無視して、瑠夏の肩を揺すりながら呼び掛ける。これも相変わらずで、この程度で起きる気配は全くない。ぺちぺちと頬を軽く叩いてみたり、寝癖であっちこっちに跳ねている髪を指先で弄ってみたりするが、それでも瑠夏は静かに寝息を立てたままだ。

「……瑠夏」
「ん……んー……」

本気で起こすのなら、もっと荒い手段に出るべきかもしれない、そう出来ないのは、やはりこの時間を終わらせたくないという気持ちが強いからだろう。
もし今日が休日で何の予定もない日なら、おとなしく腕の中に収まって、瑠夏が自然に起き出すまで俺も目を瞑っていたい。ぬくもりと緩やかな鼓動に包まれることがどれだけ自分を安心させるか、この男に、毎日教わっている。

「……瑠夏、起きてくれ」
「……ま……だ……早い、よ……」
「残念だが結構ギリギリだ。瑠夏、起きろ」
「んー……じゃ、あ……ス」
「は?」
「キス……してくれたら……起き、る……」

瞼を開けようとしているのか眉間に皺を寄せながら、それでも多分俺が呼びかけるのを止めればまたあっさり眠りに落ちてしまうだろう瑠夏に、俺は呆れて溜息を吐く。この要求も何度目だろうか、もう少し駄々をこねず起きてくれる時もあるが、こうして起きる代わりに俺のアクションを求めてくるのは、よっぽど眠い時だ。
だから昨夜は、もっと早く切り上げるべきだと……いや、止めよう。朝から妙な気持ちになってしまう、そしてこの男は、それを見抜くだろうから。

「……起きて、準備が出来たらな」
「してくれ、ないと……目が、覚めない」
「水でも持ってきてやろうか?」
「だーめ……キミは、ここに居るんだ……ん」

俺の旋毛に自分の頬を擦りつけてくる瑠夏に対しての言い知れない感情で、苦しくなる。甘えられるのはまだ全く慣れないが、可愛いと思ってしまえば人は絆されるのだと実感した。このまま眠らせてやりたくなる、背中を撫でて、瑠夏の胸に自らも顔を埋めて、大切に思える時間を引き延ばしていたい。

「……瑠夏」
「JJ……んー……あったかいなぁ……」
「……駄目だ、ほら、瑠夏」
「ん……」

揺れ動いて、揺れ動いて、ほとんど地面につきかけていた天秤を、ギリギリのところで逆側へと傾ける。そうして少しカサついた唇に、自分の唇を軽く押し当てた。
すぐパチリ、と冗談のように瑠夏の瞳が開く。

「あーあ、ちょっと残念だなぁ」
「何がだ」
「寝ぼけたフリでキミにベタベタしていたのに、もう終わりなんて」
「やっぱりわざとか」
「んー……はぁ、おはようJJ。可愛いキスの続きは、また夜に」

そう言ってお返しのように俺にキスを仕掛けてきた男は、呆けている俺を置いて素早く朝の準備をし始めた。遅れて俺も、とりあえず散らばっている服をもそもそと着込む。
そうして「また後でね」という瑠夏の声を背に自室へと戻り、夜にはまた散らばるだろう服へと改めて着替えた。窓から差し込む朝日は、きっと明日も目に染みるのだろう。


【終】





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【雨の中のイデア】オメ学設定


時々、感情の制御が利かなくなる。抱き締める腕の力を、押し付ける唇の勢いを殺せず感情ごとぶつけるように、そうして彼に口付ける時はいつもその瞳を掌で覆った。
ボクに必死になってくれるJJの顔を見るのは好きだけれど、必死になったボクの顔を見せるのはどうしても恥ずかしくて、耳が熱いから、きっとそこまで赤くなっているはずだ。

「んっ……瑠、夏、ふっ」
「JJ……JJ、ん」

可愛い、ボクの服にしがみついてくるその右手が、迷うように首の後ろに回された左手が、ボクを少しも拒否しないこの細い身体が、愛しくて仕方ない。
晴れている空から雨粒が降ってくる、顔に落ちてくる冷たさにJJは身じろぎをするが、その身体を更に強く引き寄せると差し込んだ舌で口蓋をなぞる。寒さにか、そのくすぐったさにか、腕の中の存在は小さく震えた。服が湿っていく、身体にあたる雨粒の勢いは増していき、このままでは身体が冷え切ってしまうだろう。それでもこの腕の中の熱を手放せない、もっと、もっと、キスをしていたい。
壁に押し付けて、濡れた服を脱がせて、深く繋がりたい。腰を押し付けてみればJJは一瞬身体を固くしたが、嫌がる様子は見せなかった。どころか自らも身体を擦り寄せボクを受け入れようとしてくれる。
どうすればいい、このままだと、きっと少しも優しく出来ない。ただ貪るだけだ、ボクに預けてくれるこの身体を、衝動のままに犯す事しか出来ないだろう。

「JJ……」
「ん……瑠夏……」

僅かに離した唇が動く、互いの唾液で濡れたそこは、またすぐ触れてしまいたくなる位に艶っぽくボクを誘ってきて、苦しくなった。ごめん、ごめんねJJ、大切にしたい気持ちの裏側に暴力的なまでの衝動がある、それを抑えることは、どうしても上手くなれないんだ。
噛み付くように合わせた唇、歯が当たったのか血の味がする。きっとボクはこの後彼を抱くだろう、戸惑うように預けられた手を抑えつけ、呼吸も出来ない程にその唇を捕らえながら、一番深くまでJJの身体に触れて。それで彼が、本当にボクのものになってくれるのなら。

「瑠夏……?」
「JJ……JJ、もう一度、キスを」
「瑠、んっ……」

こんなに愛おしいのに、彼もボクを好きだと、愛していると言ってくれているのに恐ろしい想像は止め処ない。嫌われる事、奪われる事、手の届かない場所に、彼はいつでも行ってしまいそうだから。

「JJ……愛してる、愛してるんだ、んっ」
「っは、ん……ん」

いつまで留めておけるだろう、腕の中に居てくれるだろう。永遠がいいと望めば、彼は叶えてくれるだろうか。雨の降りしきる中で、キスの激しさとは裏腹にその願いだけは、静かに空へ送った。

【終】





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【clean freak】


何度見ても彫刻のように無駄なく筋肉のついた身体は、自然と俺の目を奪った。天井のライトから透ける金色の髪、真っ直ぐに通った鼻筋、海や空を思わせる瞳の色に、俺はこんなに綺麗な男に抱かれているのだと目を閉じたくなる。
こんなときはいつも全身が泥にまみれた気分になって、この身はきっとその綺麗なものを汚してしまうから。

「目を開けて、JJ」
「っ、う……あっ」
「ボクに触れて、キミの髪ひとつすら、ボクは愛おしいんだから」
「は、ぁ……瑠夏……」

ぼやけた視界の向こうでも、瑠夏はやはり綺麗だ。言われるまま両頬に手を添えて、それでももしそのまま滑らせればそこに血と泥が這うような気がする。視線を交わすと一瞬悲しそうに瞳を揺らした瑠夏は、頬に添えている俺の手へ指先で包むように触れ、そっと外すと掌へ請うようなキスを落としてきた。そのまま何度も願うような、祈るようなキスが続けられる。

「伝わらないかい?キミへの愛しさは、どんなものにも阻まれないって事が」
「ん……っ」
「キミが自分を嫌いでも、汚れていると悔やんでも、ボクは決して離してあげないからね」

ベッドに身体を倒されたまま、瑠夏が肩口に顔を埋めてきた。髪の毛と吐息の当たるくすぐったさに身を捩っても、ぴったりとくっついてくる身体は退こうとしない。深く繋がったまま、俺達はただ互いの身体に触れ合った。

「……瑠夏」
「ん?」
「……アンタが、好きだ」
「……うん」
「瑠夏……」

鼓動の音も、呼吸の仕方も、匂いも、何もかもが違って、その全てを汚したくないと思っても瑠夏がそうしろというから、綺麗なそれらに濁った色をつけてしまう。瑠夏がそれでいいと笑って、だからしがみついて子供のように泣きたくなった。
優しくて綺麗で、本当は俺のものであってはいけないのに、欲しくてたまらない。

「……愛しているよ、JJ」
「……あぁ……」

俺もだ、と続くはずだった言葉は、込み上げる嗚咽に混ざって消えた。


【終】





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【枕元への贈り物】2012年クリスマスその1


「今日は、キミが一番欲しいものをあげるよ」

外での仕事が終わり車までの道を歩いていると、瑠夏は俺の髪にかかった雪を払いながらそう囁いた。珍しく積もりそうな量の雪で、微笑みながら「真っ白だ」と笑う瑠夏の頭も同じように白い。

「どういう意味だ?」
「今日はクリスマスイブだろう?あぁ、雪が降ってるからホワイトクリスマスだね」

どんな違いがあるのかは知らないが、その言葉を口にする瑠夏が幸せそうだったので余計な口は挟まないことにした。
ムードも情緒も解さない俺には、多分無粋なことしか言えないだろうから。応えない代わりに、されたのと同じように瑠夏の頭に降った雪を払ってやれば、目を細めながら少しだけ頭を低くした。

「ふふ……」
「……?どうした」
「雪が降ってよかったなって」
「クリスマスだからか?」
「キミに頭を撫でてもらえるなら、いつでも降って欲しいよ」

そう言って下ろしかけた俺の手をそっと掴むと、そのまま指を絡めてくる。誰かに見られると文句を言おうして周りを見渡せば、結果としてはよかったのかもしれないが、人気は全く無かった。

「誰も見てない」
「……そうだな」
「キミの手は冷たいなぁ」
「アンタの手も、いつもより冷たいぞ」

ポケットにいれていた方がマシな寒さの中、それでも手は離されず互いの体温だけを重ねる。瑠夏は何だってこんな事が好きなんだ、嬉しそうに緩んでいる口元が見える度、人が来ても離せないんじゃないかという気分になって、落ち着かない気持ちでふたりきりの通りを抜ける。

「そうだ。だから、プレゼントだよ」
「は?」
「ええと……あったあった」

瑠夏は繋いでいるのとは逆の手でコートのポケットを漁ると、そこからレース状のリボンを取り出した。よくプレゼントの包みなどで見かけるもの、だと思うが、正直俺には包装用のリボンと髪を結ぶ用のリボンの区別がつかない。
その色が好きなのだろう、薄いピンクのそれを瑠夏は自分の首にひっかけると、「ちょっとごめんね」と繋いだ手を離した。途端に温度が下がった気がして、それは確かにその通りなのだが、そうではない。
離されるとすぐに諦めが浮かぶ自分が嫌だった、拗ねた子供のようになって、宙に浮かせた手をどうにも動かせなくなる自分が、恥ずかしかった。

「……JJ、こっちを見て」
「……何……は……?」

いつの間にか首に緩くリボンを巻きつけ、鎖骨辺りで蝶結びにされたそれに飾られた瑠夏は、やわらかい笑みのまま俺の手を掬い、甲へ静かに口付ける。状況が飲み込めず不審気に目を細める俺の耳元に「さっき言った事、もう忘れたのかい?」と囁いてきたので、あまりにもベタすぎる台詞が頭をよぎった。

「プレゼント……か……?」
「そうだよ」
「俺の一番欲しいもの……だったよな」
「そう、だからボクがプレゼントだよ、JJ?」

また指を絡めながら手を繋いできた瑠夏に、俺は頭痛の気配を感じながら歩調を合わせる。どこから突っ込めばいいのか、そんなことをやってて恥ずかしくないのか、瑠夏の事だからそんなことはなくやっているのだろうが。
いらない、と突っぱねても無駄だろう、どうせ見抜かれる。
言い方は違うとしても、俺が一番欲しいのは瑠夏との時間なのだから。否とも応とも言えずただ少しだけ繋いだ手の力を強めれば、同じようにしっかりと握り返してくれる。
そう、つまりはこういう時間だ。ベタベタするのは好きじゃないはずだった、だから、これはこの男に感化されたという事だろう。我に返ればきっとすぐにでも頭を抱えたくなるだろう恥ずかしい時間、だけどそれ以上に、この手の温度が愛おしい。

「手を離したから、寂しかったかい?」
「……いや」
「嘘は駄目だよ、そういう顔をしていた」
「……」

瑠夏は潜めるように笑うと、急に足を止めた、一歩先に出てしまった俺が振り返ると同時に、唇にやわらかい感触が降ってくる。雪とは違い温度のあるそれに、俺は間近にある顔に諦めの溜息を吐きかけ、もう一度周囲を確認してから目を閉じた。
逆の手も瑠夏に取られ、触れるだけのキスが繰り返される。

「ん……ね、JJ。今夜は、一晩中繋がっていようか」
「おい……殺す気か」
「大丈夫、今日の食事は豪華だから、そこでたっぷり精をつけるといい」
「……アンタもつけたら、意味無いだろう……ん」
「ははっ、そうだね。ボクはキミへのプレゼントだから、嫌という程に沢山キミを愛してあげる」

全く話を聞く気の無い瑠夏に、俺はせめて黙ってくれと熱くなる一方の顔のまま今度は深く唇を合わせた。すぐに離しても、次は瑠夏が更に情熱的なキスをくれる。
こんな往来で何をしているんだと、それでも車が停めてある場所までのあと数歩を惜しむように、ちらちらと雪が落ちてくる中、互いの気が済むまで口付けを交わした。

【終】





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【愛は溢れるものだから】2012年クリスマスその2


プレゼントは何がいい、なんてボクのデスクの正面に手をつき彼らしい直球さで聞いてきたものだから、ボクは今すぐJJを抱き締めてしまいたくなった。「その言葉だけで充分だよ」と言ってあげたいが、それじゃ勿体無い。でも長く考えすぎれば彼が気を変えてしまうかもしれないと、とりあえず端的にボクの気持ちを表してみることにした。

「欲しいものは、ひとつだけだよ」
「だから、それを訊いているんだが」
「駄ぁ目、考えるんだJJ。ボクが欲しがってるものなんて、キミが一番よく知ってるだろう?」

謎かけのように告げてみれば、JJは唇を結び眉を寄せながら深く考え込んでしまう。鈍いけれど、こんなところも可愛いと思う。
ボクが含ませた意味にいつ気付くだろうか、気付くまでここに、ボクだけの傍に居てくれないと。真っ赤になってこっちを睨んでくる顔は、自分以外の誰にも見せたくない。

「欲しい……もの……」
「うん」
「……」

ふっと、JJは落としていた視線を上げる。薄く唇を開いては躊躇うように閉じられる動きを追っていると、今すぐそのプレゼントが欲しくて仕方なくなった。
戸惑うように押し返してくる手が、キスを繰り返す内にしがみついてくるのが好きだ。引っ込められてしまう舌を追って絡めとると、そっと応えてくれるのが好きだ。撫でれば熱くなる肌も、赤く染まる頬と耳が特に噛み付きたくなる程おいしそうで、実際に噛みついて驚かせたこともあった。
愛しさにはキリが無い、自分はそれを表すことに躊躇しないタイプだけれど、それでも物足りないと感じてしまう。もっと、もっとJJに伝わればいい。ボクがキミを好きだということ、どれだけ愛して止まないかということ、本当は片時も離さずこの腕の中で生きていて欲しいと、切に願っていることも。

「JJ、言って」
「っ……その……」
「大丈夫、正解だよ、その顔を見たらわかる。なぁ、勿論くれるだろう?」

恥ずかしがり屋な彼が逃げ道を探さないように、デスクに置かれたままの手を優しく握る。全てを見せ合った後でもJJはこんな些細な触れ合いひとつで胸がつまったような表情をするから、ボクは二度と手を離したくなくなるんだって、知っているだろうか。
いつでも消えてしまえるという彼の覚悟をボクは台無しにしてしまいたいから、この温度をJJも愛しく思ってくれていたらいい。
そうしてボクの所以外、どこにも行けなくなればいい。

「それで、JJは何をくれるんだい?」

胸の中にある気持ちはおくびにも出さず、どうしても緩んでしまう口元は隠さずにJJへ問いかける。目を逸らそうとしたので手の力を強め、逃げられないよと言外に教えた。
くれないと駄目だ、だってもうキミはそれをボクにあげるしかないんだから。欲が深くて我儘な男をキミは恋人にしてしまったのなら、諦めて差し出すしかないんだよ、JJ?

「……俺……を」
「ん?」
「聞こえただろ……っ」
「いいや?もう一度始めから、キミが言葉にしてくれないと」

ぐい、と腕を引き、彼の身体をやや無理矢理に抱き寄せる。間にあるデスクに慌てて両手をつきながら、JJはボクが抱きしめているせいで体勢を立て直せずにいるようだ。吐息だけを触れ合わせながら、これからの羞恥にか潤んだ瞳がボクを睨む。
早く言ってくれないと、無粋にもプレゼントの包装紙を破いてしまいそうだ。ぐっと堪えて「ね?」と囁きかければ、諦めたようにJJがまた口を開いた。

「……俺、が……プレゼント、だ」

言い切った、言い切ってくれた、と思う。震える声がやけに悩ましく、終わるか終らないかの所でその唇に触れてしまったから少しだけ怪しいが。挿し込んだ舌で口腔をくすぐりながら、今日は逃げない舌を捕らえる。唾液が絡む音を部屋に響かせながら、デスクが邪魔だと思った。

「今すぐに、もらってもいいね?」
「……好きにしろ……いちいち訊かないでくれ」

JJの腕を掴んで寝室へ引っ張り込み組み敷けば、彼は素直にベッドへ倒れてくれた、じっくりと楽しむ事はとても出来そうにない。服を脱がせる合間すら惜しくて、深いキスを交わしながらJJへ何度も告げる。

「愛しているよ、JJ」
「んっ……あ、ぁ……」
「誰よりもだ、なぁJJ、キミもだろう?」
「あぁ……決まってる……っ、あ……」

聖夜への感謝、祈り、更けていく夜にただ彼の温もりだけを感じられる喜びに、ボクは跪いてキスをしよう。きっとボクらは今夜、この世界で一番の幸せ者だから。

【終】





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【ボスの最高な一日】


「んっ、む……んぅ」
「ん……JJ」
「はっ……ん、ふ……っ」

呼吸のために唇を離すのももどかしく、すぐにまた重ねると舌同士を擦り合わせる。その感覚が身体の芯を伝って下肢へ降りていくのが、たまらなく気持ち良い。

「あ、瑠夏……んぅ」
「は……これじゃあ、ん……加減を、間違えそうだ」

膝に乗るようにしてキスをせがんでいた俺の身体を、瑠夏はゆっくりと押し倒した。唇が離れないように俺は腕をまわし、まだキスをねだる。
どうしてこんなにも疼くのか、食事に何か混ぜられていたのかもしれないが、今となってはどうでもよかった。ただ触れたくて、触れられたくて仕方が無い。

「全く、キスだけでこっちはすっかり準備万端だよ」
「いい、早く、瑠夏……っ」
「……すごい効き目だな……ちょっと、入れすぎたかもね。ボクは嬉しい限りだけど」

瑠夏の言葉が頭に入ってこない、ただ早く早くとその顔中に拙いキスをしながら、両脚を絡める。少しで良いから刺激が欲しい、瑠夏の手が気持ち良い事はとっくに知っているから、目の前にあれば我慢など出来なかった。

「JJ、服を脱がせられないから、身体を離して」

あやすような言葉に、俺は首に回していた腕を外し自分から服を脱いでいく。ごくり、と大きく喉が鳴る音がして、瑠夏の手がスラックスと下着を脱がせてくれた。すっかり昂ぶってしまっている自分のものは、布の擦れた感覚だけでもうはちきれそうになっている。

「……自分で準備は出来る?」
「した、ら、抱いてくれる、のか」
「いや、しなくても抱かないなんてありえないけど……あぁもう」

振り切れたように口付けてきた瑠夏は、どこか焦ったような顔をしていた。あぁ、やはり自分からするより瑠夏にされた方が気持ちが良い。請われるままに舌を差し出し、甘くねぶられると陶酔にも似た感覚が全身を襲う。

「やっぱり、ボクがやるよ……こんな乱れたキミに触らないなんて、勿体ない」
「んあっ……!あ、瑠夏、そこ……っ」
「中も熱い……JJは、ここが好きだったね。沢山擦ってあげる」
「ひっ、ああっ!や、いっぺん、に、あ、あっ……!」

内側から昂ぶりを弄られているような、逃げようのない快楽が意識を支配し、俺はただ身をくねらせしがみつく事しか出来なくなった。舌が胸の突起を押し潰し、ぐりぐりと執拗に捏ね回してくる。二つの快感が同時に与えられ自分から求める余裕が無くなり、そうしてすぐに指では足りないと奥が疼き始めた。
瑠夏が欲しい、苦しい程の熱で俺の中を埋めて欲しい。そうしてくれなければきっと、この乾きは無くならないから。

「瑠、夏……っ、も、こい、よ……」
「いいのかい?ボクももう限界だから、キミを苦しめても止められないよ?」
「いい、俺ももう、限界だ、ん……っあ!」

中を埋めていた指が抜かれ、喪失感に息を吐く暇もなく瑠夏のものが入り込んでくる。まだ狭いそこを無理矢理広げるような動きに、それでも俺は瞬間吐精していた。落ち着きたい身体とまだ欲しがる内の欲望、それを戦わせずとも一度力の抜けた中へ瑠夏は自身を深く埋め込み、そのまま激しい抽挿を繰り返す。

「あっ、あ!瑠夏、待、あぁっ!」

止めて欲しくは無いのに口からは真逆の言葉が出てしまい、しかし俺の脚を強く掴みながら眉を寄せる瑠夏はわかってるというように苦い笑みを作った。

「止めれない、って言った、だろう……っ?」
「っ、ああっ、なん、で、また……っ!!」
「薬の効果かな……キミの、全く萎えないね」

二度目の射精をした後も、俺のものは痛いほどに張り詰めたままだ。瑠夏の指先がゆるく絡みつきそうして扱かれると、またすぐに絶頂の気配がした。何度も連続でイかされる事への恐怖で僅かに理性が戻り、昇り詰めそうな感覚に耐えようと身体に力を込めれば、後ろに埋められたものの存在がハッキリとする。締め付けた事でそれはびく、と震え、瑠夏の口から掠れるような吐息が漏れた。それにすら肌が粟立ち、俺の全身をぞくぞくと震わせる。
欲望が、恐怖を凌駕してしまう。

「瑠夏っ、あ、もっと……っ」
「は……っ、心配、しなくても……一回で、終わるなんて……くっ、思わないで、くれよ……っ!」

俺の首筋に顔を埋め、まるで動物のようにそこへ噛みついてくる瑠夏はそのまま俺の中へ熱を注いだ。より深くへぶつけたがるように抉りながら与えられるその温度に、俺も瑠夏の手の内へ白濁を吐き出す。冷めない熱、互いに治まらない欲の証に、俺達は夜が明けるまで幾度となく肌を重ねた。





「それで……なんだったんだ、あれは……」

ようやく落ち着いた身体をベッドに沈めながら、掠れ切った喉をどうにか震わせ瑠夏へ問う。同じだけ激しく求め合ったというのに、男はゆったりとした様子で冷蔵庫から出してきた水を飲んでいた。俺はもうきっと、今日一杯は立つ事も出来なそうだ。

「はは、実はよく効くっていう媚薬を手に入れたから、試しに使ってみたくて」
「人で試すな……」
「ボクも舐めたよ、ほんのちょっとだけどね」
「……俺には?」
「んー……まだ、少しは残ってたと思うけど」

腕をあげる元気さえあれば、髪くらいは引っ張ってやりたいところだ。確実にそれは摂取量を間違えている、しかも大幅に。しかし指一本動かすのもだるい今の状態では、諦めて目を瞑るくらいしか出来る事は無かった。

「乱れ切ったキミはすごかったよ、気持ち良すぎて、抱き殺してしまうかと思った」
「……あぁ……死にかけた」
「次は、ちゃんと量を守って飲ませてあげるね」

いらない、止めてくれ、眠気に余計弱った喉から発せられたその言葉はきっと瑠夏の耳には届いてない。静かになったからか、瑠夏はまだ汗ばんだ身体を擦り寄せるようにして抱き締めてくる。燻ぶる熱がまた目覚めない内に、俺はその心地良さだけに身を委ねることにした。


【終】





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【ハローグッドドリーム】



「……ぁ……っ」

口から漏れた声で一気に意識が覚醒し、起きてまず俺がとった行動は自分の口を塞ぐ事だった。今更何の意味もないとわかっていても、まだ正常に働かない頭を抱えた状態ではそれしか出来ない。眠りで冷えていたはずの体温はいつもの平熱以上に高くなり、特に顔へ集中して集まる。最悪なことに、妙な目覚め方をしたせいか自分が寝起きに妙な声をあげてしまった理由である夢を、まるで録画でもしたかのような鮮明さで覚えていた。
今隣で眠る男にそれがバレれば、先の展開を想像するのは容易だ。かぶりを振り忘れようとするが、困った事に消そうとすればするほど何度も頭の中でそれは再生される。しかも、ご丁寧に声付きで。

――キミのこんな恥ずかしい姿を見れるなんて、あぁ、たまらないよJJ……
――もっと脚を……そう、いい子だ……ふふ、物足りないって顔だ。別のが欲しいのかい?
止めろ、止めてくれ、これは夢であるはずなのに、どうしてまるで本当にされたかのように感覚まで蘇ってくるんだ。昨夜、同じベッドに入ったのだから何も無かったとは言わないが、今俺が見てしまったような……とんでもないことは、されていない、はずだ。しかし瑠夏に抱かれる時は、いつも途中で自分が何を口走ったかすらあやふやになるくらい滅茶苦茶にされてしまうことが多いので、もしかしたら夢ではないのだろうか。
焦って毛布を捲りながら身を起こし、自分の身体を眺める。夢の中で瑠夏が唇や歯で残した痕を探すが、やはり見当たらない。ホッと息を吐き、まだまだ起きない男をいい加減起こそうかとしたところで、その大きな身体がもぞリと動く。

「瑠夏?」
「ん……JJ……」

俺の名を呼び、甘える猫のように擦り寄ってきた瑠夏はどうやらまだ夢の中らしい。肩でも揺すれば起きるだろうかと腕を伸ばした瞬間、腰に瑠夏の吐息が触れた。現実ではないはずの記憶がまた色をはっきりさせ、まだ全て覚えている頭はそれと昨夜の感覚を勝手にリンクさせてしまう。ぞくりと下肢が震え、見ないようにしていたそれが、余計に熱を持っていくのがわかった。

「っ……」

大きく開かされた内腿に、瑠夏の唇が何度も触れる。後ろへ埋め込まれたものは断続的に震えながら俺を追い詰め、しかし目の前の男が欲しくて物足りなさに涙を零した。早くくれと、焦らすなと、恥も理性も捨てて訴えても、嬉しそうに俺の肌を撫でる瑠夏は一向に欲しがるものをくれない。苦しさに透明な液を漏らし続ける昂ぶりへ、瑠夏の指が悪戯に触れるだけで果ててしまいそうだった。請われるままに瑠夏の願いを叶え、ようやく与えられた瞬間、そうだ、その時に目が覚めたのだ。

「……は……っう……」

自業自得だが、中心の熱は冷めるどころか余計に増していく。トイレか風呂場に、しかしこの男を起こしてしまえばきっと気付かれ、せっかくのオフを丸一日ベッドで過ごす羽目になるだろう事は目に見えていた。どうせぐしゃぐしゃなベッドだ、今更染みが増えたところでばれないだろうと、俺は物音を立てないよう身体をシーツへ横たわらせると瑠夏に背を向け、すっか勃ち上がってしまっているそれへ触れる。気持ち良さに捩ってしまいそうな身体を抑えつけ息を殺しながらする自慰は苦しく、そのせいかすぐにでも達してしまいそうなそれは、しかしなかなかそこまで昇り詰めてくれない。
焦りと、後ろめたさのせいか。手の動きを速め目を瞑り、自棄になって先程の夢を瞼の裏で再生する。

「ん……っ……はぁ……っ」

溜めた息をゆっくり吐き出そうとしても、その度苦しげな声まで漏れてしまった。瑠夏の呼吸音はそのままだ、だから起きていない。しかしそう思っても、見えていないからこそ考えてしまう。瑠夏が目を覚まし、俺にバレないよう呼吸のリズムを騙しながら、二対の碧眼が自分を見つめている想像。決してそうであってほしくは無いのに、そう意識した途端肌が粟立ち、熱が一点に集まってくる。ようやく終われる、片手でそれを擦りながらティッシュへ手を伸ばすと、届く前にその手を掴まれた。
誰にかは、決まっている。

「駄ぁ目」
「っ……!?」
「こっち、向いて。ちゃんと見せて」

ギシ、とスプリングが鳴った。仰向けに転がされた身体の上へ大きな影が落ち、まだ眠そうな瞳と視線がぶつかる。俺が想像していたものよりずっと透き通っているその青が、ぶつかる。

「ねぇ、続きはボクがしてもいいかい?」
「な、瑠夏、退け……っ」
「しなくてもイけそうだけど、してあげたい」

そうふにゃりと笑いながら、瑠夏は掴んでいた俺の手ごと、まだ昂ぶったままのそれに触れた。俺の手で握らせながら更にその手を覆い動かされると、どうしてかさっきまでとは全く違う感覚が襲う。脚を割られ顔を覗きこまれ、そんな風に好き勝手されながらも自分の指の隙間から触れる瑠夏の指先に昂ぶりをなぞられれば、大きく腰が跳ねた。

「あぁっ!は、ぁ……っ!」
「ふふ……まだイってる」
「触、るな……っあ、あ……」

萎えようとしているものをやわやわと揉まれれば、またすぐにでも果ててしまいそうなこの感覚が怖い。瑠夏はそんな俺の怯えを介することなく、そのまま鎖骨へ唇を触れさせてくる。首筋を舌が伝い、顎までを舐められると最後に唇を弱く食まれた。そうして何度も落とされる口付けは、身体を繋げる前の愛撫に似た気配がする。瑠夏が頻繁に求めてくる目覚めのキスにしてはあまりに甘く、熱を持ちすぎていたから。

「ボクの夢を見た?」
「なっ……」
「当たり、だ。ははっ、JJは本当に嘘が吐けないな」

可笑しそうに肩を震わせ、その頬はさっきより緩んでいる。俺の夢に瑠夏が出た事がそんなに嬉しいのか、俺は瑠夏にそんな事を言われれば、夢の中の自分が何をさせられたか不安で仕方ないのだが。
……いや、自分も偉そうなことは言えない。瑠夏が俺にしていない事を夢に見た、勝手な妄想で汚すのと何が違う、そう考えた途端また顔に熱が上がってくる。きっとそれを見付けた瑠夏が、更に笑みを深くした。

「夢のボクは、キミにどんな事をしたんだい?」
「……な、にも……」
「そんな訳無いよ。キミに何をしていい夢で、ボクが何もしないわけがない」

そうまで自信満々に言い切られると、俺は返す言葉を失くしてしまう。自分の事をよく理解していると称えるべきか、そんな事胸を張って言うなと呆れるべきか。俺が悩んでる内に、瑠夏はまた俺の肌へ触れてきた。今度はしっかりと、官能を煽る触れ方で。

「まぁ、いいか……キミの理性が飛んだ頃に、もう一度訊くよ」
「おい……っ、今は、朝だ!」
「そうだね、JJの姿が夜よりずっとはっきり見えて、興奮するなぁ」
「馬鹿、止め……ぁ、や……っ」
「おっと、今ボスに向かって馬鹿と言ったね?全く、悪い子だ」

瑠夏の指が、昨夜の名残を残したままの場所に触れる。濡れた指先が縁をなぞれば、身体は抵抗の手段を忘れていく。代わりに現れるのは、瑠夏が与えてくれる快楽と苦しみを知る本能だ。息を止めようとするかのように長い口付けが続けられ、酸欠に喘ぎながら瑠夏を見上げる。
カーテンの向こうから射す朝日が瑠夏の髪を一層綺麗に見せて、その悔しさに俺は瑠夏の後頭部へと腕をまわし髪の毛をぐしゃりと掴んでやった。「痛いよ」と言いながらも笑ったままの瑠夏に、自分の理性が勝てる見込みはゼロだろう。
俺は入り込もうとする指に合わせるよう、ゆっくり身体の力を抜いた。


【終】





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【本日のdolce】


自慢じゃないが、自分の愛情表現はわかりやすいと思っているし、特に鈍い恋人相手には尚更だ。言葉でも行動でも、呆れられる程に愛を溢れさせている。なのに、

「キミは、あまりわかってくれていないよね」
「……なんだ、唐突に」
「愛してる」
「なっ」
「愛してるよJJ、誰より一番、キミが愛しい」
「……昼間から、酒はよくないんじゃないか」

ほら、そうしてすぐに話を逸らそうとしたがる。ボクがお酒を口にしていない事なんて、誰よりキミがわかっているはずなのに。一日離れることなく傍に置いたキミが一番、ボクの行動を知っている。
ツンとすました猫のような横顔、そんなそっけない風貌も好きだけれど、甘えてきたときのこの上ない愛らしさを知っているから少しだけ可笑しくて、自然と口元が緩んだ。こういうところがたまらなく好きだ、自分にだけ許される油断も隙も、「もっと人と仲良くして」と口を酸っぱくして言うわりに本当は少しだって他に見せてほしくない。
ボクだけのものである居心地のよさ、優越感、それらが特別だという証だから。知らないだろう、キミは考えもしないだろう、髪の毛一本すら惜しくなる愛情を、向ける笑顔の裏にいつも潜ませている事なんて。

「だーめ、今日は許してあげないよJJ。ちゃんとボクを見て」
「っ……」
「キミの不器用なところも、恥ずかしがり屋なところもボクは好きだけれど、それでも言葉が欲しくなる時を、許してくれるかい?」

JJの腰を引き寄せ抱き締めて、深いこげ茶色の髪にキスを落とす。疑う訳じゃない、キミがくれるボクへの愛情は知っている、だけど言葉が欲しくなるのはやっぱり、それを伝えてくれた時の表情を見たいからだろうか。慣れない言葉を口にするJJは、それだけで甘い甘いドルチェのようだから、ペロリと食べてしまいたくなる。
そう、頭から足先まで、余すところなく。

「……俺は、アンタを不安にさせているか?」
「違うよ、これはただの我儘だ」
「……瑠夏」
「ん?」
「あ……愛、してる……んっ」

言葉を貰えない一番の理由は自分であるという事に、本当は気付いているんだ。彼の唇が動くと触れたくなる、やわらかそうだから、やわらかい事を知っているから、その感触を味わいたくなる。待っていればもっと伝えてくれそうな口を塞いでしまうから、いつもそこから紡がれる愛に枯渇するのに。
それでもJJの後頭部に回した手にもっと力を込めて、あぁ駄目だ離さなければ彼が喋れないじゃないかと、そうわかりながら舌を絡めて口付けを更に深くした。逆の手で服の上から肌を弄れば、流石に慌てた様子で掴まれる。後頭部に置いた指先を少し下げてうなじをくすぐれば、彼の背筋が震えた。

「瑠夏、アンタ、んぅ……っ」
「……ふふ……ん、止まらないの、なんて……キミが一番わかってるだろう?」

味見してしまえばもう、全てを味わい尽くすまで終われない。それを知ってて煽るのだから、責任の半分はキミにある。両頬へ順番に口付けてから、どうしていいかわからず顔を逸らそうとするJJの唇を捕らえるのは容易い。僅かに離して「舌、絡めて」とだけ告げればおずおずと伸ばされる舌を、いただきますと言うようにまた絡め取った。あぁまた言葉を貰えない、今日こそしばらく飢えないくらいに沢山聞かせて欲しかったのに。また明日、いやどうだろう、きっと明日は明日で触れたくなるから、ボクの自制心にお願いしておこう。
押し倒した先のソファーが軋んで、JJが怯えと期待を半分ずつ滲ませ見上げてくる。
今日はさようならボクの理性、また、明日?


【終】