甘えられる体温
「……おい、瑠夏」
「んー?何だい、JJ?」
「っ……くすぐったいんだが……」
その言葉を受けた瑠夏は、それでも俺の膝から頭を離そうとはしなかった、どころか楽しそうに笑いながらまた寝返りをうつ。さらりとした髪の感触がむき出しの太ももに触れ、小さく身体が跳ねてしまう。
仕事を頑張るからご褒美が欲しい、そんな子供染みたことを言い出したのはここ最近激務が続いていた俺たちキングシーザーのボス、瑠夏だ。他の奴らが居ないタイミングを狙いベタベタと触れてこようとする瑠夏から逃げ、仕事をしろと文句をつけると「なら、全部片付けたらキミがご褒美をくれるかい?」なんて事を言い出した。正直そろそろ霧生辺りはストレスで死んでもおかしくないくらいに忙殺されていたので、俺は深く考えず「わかった、わかったから手を動かしてくれ」と答えを返したのだが、
それが間違いだったと気付いたのは、数日後ようやく全ての仕事が片付いた日のことだ。
「ご褒美、くれる約束だったよね?」
先程までの疲れはどこへやら、やたらと楽しげに微笑んでいる瑠夏は「これに着替えて」と俺に服を渡してきた。それを見て、何を考えているのかとその服を突っ返そうとしたが、
「約束は約束だろう?」
と押し切られてしまい、今に繋がる。
瑠夏のワイシャツ1枚だけを着てソファーに座り、瑠夏に膝枕をしているという、今に。
「これの何が楽しいんだ……」
「すごく楽しいよ?ボクのワイシャツだけを着てるキミはすごく可愛いし、それに」
瑠夏は俺のむき出しの太ももに唇を寄せると、軽い音を立ててそこに口付けを落とす。
「ん……おい、瑠夏……」
「こうして、キミにも甘えられるしね」
「っあ、やめ、ろ……っ」
今度は少し強めに口付け、瑠夏はそこに点々と赤い跡を残していく。満足したのか今度は噛みつくように弱く歯を立てられくすぐったさとはまた違う感覚に身体が震えた。
「っ、ん……」
「気持ち良くなってきたみたいだね」
「違う……ぁ、あ……」
瑠夏は俺が抵抗しないのをいいことにさらにその行為をエスカレートさせていく。片手でシャツの裾をめくり、太ももから足の付け根までを舌でなぞっていくと、裾をめくっていた手が少し反応してしまっている中心に触れる。
「瑠夏、いい加減に、あっ……!」
「あぁ、もう固くなってる……可愛いな」
身を捩り身体を離そうとするが、それより早く瑠夏は軽く身を起こすと俺のものを口に含んでしまった。口腔のぬるりとした感触と温かさにそれはさらに反応を返し、昂ぶっていく。
「あ……っ瑠夏、やめ、っあ!」
「んっ……ふふ……」
瑠夏の唇が、舌が、ダイレクトな快感を押しつけてくる。俺はうまく力の入らない両手で瑠夏の頭をつかみどうにか押し返そうと試みる。この男がこういう行為を始めれば一切の抵抗は無駄だとわかっていてもそうせずにはいられなかった。
くしゃりと瑠夏の髪を乱れさせている指にはどんどん力が入らなくなっていく、その内俺の両手は自分の意思とは逆に瑠夏をそこから離さないとでもいうように頭を押さえてしまっていた。
「あっ、ん、はぁ……っ」
「……ん……」
「瑠夏、あ、あぁ……!」
瑠夏の口の中で俺のものは限界まで張り詰めていく、びくびくと震えそのまま熱を吐き出そうと手に力を込めた途端瑠夏はそれを塞き止めるように握ると口を離し、妖しく濡れた唇を舌で舐める。
「っ……瑠、夏……」
「なあJJ、ボクが欲しいかい?」
手はそのままに、今度はしっかりと身体を起こした瑠夏は熱っぽい瞳で俺を見つめてきた。アンタの方が俺を欲しがっているだろうと、心の中で悪態を吐きつつ俺は自分から瑠夏へ軽く唇を重ねる。そして吐息が触れ合うほど近くで瑠夏と視線を絡めながら口を開く。
「あ、あ……瑠夏が、欲しい……」
「へえ……こんなにすぐ素直になってくれるとは思わなかったな」
「言わせたのはアンタ、だろ……っ、も、早くして、くれ……!」
「ああ、可愛いなキミは……もっといじめたくなるよ」
「っ、瑠夏……!」
「ははっ、冗談だ……半分はね。素直に言ってくれたことだし、いじめるのはまた今度にしてあげる」
「ん……っ」
耳元に熱い息を吐かれぞくりと背筋が痺れる、そのまま「ベッドへ行こうか」と囁いた瑠夏は俺を優しくベッドへとエスコートした。1人で眠るには広すぎるベッドへ上がり、瑠夏に言われるまま座った状態で脚を左右に開く。そこに瑠夏が割り込み、また俺のものを口に咥えた。そして今度は焦らすことなく強すぎる程の刺激を与えてくる。
「あぁっ、あ、んっ……!」
「ふ……ぅ……」
「あ、ああっ!」
ぐしゃぐしゃと瑠夏の髪をかき乱すようにして与えられる刺激に耐えていたが、すでに限界を迎えていたそこはあっけなく瑠夏の口の中へと熱を吐き出してしまう。瑠夏は気にすることなくそれを飲み込むと、ワイシャツの裾を捲りながら濡れた指で焦らすように俺の腹部をなぞる。そのまま少しずつその位置を下げていき、ようやく辿り着いた後ろへ指を埋めた。
「熱いな……それにどんどんボクの指を飲み込んでいく……」
「んっ……瑠夏、が……っ」
「ボクが、何……?」
「あ……っ俺を、毎日のように抱くから、だ……はぁっ」
「……そっか、ボクに抱かれるために身体が準備をしてくれているんだね」
「違、う!少しは頻度を落とせ、あ、あ……!」
指が増えてもそこには小さな圧迫感と、むずがゆいような快楽が生まれていくだけだ。
瑠夏と抱き合うとき痛みを感じることはほとんどなかった、それだけこの男は相手を優しく愛することに慣れているのだろう。今更そのことに対して何かを思ったりしないが、正直なところ快楽だけを与えられるというのはそれはそれで辛いものがある。瑠夏の手に、唇に溶かされてしまえば、俺は求めを拒むことが出来なくなってしまう。それこそ今のように、ノコノコとベッドまで連れられ言われるままに脚を開く、そんな浅ましい姿を見せることすら平気になってしまう。
自分から唇を重ね、さらに先の行為をねだることも。
「待ち切れない?……うん、ボクもそろそろ限界だ」
「瑠夏……っん、あ……っ!」
抜かれた指の代わりに、熱い昂ぶりが俺の中へ入り込んでくる。充分に解されたそこに痛みは生まれない、圧迫感とそれ以上に満たされていくような感覚と自分の全てが瑠夏に支配されているような、喜び。全てを埋めた瑠夏が抽挿を始めると、それら全ては快楽で塗り潰されていく。
「あ、あ……!」
「JJ……もっとボクを求めて」
「んっ……瑠夏、瑠夏……っ!」
その後は、お互いを貪りあうだけだった。飽きず唇を重ね、舌を絡め、抱き締め合う。何度目かもわからなくなるほど俺は白濁を撒き散らし、瑠夏も俺の中へと熱を注ぐ。そうして互いに欲を吐き出し切ると、並んでベッドへと沈んだ。瑠夏はまだ体温を求めるように、着せられているブカブカのシャツから肌までどこもかしこもベトベトになっている俺の身体を構わず引き寄せ、その胸に抱き込んだ。瑠夏の腕に包まれているという安心感と先程までの行為の疲れから、緩慢な眠気が俺の瞼をゆっくりと下げていく。
「JJ、ボクのJJ……愛してるよ」
「ん…………俺、も……」
今なら口に出来そうだった言葉は、声にならずに消えていく。俺は瑠夏の胸へ擦り寄るようにして流れに任せ目を瞑る。
これが幸せというものだろうかと、らしくない思考ごと深い眠りへと落ちていった。