どうしようもない人たち

「…………」

玄関をくぐってからピタリと足を止める。今の自分の姿を思い、それ以上足を進めることは躊躇われた。
ぽたぽたと自分の全身から垂れる滴が次々に絨毯へ染みを作っていく。任務の帰りに突然の雨に降られ、今の俺は全身濡れ鼠状態だった。どうしてああいった雨はやたら勢いが強いのか、たかだか数分の道のりで今や下着まで余す所なくびしょ濡れだ。このまま屋敷の中を進めば俺の歩いた道のりが小さな水たまりを作りながらしっかりと刻まれてしまうだろう。
どうしたものかと逡巡していると、廊下の先から見慣れた姿が歩いてくる。金色の髪を揺らしながら近付いてきた大きな影はその青い瞳に俺の姿を映し、口元に特徴的な八重歯を覗かせた。

「やあJJ、おかえり。あぁ、雨に降られてしまったんだね、びしょ濡れだ」

俺の頬に垂れてきた滴を指で拭いながら気さくに笑うこの男は瑠夏・ベリーニ。俺たちキングシーザーのボスであり……俺の恋人、と言うのは未だに慣れないがそういう関係の相手だ。俺の頬に触れていた瑠夏の指は、そのまま濡れて額に貼りついていた髪をどかし、そこへ口付けを落とす。俺は咄嗟に瑠夏の身体を押し返そうとするが、その手すら大量の水分を含んでいることを思い出し触れる直前で動きを止めた。俺の行動を見て小さく笑った瑠夏は、その手を取りぐいと自分の方へ引き寄せ胸の中へと抱き込んでくる。
冷え切った体にじわりと瑠夏の体温が染みてくる、と同時に自分の纏っている水分が瑠夏へと移っていくのがわかりその腕の中でもぞもぞと動くが、その動きを封じるように更に強く抱き締められてしまった。

「おい瑠夏、離せ……!」
「照れているのかい?本当にキミは可愛いなあ」
「違う……!瑠夏まで濡れる、というか場所を考えろ……っ」
「いいんだよ、どうせ今からお風呂に行くつもりだったんだ。それに、」

瑠夏の指が今度は顎に添えられ、そのまま軽く持ち上げられる。反射的に目を閉じると、すぐ唇にやわらかい感触が触れた。数回軽く口付けられ、俺はうっすらと目を開き瑠夏を見つめる。
青い瞳が、妖しい光を宿したまま真っ直ぐ俺を射抜いていた。

「キミに触れたい気持ちを、我慢なんて出来ないからね」
「ん……っ、おい」
「JJ、キミも早くお風呂に入らないと風邪をひいてしまうな……ねぇ、一緒に入ろうか」
「っ、何言って、瑠夏!」

瑠夏は俺を抱き締めたまま、無理矢理引き摺るようにして歩き出す。時折擦れ違う構成員の好奇の目に晒されながら、俺は脱衣所へと連れ込まれてしまった。文句を言う暇もなく瑠夏は俺を壁へ押しつけると、淫猥な手つきで身体を撫でながら服を脱がせてくる。瑠夏の指が触れる所からじわじわと熱が生まれていくのがわかり、頭がぼんやりと揺らぎだす。

「っあ……や……」
「ふふ、中までびしょびしょだね」
「んっ、瑠夏、服なら自分で……!」
「駄ぁ目、キミの恥ずかしがっている姿が見たい」
「っ、趣味が悪いな……ん、あっ」

上半身の衣服を全て剥ぎ取られ、瑠夏の手が下へ伸びベルトを抜き取ると、スラックスのファスナーを下ろし下着の上から焦らすような動きでそこをなぞる。もどかしい疼きに膝が崩れそうになり瑠夏にしがみつく、それを受けた瑠夏は俺を壁に押し付けたままゆっくりと座らせると、中途半端になっていたスラックスと下着を一気に抜き取った。同じように瑠夏も服を全て脱ぐと、俺の手を引いて立たせそのまま風呂場へと歩き出す。中途半端に昂ぶらされた身体はすでに先の行為を望んでしまい、俺は逆らうことも出来ず瑠夏の言うなりになってしまう。
この男はこうした雰囲気に持っていくのがうまい、相手に逆らう気を失くさせ自分の良いように話を運ぶのが得意なのだろう。俺の場合、惚れた弱みというのもあるだろうが。

「ほら、JJここに座って。洗ってあげるよ」
「い、いや、自分で、」
「いいから、ほら」

無理矢理バスチェアーに座らされ、すぐ後ろに同じようにして腰かけた瑠夏はいきなり頭の上からシャワーのお湯を降らせてくる。程良い温度のお湯が肌に触れそこからじんわりと体温が戻っていった。目にお湯が入り咄嗟に瞑ると、今度は瑠夏の手が髪の中に入り込みくしゃくしゃと掻き回してくる。滑るような感覚とふわりと漂ってくる香りに、髪を洗われているのだと気付いた。
匂いの付くものは嫌いだと言っても今更だろう、俺は小さくため息を吐いてそのまま瑠夏の手の動きに任せる。

「JJ、気持ち良いか?」
「ん……あぁ……気持ち良い」

瑠夏の指が与えてくる刺激は心地よかった、大雑把なように見えて俺の頭を洗う手つきは優しい。俺の言葉に瑠夏は満足そうに笑い、またシャワーのお湯を降らせてきた。顔にかかったお湯を拭いようやく目を開く、瑠夏のやりたいことはよくわからないなと呆れていると、ぬるりとしたものが俺の脇腹を撫でる。驚いてそこに目をやると瑠夏の手が脇腹に触れている、どうやら掌にボディソープをつけているらしくそのまま肌の上で泡を立てながら動き回った。

「んっ……瑠夏っ、止めろ、っ」
「どうして……?身体も洗わないと、ね?」
「何で手で、っ、う……!」

耳元に顔を寄せ、耳を軽く食みながら瑠夏の手は尚も体中を這い回る。胸の突起を掌全体で押し潰すようにして撫でられると、痺れるような快楽が身体の芯を溶かしていく。くすぐったい刺激に身を捩るが瑠夏は逆の手で俺の腰を抑え込み、自分の肌を擦り付けるように密着してきた。
隙間に入り込んだ泡がぬるりと滑り、そこからも弱い快楽が生まれてくる。

「や、ぁ……瑠夏……」
「ふふ、さっきより気持ち良さそうな顔だ……もっと良くしてあげる」

腰を抑えていた手が、更に位置を下げ昂ぶり始めているものへと触れる、泡塗れにされ擦られるとぬるぬるとした感触にそこは更に張り詰めていった。同時に胸も撫でられると強い刺激に身体がびくりと震え、あられもない声が漏れていく。それが風呂場に反響し耳の鼓膜を揺らす、羞恥と快楽に耐えられず何かに縋りたくて瑠夏の胸に身体を預けその肩に触れる、と、自分の背中に何か固いものが触れるのに気付いた。

「――っ!」

それが何かに気付き顔に熱が昇っていく、瑠夏も興奮しているのだ。耳へとかかる吐息は熱を孕み、その声は情事のとき特有の艶を含ませている。それに煽られ、俺もぞくぞくと興奮を高まらせていく。

「JJ……」
「あ、瑠夏……っ」
「ん……欲しくなった……?」

イスを蹴り飛ばすようにして身体の向きを変え、瑠夏へと腕を回し唇を重ねる。からかうように笑った瑠夏はまた唇を重ねると、今度は薄く開いた唇から舌を入り込ませ口付けを深くした。互いに唇を貪り合い、キスに集中していると瑠夏の手が腰を撫でながら後ろへと伸ばされ、滑るようにして指が中へと入り込む。

「っ、ん……!」

中で動き回る指は徐々にその数を増やし苦しいくらいに後ろを埋めていく、性急に進む行為に瑠夏の首元へ顔を擦り付け快楽と苦しさに耐えるようゆるく首を振る。抜き挿しが繰り返される度に苦しさは薄れ、快楽だけがより強くなっていくようだ。

「うあ、あっ……」
「っ……JJ……もう、おいで……」

指を抜いた瑠夏は、そのままするりと腰を撫でる。瑠夏の言葉に従うようにしてその上に跨り、自分から瑠夏のものを飲み込んでいく。指とは比べ物にならない圧迫感すら自分が瑠夏を受け入れている証明のような気がして、より身体を昂ぶらせる材料になってしまう。ようやく半分程を飲み込んだ頃、瑠夏は俺の腕に触れると妖しげに口角を歪ませた。嫌な予感に身体を固くした矢先、ぐっとその腕が下へと引っ張られる。次ぐ衝撃はいつかも身を襲った覚えのあるものだ。

「くあ、ぁ……っ!」
「ふふ……良い声だ」

やたら嬉しそうに囁いた瑠夏は、かぷと俺の喉へ軽く噛み付く。そこからもぞくりと快楽が沸き上がり、俺は瑠夏へと力の抜けた身体を預ける。ついでにその耳元へ、絶え絶えな呼吸と共に文句の一つも言ってやろうと口を開いた。

「瑠、夏……アンタ、無茶苦茶、だ……っ」
「ごめんごめん、あの時のキミはとてもそそる声を上げてくれたから、また聞きたくなってしまってね」
「こっちのこと、も、考え……っあ!」

瑠夏は置いてあったバスタオルを素早く床へ敷くと、その上に俺を押し倒しギリギリまで引き抜いたもので一気に貫いてくる。深く抉ったそれが中の感じる場所を強く擦り、俺は背を仰け反らせ熱を吐き出してしまう。頭の中を真っ白く焼き尽くすような快楽は中々終わらず、びくびくと飛び散る白濁は勢いのまま瑠夏の腹にもかかってしまう。
涙で滲む視界の中、瑠夏がそれを指で拭うのを眺めた。そして熱を吐き出したばかりのものへ塗りつけるようにしてまた刺激を与えてくる。

「待、っ!瑠夏、駄目だ、んっ、あ……っ!」
「イったばかりだから、感じすぎて辛いかい……?」
「わかって、るなら、っ……瑠夏、動くな、あぁっ!」

前をゆるゆると刺激しながら、瑠夏は抽挿を再開する。達したばかりでまだ快楽が引き切っていない身体へ前後同時に刺激を与えられるのは耐え難かった。瑠夏が動くたびに大袈裟なまでに身体が跳ね、中のものを締め付けてしまう。そして締め付けてしまったことで中の存在を強く感じ、自分への刺激として返ってきてしまうという見事なまでの悪循環だ。熱を吐き出したばかりのものがまた昂ぶり、先走りを垂らし始める。

「瑠夏、待っ、ん、あ……!」
「そんな声を聞いてしまったら待つことは出来ないよ、JJ……っ」
「ふ、くっ……は、あっ……!」
「声を我慢してるの?キミの抵抗は可愛いな……」

瑠夏はわざと動きを激しくし、中の感じる場所を強く擦り上げる。必死に声を押し殺そうとしている俺の努力を無にするような揺さぶりは続き、瑠夏の呼吸にも荒さが増していく。俺は瑠夏に縋りつくように腕を回し、自分から唇を合わせた。余裕なく舌を絡ませ合いながら瑠夏の激しい求めを受け入れていると、苦しい程の快楽に押し潰されそうになる。瑠夏がまた深く貫いてくると頭から足の先まで快楽が電流のように走り、俺はまた絶頂を迎えた。

「う、あっ……!」
「っ、く……!」

苦しげに呻いた瑠夏も、すぐ俺の中へと熱を注いだ。2人縺れ合うようにしてタオルの上へ転がり、瑠夏に抱き締められながら互いに息を整える。しかし流石にしばらくお湯も浴びず風呂場でこういったことをしていたからか、すっかり身体は冷えてしまった。瑠夏の体温に寄り添うように身を縮めると、回された腕がより強く抱き締めてくる。

「すっかり冷えちゃったね……お湯に浸かろうか」
「ん……あぁ……っ」

中から瑠夏のものが抜けていく違和感をやり過ごし、支えられながら立ち上がる。シャワーで軽く身体を流してからそのままやたらと広い浴槽へ、瑠夏に後ろから抱き締められながら浸かった。冷えてしまった身体には熱いくらいだったが、それも徐々に程良い温度に感じられるようになった。

「っ……おい、瑠夏」
「んー?どうしたJJ」
「手が、んっ、どこ触って……っ」
「ふふ……キミだって、1回で済むなんて思ってないだろう?まだキミが欲しいんだ、JJ……」

耳元で熱っぽく囁かれた言葉に、俺は反論や抵抗の術を全て奪われてしまう。ざばざばとお湯を忙しなく揺らしながら、また俺は瑠夏の求めを受け入れた。

「あ……っ、瑠夏、もう……!」
「ああ、ボクも……っ」

何度も繰り返された行為がようやく終わるころには俺はすっかり湯に当てられ、風呂場に連れて行かれた時のように構成員たちの好奇の視線に晒されながら瑠夏のベッドへと運ばれた。わざわざ自室のベッドへ運んだ理由は言わずもがな、だ。
この男の欲望は本当に底なしだと呆れながらも、俺は瑠夏の腕の中に抱かれる喜びを感じていた。
だからどうしようもないのは、きっとお互い様だろう。