触れてほしくなる体温

もう日付変わろうとする深夜に、俺は瑠夏の部屋で晩酌に付き合っていた。元々は新作のワインやらを試飲するというのが目的だったはずだが、一通り口をつけた後瑠夏は「もったいないから」という理由で俺も巻き込み次々と瓶を開けていた。ごろごろと転がる瓶の数にこの男は底なしかと呆れてしまう。

「んー?どうしたJJ、まだまだあるんだ、遠慮せず飲めよ?」

付き合わされている俺も相当飲んでしまっているが、それ以上に飲んでいるはずの瑠夏にはまだ余裕がありそうだ。口調こそいつもよりふわふわしているし頬も赤く染まっているが、ワインを煽るペースは少しも衰えない。俺はグラスに残っている液体をどうにか胃に流し込むと、空になったそれをテーブルに置く。

「俺は、もういい……アンタに付き合ってたら潰される」
「いいじゃないか、キミが潰れたら、ボクが優しくベッドに運んであげるよ」
「……もちろん、運ぶだけだよな?」
「やだなあJJ、無防備にしてるキミを見て、我慢できると思うかい?」

思わないな、と苦笑しながら呟きソファーへもたれかかる。革張りの冷たさが、火照った体には気持ちよかった。流石に少し付き合い過ぎたかもしれない、頭がぼんやりするし何だか呂律も回っていないような気がする。瑠夏は俺を見て軽く笑い、またグラスを傾けている。一体どれだけ飲めば気が済むんだ。

「そういえばJJ、最近霧生とはうまくやっているか?仕事は問題なくこなしてくれているけれど」
「……あぁ、前よりはつっかかってこなくなったからな」
「そうか、よかったよ。霧生は1度気を許したらとことん懐いてくれるからな、それまでは少し大変だけど、ね」

自分が大変だった頃のことを思い出しているのか、瑠夏はそれでもどこか楽しげに笑った。その表情に少し胸の奥が濁るが、無視して口を開く。

「少し、で済むか……あいつの新人いびりはキツすぎたぞ」
「ははっ、そうだな。もうあんなことさせないように、ボクも気を付けるよ」

今では、ここに来た初日に受けた霧生の私刑も笑い話として話せるようになっていた。もちろん瑠夏の気を付けるという言葉は嘘ではないだろうが、もう霧生は繰り返さないとわかった上での発言だろう。その内このネタで霧生をからかってやるのも悪くないかもしれない、きっと石松とパオロ辺りも乗ってくるだろう。そうすることであいつも、俺に対するわだかまりを感じずに済むだろうから。
それ以上に恨まれそうな関係を瑠夏と持ってしまったことがバレれば、その限りではないだろうが。

「まぁ、あいつはアンタに盲目的だからな」
「そうかな?慕ってくれるところは素直に可愛いと思うけれどね」

濁りが、暗い色を増す。瑠夏と交わした約束を信じていないわけじゃない、でもこの男の本質が簡単に変わるとはどうしても思えなかった。瑠夏から手を出さなくても、誘われればこの男は断わらないかもしれない。瑠夏は家族に優しいし、特に霧生をとても可愛がっている。ならあいつが抱いてくれと言ってきたとき、瑠夏はどうする?

「……なぁ瑠夏……本当に、もう……」
「ん……?JJ、どうした?」

俺は立ち上がり、ふらつく足でテーブルを横切ると瑠夏の隣に腰かけ、詰め寄るように体を寄せる。瑠夏は手に持ったグラスをテーブルに置くと、俺の髪を優しく撫でながらやわらかな視線を向けて問いかけてくる。

「……霧生とかに、手は、出してないんだろうな……」
「……出してないよ、ボクが抱くのはJJ、キミだけだ。そう約束しただろう?」
「だが……そうだ、霧生が誘ってきたら、アンタはどうするんだ?」
「霧生が?まったく想像つかないけれど……もちろん断るよ、申し訳ないけれどね」
「本当か?……本当に、断われるのか?」
「何だJJ、今日はやけに絡んでくるじゃないか」

くすくすと笑いながら、瑠夏は俺の背中へと手を回し自分の胸へと抱きよせてくる。酒のせいかいつもより少し高い体温にもっと触れたくて、自分からも瑠夏の背中へと手を回す。瑠夏は少し驚いたような息を漏らしたが、また小さく笑うとまた俺の髪をゆるく撫で始めた。

「こんなに甘えてきて……キミ、酔うと甘えんぼうになるのかい?」
「……知るか」
「なら、ボク以外の前ではあまり飲むなよ?こんな可愛いJJを見ていいのはボクだけだ」
「……アンタの前以外で、こんな油断した姿を見せるわけ、ない、だろ……」

言っている途中で流石に恥ずかしくなってしまい語尾の方は萎んでしまったが、瑠夏にははっきりと聞こえていたらしくさらに俺を強く抱きしめてくる。苦しいくらいに感じる瑠夏の腕の中で、俺は胸の濁りが溶けて流れていくのを感じていた。

「……瑠夏、苦しいんだが……」
「あぁ、ごめん。キミがあまりに可愛いことを言うものだからつい加減を忘れちゃったよ」

そう言って腕の力を緩めた瑠夏は、片方の手で俺の顎をすくいそのまま口付けてくる。求めるように薄く口を開くとすぐ舌が入り込み、俺の舌を刺激するように絡んできた。瑠夏の背中に置いた手に力を込めてしがみつきながら、その深い口付けに溺れていく。

「はぁ……ぁ……ん、う……」
「ん……はぁ……ふふ、もうボクに夢中って顔をしてる」
「あっ……瑠夏……」

瑠夏は服の裾から手を潜り込ませると、直接肌に触れてくる。くすぐるように背中から脇腹を撫でられ、くすぐったさに声を漏らしてしまう。ねだるようにその名を呼ぶと、体を優しくソファーへ倒された。

「お、い……ここで、するのか?」
「どちらでもいいけれど……キミが我慢出来なさそうだからね」
「っ……そういう、訳じゃ、」
「あとボクも、ベッドに行くまで待てそうにない」
「瑠夏、待、あっ、ん……」

俺の服を慣れた手つきで脱がせながら、首筋から鎖骨へと唇が何度も触れる。服の前を全て開かれ露わになった肌に、今度は瑠夏の指が触れていく。突起の周りをなぞりながら直接は触れてこないその動きにもどかしく体を揺らすと、鎖骨から下りてきた瑠夏の唇が逆側の突起を弱く吸い上げ、熱い舌が触れる。

「あ……!」
「本当に、可愛いな……なあJJ、キミこそ他の奴に抱かれたりしてないだろうな?」
「あ、たりまえ、だ……っ」
「本当かなぁ……キミ結構流されやすいし、心配だよ」

舌で触れているのとは逆の突起にも指が触れ、軽い力で引っ掻かれる。わずかな痛みはじわりと広がる快楽でかき消されてしまい、体が小さく跳ねた。両方に与えられる刺激に瑠夏へしがみついている指に力が入ってしまう。
瑠夏以外の奴に抱かれるなんて、考えられない。俺が欲したのは気が多くて、奔放で、それでもその存在に惹きつけられてしまう魅力を持ったこの男だけだ。
瑠夏と共に生きていけるなら、それだけで俺は死んだっていい。

「俺は、んっ……アンタ、しか、欲しくな……あぁ!」
「……そうだ、JJ。キミはボクだけを欲しがれ、もし誰かに体を許したりしたら、」

瑠夏は胸から舌を離すと、俺の耳に顔を寄せ、そこをを少し強めに噛んだ。はっきりとした痛みはあるが、それすらも熱くなった体には刺激になってしまう。そのまま瑠夏は熱い息を吐きながら言葉を紡ぐ。

「キミを、ボクしか見れない場所に閉じ込めてしまうかもしれないよ?」

少しからかうようなその言葉には、それでも冗談にはしないという狂気が孕んでいるように感じた。しかし俺にとってはその狂気すら嬉しく感じる、それはこの男が俺に本気であるという証拠に思えるからだ。俺も倣うように瑠夏の耳元に唇を寄せると、その耳をガリ、と噛む。

「好きに、しろ……しかし、殺すんじゃ、なかったか?」
「止めたよ、殺して終わりになんかさせない……一生、ボクしか見れないようにしてやる」
「……それじゃ、今と、変わらないな……あ……あっ!」

笑いを含んだ声でそう告げると、瑠夏は性急に俺のベルトを外すと一気にズボンと下着を脚から抜き、すっかり昂ぶってしまっている俺のものを握り込むと上下に動かしてくる。ダイレクトな刺激に思わず腰が浮いてしまう。

「瑠夏、あ、あぁっ!」
「まったく、たいした殺し文句だな……ゆっくり可愛がってあげられなくなるじゃないか」
「んんっ……!」

先走りで濡れた指が俺の中に入り込んでくる。数回抜き差しされただけでさらに指が増やされ圧迫感で息が詰まった。それでももうすっかり瑠夏に慣らされてしまっているそこは、痛みもなくその指を飲み込んでいってしまう。中で動く指は、俺の感じる場所を的確に擦り上げながらさらに増やされ、激しくかき回される。

「あっ……!瑠夏、もう……っ」
「うん……ボクも限界だ……いくよ」

指が抜かれ、ベルトを外した瑠夏は熱い昂ぶりを取り出し俺の後ろへとあてがった。ゆっくりと埋め込まれると、それだけで達しそうに体は昂ぶりを増していく。全てを埋めた瑠夏は、俺の額に貼りついた髪をかき上げそこに口付けを落としてくる、次いで瞼、鼻先、頬と触れていき、最後に唇同士を重ねた。

「ん……」
「なあJJ、ボクはキミに嫉妬されると嬉しくて仕方ないんだ、知ってたか?」
「……知る、か……」
「でも心配しなくたって、ボクはキミのものだし、JJ……キミも、ボクのものだろう?」
「…………そう、だ……アンタは俺のものだし……俺は、瑠夏のものだ」
「うん、そうだ」

満足そうに笑いながらそう言った瑠夏は、埋めたものをゆっくり動かし始める。少しずつペースの上がっていく抽挿に、俺はまともな言葉を口にすることも出来ずひたすらに揺さぶられた。合間に互いの唇を貪り、舌同士を触れ合わせるだけでもぞくぞくと快感が生まれていった。粘つく水音が耳をも刺激し、俺は全身を瑠夏に犯されているような感覚に震えるほど興奮してしまう。

「……っ、すごい、締めつけてくるな……そんなに欲しかった?」
「あ、あ、ん……っ!」

激しく俺を攻めながらも余裕のある口ぶりでそんなことを聞いてくる瑠夏、俺の方は与えられる感覚で頭がおかしくなりそうだというのに。悔しくなった俺は瑠夏の首元に唇を寄せ、そこへ少し強めに噛み付いてやった。

「……いいな、それ……ボクの体に、キミが所有の証をつけてる、みたいだ」
「何、言って、あっ……!」

瑠夏の行為はさらに激しさを増し、まるで俺の全てを喰らい尽そうというような瞳で真っ直ぐと見つめてくる。それを受けてまた互いに唇を合わせると、瑠夏の手が昂ぶった俺のものを性急に擦り上げる。その刺激に強く瑠夏のものを締めつけてしまい、ほとんど同時に俺たちは熱を吐きだした。

「あぁ……っ!」
「っ……はぁ……」

力の抜けた俺の体を、瑠夏は自分の上へ乗せるように抱え上げてくる。1回で終わるなんて甘いことは考えていなかったが、少しの休みもなしに求められては体が辛い。けれどそれを聞き入れてくれるような男ではないことも、今までの経験から充分わかっている。

「っ……あれだけ飲んで、よくこんな、っ、あ……」
「あれくらいなんてことないさ……それより、もっと乱れる姿を見せてくれ、JJ……」
「おい、少しは加減、ん、あ……っ」


下から突き上げられてしまうと、すぐ俺の体は与えられる快感に溺れていってしまう。また朝まで無茶苦茶に求められるだろうことを想像し、呆れたような笑いが浮かんだ。瑠夏の求めを全て受け入れると、独り占めにすると決めてしまったのだからこれはある意味自業自得だろう。

俺たちは飽きずに口付けを交わしながら、長い夜を共にしたのだった。