Colorful for you

自分でも馬鹿らしいことをしているのはわかっている。それでもここまで来てしまって後には引けない。頭に、自分には到底似合わないものを揺らしながら俺は瑠夏の部屋の扉をノックし名前を告げる。すぐ返ってきた声を受け、俺は萎みそうになる気持ちをどうにか奮い立たせながら瑠夏の部屋へと足を踏み入れた。

「JJ、待ってた、よ…………」

瑠夏が、俺の姿を見て固まる。それもそうだ、誰が見ても似合わないだろうリボンを頭に結んだ奴が深夜部屋を訪ねてきたらきっと瑠夏じゃなくてもそういう反応を取るだろう。しかしこれはイタリアの風習だと聞いていたのだが、やはりパオロに騙されたのだろうか。薄々おかしいとは……あまり思ってはいなかったが、瑠夏の反応を見れば嫌でも気付く。
顔に熱が昇っていくのを感じながら俺は頭についている間抜けな飾りを取ろうと手を伸ばす、が、いつの間にかすぐ目の前に来ていた瑠夏がその手を掴み、逆の手で俺の腰を抱くとぐいっと自分の方へと引き寄せてくる。

「っ、瑠夏、離せ……っ」
「なあJJ、これ自分で結んだのかい?ふふ、縦結びになってる」
「うる、さい……パオロの奴に騙されたんだ、今取る」
「駄ぁ目、なぁJJ、そのままベッドに行こう」

は?と俺が呆気にとられていると、瑠夏は俺を引きずるようにして寝室へと歩き出し、着いた途端俺をベッドへと押し倒した。あまりにも急な展開に俺は頭の整理が追い付かない。それでも瑠夏が服に手をかけた瞬間我に返り、その身体を押し返す。

「ま、待て瑠夏……どうしていきなりこうなるんだ」
「だって、これ」

これ、といって俺の頭に付いたままのリボンを指で弄る瑠夏。その口調はやたらと楽しげで、多分またろくでもないことを思い付いたのだろうと俺はつい逃げ腰になる。しかし瑠夏がそれを許すはずもなく、強い力でベッドへと身体を押さえ付けられてしまった。大型の獣に圧し掛かられてしまえば、この体勢からの脱出などほぼ不可能だ。

「プレゼントは自分、ってことだろう?違うのかい?」
「い、いや、その……だな」

間違ってはいない。パオロの言っていたことを鵜呑みにしてここまで来てしまったが、瑠夏相手に自分をプレゼントなどということをすればどうなるのかなんて火を見るより明らかだ。ただここまで早くベッドに連れてこられるとは予想していなかったが。まだもぞもぞと抵抗を続けている俺を見て瑠夏はふふ、と笑い、頭に付いているリボンを解く。自分で解きたかったから先程俺を止めたのだろうか、そう考えてすぐ俺は身体をひっくり返され、うつ伏せの状態にさせられる。今度は何だと文句を言う暇もなく、瑠夏は俺の上半身の衣服を全て剥ぎ取ってから両手を背中で一纏めにすると、器用に先程解いたリボンでそこを括ってしまう。

「瑠夏、何を……っ」
「うん、やっぱりキミ、リボンが似合うよ……可愛い」

人の話を聞け、似合っても嬉しくない、と次々に不満は出てくるが、やたら嬉しそうに笑う瑠夏の表情を見ているとそれは声になる前に萎んでしまう。惚れた弱みか知らないが、この男の好き勝手な振舞いを俺はどうしても無下に出来ない。
そうだ、と瑠夏は声を上げ、腕を縛られた俺を放置したまま寝室を出ていってしまう。まさかこのままにされるなんてことはないよなと不安がよぎったが、すぐに瑠夏は戻ってきた。手に、色とりどりのリボンを持って。

「お、おい瑠夏……?」

嫌な予感、しかしない。瑠夏はまた圧し掛かってくると、俺のスラックスと下着をあっさりと脱がせ、突然まだ何の反応も見せていない俺のものをその口に咥える。「なっ……!」と慌てて身を引こうとするが、両腕の自由は利かない上に腰を抱え込まれてしまい、俺は抵抗の術を失ってしまう。瑠夏の熱い口腔が、舌が、ぬるぬるとしたそれらが俺のものを緩やかに刺激する。あっというまに快楽に火をつけられ、それは瑠夏の口の中でどんどん昂ぶっていった。わざと軽く歯を立てられ舌先で先端を刺激されると、強い快感に視界がぼやける。喉の奥から甘ったるい喘ぎが漏れ始めた頃になって、瑠夏はあっさりとそこから口を離してしまった。濡れたそこが外気に晒され、それだけでびくっと反応を返してしまう。

「あ……瑠夏……?」
「物足りなそうな顔だね……最後までしてあげたいけれど、まずはこれ」

横に置いていたリボンを1つ手に取ると、瑠夏はあろうことかそれを昂ぶっている俺のものへと巻きつけ、結ぶ。根元を少しきついくらいに縛られ、痛みに眉を顰めるが瑠夏は楽しそうに笑うだけだ。そしてまた、今度は少し幅の広いリボンを手に取り、突然それで俺の視界を覆った。

「なっ、おい……!」
「ほらJJ、暴れないで」

そのまま後頭部で結ばれ、俺の視界は失われてしまう。どうにかそれを外そうと暴れる俺を優しく押さえ付けた瑠夏は、ふふ、とやたら楽しそうな声で笑う。悪趣味だ、前々からわかっていたことだがこの男はこういった行為のとき程意地が悪くなる、せめて自由の利く口で文句を言ってやろうとするが、口を開いた途端そこに何かが入り込んでくる。舌で押し返そうとして、その凹凸から瑠夏の指だということがわかった。瑠夏の指は押し返そうと差し出した俺の舌を挟み、くにくにと弄る。

「は……っや、ぁ」
「うん……いいかな」

俺の唾液ですっかり濡れてしまった指をようやく抜くと、唐突に身体を転がされ俺は瑠夏に尻を突き出すような格好でベッドへ倒されてしまう。そしてすぐ、後ろへとぬるりとした感触が触れる。周囲をぐるりと撫で、数回浅く挿し込み様子を見るようにしながら、それは徐々に深く俺の中に入り込んでくる。

「っ、あ……」
「ふふ、今ぎゅうって締まったよ……見えないから、余計感じるだろう?」

俺の中に入り込んだ瑠夏の指は、そこを丁寧に解していく。それは見えていた所で楽しくはない光景だが、見えないとなるとそれはそれで凶悪だ。見えないことで無駄に想像力が働き、俺は瑠夏の指の動きを想像してしまう。この男が熱っぽい瞳でそこを見ながら、淫猥な手つきで指を抜き挿しし、掻き回しているところを。想像に身体を熱くし、実際与えられる刺激でそれは更に高まっていく。

「あ、も……っ、瑠夏……!」
「指じゃ物足りなそうだ……でも、もう少し我慢して」

背中に熱い吐息が触れる。すぐやわらかい感触が何度も降ってきて、それが瑠夏の唇だと気付く。俺の後ろを掻き回す手つきとは違う優しい行為に、俺は頭をベッドに擦りつけるようにして悶える。その時視界を覆っていたリボンが少しずれ、僅かな隙間からベッドのシーツが覗いた。そのまま視線を自分の後ろへと向けると、獰猛な欲を宿した青い瞳とぶつかる。ぞくり、と身体が震え、それだけで俺はどうしようもなくなってしまう。

「勝手に外しちゃ駄目だろう?」
「瑠夏、もう、早く……してくれ……っ」
「……そんなに、ボクが欲しいのかい?」
「あぁ、欲しい……っ、瑠夏のを、早く……!」

理性を捨ててねだると瑠夏はようやく俺の中から指を抜き、代わりに熱く昂ぶった塊をそこにあてがった。その雄に貫かれる期待に小さく声が漏れ、それに煽られたように瑠夏は一気にそれを俺の中に埋め込んでくる。
強い圧迫感と広げられていく痛み、それもすぐ奥からわきだす快楽と混ざり合う。そのまま揺さぶられると背筋が震えるような快感が走り、俺はすぐに絶頂へ向けて昇り詰めていく。

「――っ、あ!瑠夏、前解け、あ、あっ!」
「ん……っ、でも、解いたらキミ、すぐイっちゃいそうだしなぁ」
「んっ、あ……苦し、瑠夏……っ!」

俺のものは痛いほどに張り詰め、熱を吐き出したくてびくびくと震える。次々と快楽を与えられながらも達することが出来ないそれは、痛みを与えられるより遥かに辛い拷問のようだ。必死の訴えに耳を貸さず、瑠夏は俺の胸へと手を伸ばし、突起を指で刺激してきた。快楽の量は増し、何度も絶頂に近い感覚が襲ってくる。このままでは頭が焼き切れそうだ。

「あ、あ……っ!」
「っ……可愛いなJJ、快楽で歪むその表情、すごくそそるよ」
「瑠夏、頼む、から……あっ、解いて、くれ……っ!」

容赦なく後ろを揺さぶられ、胸を刺激され、なのにイくことは出来ない。苦しさと強すぎる快楽に涙が零れる、「仕方ないなぁ」と呟いた瑠夏は、俺の胸から手を離し、後ろに括られていた両手を解放してくれた。理性など欠片も残っていない、俺は自由になった両手で自らのものに触れ戒めを解くと、そのまま強く擦り上げる。

「あ、あぁっ!」
「っ、く……!」

勢いよく白濁が撒き散らされ、同時に俺は瑠夏のものをきつく締め付けてしまう。苦しげに呻いた瑠夏は、数度深く俺を揺さぶり、そのまま奥へと熱を注ぐ。そしてずるりと瑠夏のものが抜けていくと、俺は力なくベッドへと倒れ込んだ。たった1度の行為で身体はもう疲弊しきっていた、快楽を与えられ過ぎても辛いということを、この男はわかっているのだろうか。
俺の横へ並ぶようにして寝転がった瑠夏は、その胸へ俺の顔を押しつけるようにして深く抱き込んでくる。その体温と髪を梳かれる優しい仕草に、絆されているのだとわかっていながらも俺は瑠夏をあっさりと許してしまう。自分でもどうかとは思うが、これだけはどうしようもなかった。

「流石に疲れさせちゃったね、少し休もうか」
「……まだやるのか」
「当たり前だろう?出来ることなら今日1日、キミをベッドから離したくないくらいだ」
「っ……そんなに、は、無理だ……」
「ふふ……でも、それなりに覚悟はしてくれよ?」

折角の誕生日なんだ、もっとキミを貰わないと、とからかうような口調で囁いた瑠夏は、俺の瞼へと口付けを落とす。
……まぁ、仕方ない。俺はプレゼントとしてここに来たようなものなのだから。自分からも瑠夏へと口付ける、朝までか、昼までか、この男の気が済むまでいくらでも付き合ってやることにしよう。
そうして色とりどりのリボンがばら撒かれたベッドの上で、俺は忘れていた言葉を告げる。

「瑠夏……誕生日おめでとう」
「……うん、ありがとう、JJ」

やわらかい唇が何度も触れる。俺はまた激しく求め合うまでの短い時間を、瑠夏と触れ合いながら穏やかに過ごした。