あけましておめでとうございます!
[2013年 1月 4日]
この男の考える事は、稀に……時折……いや、頻繁に俺の理解を越える。狭い浴槽の中で、俺はなるべくその肌に触れないよう身を固くしていた。
風呂に入る、と劉が言い出したのはついさっきのことだ。新年は家族で祝うものだとよく知る顔をつき合せながら食事を済ませ、その気安さからかいつもより多くの酒を飲んでいた劉は、こころなし機嫌が良いように見えた。
部屋に戻った途端風呂の準備をしろと命令され、あげく貴様も入れと無理矢理服を脱がされ、拒否も抵抗も許されず気付けば狭い風呂に男二人で浸かる羽目になっている。
「……気は済んだか」
「あぁ。一人でも手狭な場所だが……存外、悪くない」
劉が動く度、掠める肌の感触に落ち着かない。触れてくるわけでもなく、かといって離れられる程のスペースは無いせいで常にどこかしらが触れている。
何だこれは、なんらかの罰なのか。思い当たる節は無いが、さっきの宴席ででも何か劉の気に障る事をしてしまったのだろうかと、いい加減のぼせ始めた頭で考える。いやのぼせ始めたどころではない、頭に熱が集まっていく感覚と渇きを訴える喉、それに呼吸のペースも上がっている。そろそろ出なければ、普段湯につかる習慣の無い身体は耐えられそうになかった。
「もう……いいだろう……俺は、上がらせてもらう」
腰を浮かそうとすれば、腕を掴まれ引き戻される。ぐらりと傾いだ身体が、なす術無く劉の胸へ倒れ込んだ。どうやらすでに限界だったらしい、熱さで意識がぐらぐらと揺れる。
「湯あたりか?貴様は、こうして湯に浸かる習慣はなさそうだからな」
「悪、かったな……劉、離せ……」
「仕方ない、たまには貴様も労わってやろう」
「は……?……っ、おい劉!?」
嫌な予感に振り向けば、意地悪く上げられた口角が目に映った。そしてすぐに自分の身体が浮く感覚と、大きく跳ねる水の音。湯の温度が高かったため外気に触れた肌は冷え、俺は身震いをしてからようやく今の状況を把握する。
「床が濡れるな。後で拭いておけ、デスサイズ」
「なっ、降ろせ……っ!」
「その辺に倒れられても困る、怪我でもされれば、仕事に支障が出るだろう」
からかうような笑みと共に告げられた言葉は、俺でも嘘だとわかる。ただ俺の反応を楽しんでいるだけだろう、そのまま部屋を横切りやや乱暴にベッドへ放られると、それでもようやく慣れない浮遊感から解放された俺は小さく息を吐いた。
劉は傍の水差しを手に持ちコップへ水を注ぐと、半分ほどを喉へ流し込んだ。ついその動きを目で追っていると、劉の視線が俺へ向く。
「欲しいか?」
「……あぁ、アンタのせいでのぼせたんだ。水くらいもらう権利はある」
よこせと腕を伸ばせば、それを避けられまたグラスの中身は劉の口へと注がれていった。だろうと思ったと上げた手をベッドへ落とせば、そのまま俺を見ていた劉が急に覆い被さってくる。
「なっ、おいいきなり……っ、く……」
無理矢理重ねられた唇から、生温い液体が注がれた。それが、先程劉が口に含んだ水だと気付き吐き出そうか数秒迷った末に、仕方なく飲み込んだ。そもそも口を塞がれたままでは、吐き出しようもない。
喉越しとしては最悪だが、乾きは満たされた。似合わない行為が終わった後も劉は俺を組み敷いたまま動かず、なのでこの先の展開は容易く想像出来る。
「気が乗らないと言ったら?」
「無理矢理犯されたいのなら、そう言えばいい」
「……止めてくれ、そんな趣味は無い……んっ」
胸の突起を爪先でガリと引っ掻かれ、痛みと疼きが一度に身体を襲った。次にそこを舌でねぶられ、やわらかく転がされれば徐々に声が抑えられなくなっていく。俺の反応に気を良くしたのか、劉の指は逆の突起も捏ね回し始めた。知らなかった甘い触れ方に身体が敏感に反応してしまう、視線をずらし視線を劉の顔へ向ければ、舌に墨一色の刺青が見えた。
時間をかけた愛撫はこの男の趣味ではないはずだ、だからいつもの気まぐれだろう。精神的にいたぶるためならそうした事もするだろうが、その時はこうして俺の四肢を自由にしたりはしないはずだ。自分から求められず、しかし拒否も許さないよう縛りつけているはずだ。
「あっ……く……」
「もう濡らしているな、相変わらず準備の良い身体だ」
「ん、ん……っ違、う……!」
先走りを塗りつけるように、包んだ手で扱かれるとそこはひっきりなしに透明な液を漏らし続ける。中途半端なまま手が離され、濡れた指はそのまま後孔をなぞっていった。指先が浅く入り込んだだけで、身体が固く強張る。
「そう期待するな」
「っ、あ、あっ……止め、ろ、そこ……っ」
弱い部分を軽く曲げられた指で何度も擦られると、自然と腰が浮いてしまった。それこそ言われた通り期待するように、ねだるように。羞恥に腰を引こうとすれば、長い指が肉を割り、更に深くへと入り込んでくる。
もっと奥に、もっと、身体を引き裂くようなものが欲しい。獣の熱は上がる一方で段々現実がぼやけていく、自分の心を、過去を遠くにやってしまう。そうしてこんなときはいつも、自分の目がおかしくなるのだ。
「劉……っ、は……」
「フン……惑わす目だな」
笑みが歪む、劉の声が僅かに掠れたように聴こえたのは、俺の身体が跳ねる度に鳴るスプリングの音やシーツが擦れる音のせいだろうか。大きな掌が視界を覆い、何もかもが闇の中に溶ける。腹の中への鈍痛と後孔が引き攣る感覚よりも、最後に見えた一瞬の表情が焼き付いて離れない。
「あぁっ!あ、りゅ、う……っ!」
「たまにと甘やかせば、これか。つくづく貴様は救われない男だよ、デスサイズ」
苛立ち混じりの声と共に、それでも熱く猛る劉のものは俺の中を激しく穿つ。少しの優しさもなく、激情に駆られたような揺さぶりは俺の思考を徹底的に破壊していった。どんな感情も形にならず、ただ与えられる激しさに耐え歯を食い縛る。
こうした行為の中で、俺は時折劉が別の生き物に見えた。それは、どんな未来ももたらさない破滅を望むもの。俺の中にこびりついた弱さが、夢を見るもの。だから何も見えないのは好都合だった、それを選ぶ事は、自分を裏切る事だから。
「く、ぅ……っ、あ、う……!」
「もっと啼け、そうして私に縋り絶望しろ……JJ……っ」
「あ、あ……っ」
肌に冷たい感触、これは劉の髪だろうか。夜の闇のように暗い色のそれを、同じ色の視界で思った。肌に男が触れる度、何かが変わってしまうのではないかと恐れている。だから早く、死なない弱さを殺さなくてはいけない。
「も、う……っ、劉……!」
「安心しろ、全部吐き出させてやる……っ、代わりに、私のものも全て、受け入れろ……!」
劉の声が遠くなる、一瞬眩んだ意識の後肌の上と内側に熱を感じた。脱力することすら許されないまま、昂ぶったままの劉のそれがまた俺の中を蹂躙していく。どうにもならない快楽に手はしがみつくものを求め、乱れたシーツを必死で掴んだ。あぁ早く、早く初めの決意を遂げなければ。奪われたものを取り返し、この男の心臓に鉛玉を撃ち込んでやるという、願いを。
シーツを掴む手が男に触れたくなる前に、闇の中に居る男の形が変わってしまう前に、早く。
おわり
あけましておめでとうございます!
[2013年 1月 4日]