溶け合う体温
「瑠夏」
随分久しぶりに瑠夏の顔を見たように感じる、実際はひと月程だったと思うのだが、ここ最近は新規事業の視察や湾岸の管理、その他もろもろに忙殺され瑠夏はほとんど屋敷に顔を出せない状態になっていた。戻っていると聞いて部屋に向かえば、疲れ切った様子でソファーに腰かけ仮眠をとっているのでいつも声をかけず静かに部屋を出る。
別に急ぎの用事でもない、顔さえ見れればいいんだ。こんな思考も大概どうかと思うが、俺自身も最近では色々と仕事を任せてもらえるようになり、瑠夏にだけべったりとついているわけにはいかなくなってきていた。離れていることが多くなり今回に至ってはひと月顔すら見ていないから、だから、
少しだけ、淋しいと感じてしまっただけだ。
瑠夏は俺の呼びかけに振り向くと、目尻を下げ破顔する。
「JJ……何だか随分キミの顔を見ていなかった気がするよ」
「……ひと月くらいで大袈裟だ」
自分も同じことを考えていたなんてことは口が裂けても言えない、そういった素直さは自分の性にあわないし、この男を調子に乗らせると、後でその言葉がどんな風になって自分の身に返ってくるか容易に想像がつくからだ。それでも同じ気持ちでいたということが嬉しくなってしまい、俺はばれないよう顔を逸らした。
「……ふふ、JJも同じ気持ちだったんだね、嬉しいよ」
「なっ……瑠夏……!」
ぎゅうっと瑠夏の胸へと抱き込まれ、俺は焦ってその身体を押し返そうとする。ここは屋敷の廊下だ、いつ誰が通ってもおかしくないというのに。俺の様子が可笑しかったのか瑠夏は小さく笑うと、少し身体を離し今度は顎をすくい唇を重ねてくる。
「ん、う……!」
「ん……」
唇を割って舌が入り込む、歯列をなぞり、逃げようとする俺の舌を無理矢理絡め深く長い口付けを続ける瑠夏。流されているとわかっていてもそうされれば俺はこの男に溶かされてしまう、押し返そうとしていた手で瑠夏の服を掴み、縋りつきながらその口付けを受け入れた。満足したのか瑠夏は口を離すと、最後にもう1度軽く口付けてから俺の身体を解放する。俺は酸素の足りない頭のまま瑠夏をぼうっと見上げた。
「……そんな顔をしないでくれJJ、今すぐキミを抱きたくなってしまう」
困ったように笑った瑠夏は俺の頬へと口付ける。またすぐ屋敷を出なくてはいけないのだろう、貴重な時間を俺なんかのために使わせてしまって申し訳なさが募る。淋しいと感じていたのは俺だけじゃないと、そうわかっただけで充分だ。
「……さっさと行ったらどうだ、どうせ霧生辺りを待たせているんだろう?後で奴に俺が怒られる」
「ははっ、そうだね……じゃあ、いってくるよ」
くしゃりと俺の頭を撫で、背中を向けた瑠夏はすぐにその姿を廊下の向こうへと消してしまう。そっけないわけではない、それだけ忙しいということだ。むしろこうして抱き合いキスを交わす時間を作ってくれただけで感謝しなければいけない程だろう。
「っ……」
瑠夏の体温と香りを思い出す、口付けられ口腔を動き回る舌の感覚を思い出す。たかがひと月だ、しかしあの男の頻繁な求めに応えているとそれはとても長い期間に思えた。そして、今度はいつ会えるかなんてわからない。
俺は早足に自分の部屋へ戻るとベッドに倒れ込み、熱くなってしまった身体をどうにかするためスラックスの前をくつろげ、すでに熱く反応し始めている自分のものを取り出す。少し上下に抜くとすぐに先端から先走りが漏れ、室内に粘つく水音が響く。
「ん……くっ、は……あ」
違う、今欲しいのはこんな緩慢な刺激じゃない。自分のものを擦っているのとは逆の手を服の中に潜り込ませ、胸の突起を摘まみ、押し潰す。
「あ……はぁ……」
じわじわと、鈍い快楽が下半身へと集まっていく。しばらくそうして胸と自分のものを同時に弄っていたが、その内やはりもどかしいような感覚に物足りなさを感じてしまう。少し逡巡し、スラックスを下着ごと膝まで下ろすと胸を弄っていた指を口へ移し、咥える。その指にたっぷりと唾液を塗りつけてから、自分の後ろへと濡れた指を添える。
「っ……ん……!」
つぷり、と指が中に入り込む。内部は熱く収縮しその指を貪欲に飲み込んでいく、指を抜き挿ししながら、少し解れたところで本数を増やした。自然と、その動きを瑠夏と重ねてしまう。あの骨ばった長い指が俺の中に入り込み、感じる場所を探りながら中で轟く様を想像してしまう。想像の瑠夏の指に合わせるようにして自分の指を動かす、感じる場所を擦り上げ、口からはあられもない声が漏れる。
「あっ……ん、瑠夏、あ……瑠夏っ」
自分のものが一層張り詰めていく、後ろを激しく抜き挿ししながら同時に前も強く擦り上げる。頭が白く痺れていく、そのまま身体をびくんと揺らし、手の中に熱を吐き出した。激しくなってしまった行為のせいで荒い息を吐きながら、俺は後ろから指を抜きスラックスを上げると、後処理をしようと身体を起こす。
そこで、俺は初めて自分以外の気配に気づく。
「――っ!」
「ふふ……ようやく気付いてくれたね」
楽しそうに笑いながら、ドアの傍に立っていた瑠夏は俺の方へと歩みよってくる。いつからだ、一体瑠夏はどこからどこまでを見ていたというのだろう、俺は軽いパニックを起こしながらただ呆然と瑠夏を見ていた。ギシリとスプリングの鳴る音に、俺は我に返り身体を引く。が、すぐ壁にぶつかり迫ってくる瑠夏から逃れることが出来なくなってしまう。
「瑠、夏……いつから」
「んー……途中から、かな。キミがここ、」
瑠夏の手が伸びてきて、服の上から胸の突起を押し潰す。達したばかりで敏感になってしまっている身体はその刺激でびくりと跳ね、また小さく熱が燻り始める。
「あっ……!」
「ここをこうして、自分の手で弄り始めた所から。声が外に漏れていたから、つい入ってしまったよ」
「瑠夏、止め、ん……っ!」
「でもキミ気付いてくれないから、終わるまで待っていたんだ」
嘘だ、気付いてほしかっただけなら声をかければいい。そもそもこういう場面を見た場合そっと出ていくのがマナーじゃないのか。それをわざわざ気付かれないように息を顰めてまで、俺のしていたことを見ていたというのだから趣味が悪い。俺が言葉を詰まらせていると、瑠夏は服の裾から手を潜り込ませ、今度は直接胸を弄る。
「あ……瑠夏、アン、タ、仕事があったんじゃ……ん!」
「キミと別れてすぐ、先方からキャンセルの電話が入ってね。夕方まで時間が空いたから、さっきの続きをと思って」
「続き、って、んっ、アンタ、休まなくていい、のか、あっ」
「あんな表情でボクを誘っていたじゃないか……今だって、ボクにされるのが待ち切れなくて、一人でしていたんだろう?」
「っ……あ、瑠夏……!」
スラックスを下着ごと脱がされ、自分の出したもので濡れてしまっているそこに瑠夏の手が触れる。顔を寄せ、俺の耳や頬に口付けを落としながら耳元で、「ボクが欲しくて仕方なかったんだろう……?」と囁かれると、昂ぶった身体はもう逆らうことが出来なくなってしまう。瑠夏の指は俺のものを軽く撫でた後、後ろへと入り込んでくる。
「ふふ、すっかりやわらかくなってる……さっきボクの名前を呼んでいたよね?ボクのことを思ってしていたの?」
「っ、あ……」
「ボクを呼びながらイくキミはすごく可愛かったな……ねえ、もっと見せてくれるかい?」
カチャリとベルトの外れる音、俺の姿を見て興奮していたのか瑠夏のものはすっかり昂ぶってしまっている。瑠夏は俺の身体をベッドへうつ伏せに倒すとそれをゆっくりと埋め込んでくる、そして全てを収めると性急に抽挿を始めた。
「く……ぁ、瑠、夏、ん、あっ……!」
「ほらJJ、前は自分で触ってごらん、さっきみたいにね」
「っ、ん……はぁっ……!」
瑠夏の言われるがままに、自分のものへと手を伸ばす。すでに勃ち上がり、触ればすぐにでも熱を吐き出してしまいそうなそこを握ると上下に擦る。瑠夏に見られながら自分でしているという状況はどうしてか俺を酷く興奮させた。後ろから激しく瑠夏に揺さぶられ、前を自分で擦り、俺はあられもない声を上げながらどんどん昂ぶっていく。
「あぁっ……!あっ、瑠夏……!」
「良い声だ……もっと聞かせて?キミの声で、ボクも興奮する」
「うぁ、あ……!あぁ!」
びくびくと身体を痙攣させながら、俺はシーツへと白濁を撒き散らす。そしてぐったりと倒れ込もうとすると、許さないとばかりに瑠夏はギリギリまで抜いたそれで深く貫いてくる。
「――っああ!」
「まだだよ、JJ」
「待、て、瑠夏、あっ、あ!」
激しい揺さぶりはまたすぐ身体に火をつけ、俺は制止の言葉も口に出せずまた喘ぐことしか出来なくなってしまう。感じるところを擦り上げられ、先程達したばかりの俺のものはまたすぐ昂ぶってしまい、おかしくなりそうな程の快感の波が俺を飲み込んでいく。白くはじけるような感覚の後、俺は瑠夏のものをきつく締めつけながらまた熱を吐き出した。ほぼ同時に、瑠夏は深く俺を貫くと、苦しげな声を漏らし奥へ熱を注ぐ。ずるりと瑠夏のものが抜けていく感覚に、ようやく解放されたとベッドへ倒れ込む。
「またイったのかい?本当にキミは感じやすい子だね……」
「うる、さい……」
「でも、それじゃ不公平だよね?」
「は……?っ、おい瑠夏……!」
瑠夏は俺を抱えると、自分の上へと座らせる。固さの失われていない瑠夏のものがすっかり解れている後ろへとすんなり入ってくる感覚に、また身体は熱を上げていく。
「もう、無理、だ……ぁ、う」
「でも、キミの……もう反応してきてるよ」
瑠夏の手が俺のものを握り上下に擦る。自分で触れていた時とは違う感覚に俺は瑠夏のものを締め付けながら身体を震わせた。瑠夏の手はいつだってこうして簡単に俺を溶かしてしまう、そのまま下から突き上げられ、俺は瑠夏の胸へ縋るように頭を寄せる。
「瑠、夏、あ、あ!」
「ふふ、敏感だな……ボクのをこんなに締め付けて」
「何、言って、ん、あ……!」
「さっきより感じてるみたいだ……ボクの手が気持ち良いの?」
そう言いながら、瑠夏は強く俺のものを擦り上げる。耐えがたい快楽が頭を痺れさせ、俺は瑠夏の首元に歯を立てながらその感覚に耐える。その抵抗に小さく笑った瑠夏は、俺の顎をすくうと唇を重ねた。自然に舌同士を絡ませ合い、俺は手を瑠夏の首の後ろへと回し、強くしがみつく。突き上げられ、前を擦られ、舌同士を触れ合わす。このまま溶け合えるのではないかという程に俺たちは体温を重ねていた。
「あっ、瑠夏、また……っ!」
「っ……うん、ボクもだ……」
激しく突き上げられ、俺は瑠夏にしがみつきながら喘ぐ。中で瑠夏のものが熱を吐き出したのを感じ、俺も背を仰け反らせ瑠夏の手へと射精した。繋がったまま互いにベッドへ倒れ込み、瑠夏は俺を抱き締め顔中にキスを降らせてくる。俺は襲ってきた緩慢な眠気に任せ、そのまま目を瞑る。
途端、まだ抜けていない瑠夏のものがゆるゆると動きだす。
「なっ……アンタ、まさかまだ、ん……っ」
「まだまだ、ボクが満足するまでは付き合ってもらうよ……?」
「いい加減に、あっ、しろ……!」
そんな言葉でこの男が止まるのなら誰も苦労はしない。ちらりと備え付けの時計を見ると、夕方まではまだ随分余裕がありそうだ。視線を戻すと、瑠夏は俺の視線の意味に気付いたのか妖しげに笑いながらまた深く口付けてくる。
この男が満足なんてするのかと、貪欲な恋人を抱きしめながら俺はまた溶かされていった。
おわり