まだ見ない独占欲の理由

「JJ、ストップ」

びくりと肩を揺らす彼の様子に、自分でも止められた理由をわかっているのだろうと少し可笑しさがこみ上げた。手順を間違ったのならば途中でボクにやり直しを申し出ればいいのに、融通が利かないのか、どうにかなると思ったのか、どちらにしても彼の不器用さにはここ数日楽しませてもらっている。

「前も言ったよね、コースターを置いてからグラスを上に」
「……そう、だったな」
「わかっていてやったのかい?」
「違う……っ、その、つい……」
「つい、じゃないよ、JJ」

お客の代わりを務めていたボクが少し声のトーンを落として名を呼ぶと、僅かに焦ったような表情を浮かばせ視線を向けてくるJJ。まだ出会って日は浅いが、クールそうに見えて妙に抜けているところや、無表情に見えるがよく観察すればわかる感情の変化、本当に彼は見ていて飽きない。
それに別の事でも、JJはボクを楽しませてくれる。

「瑠夏待ってくれ、やり直しを……っ」
「ほら、おいでJJ……忘れてしまったのなら、今度は忘れないようにしてあげるから」

座っている椅子の向きを変え自分の前に空間を作ってから、彼の瞳を捉え自分の前へ来るよう指示した。JJは薄らと頬を染めながら戸惑ったように視線を逸らし、何か言い訳をと考えているようだ。でも彼がそういった言い訳や嘘が苦手だという事をボクは知っている、「JJ」と、また名前を呼べば予想通り、諦めつつも緊張した様子でこちらへと歩み寄ってきた。
するり、とJJの腰に腕を回しエプロンを解くと反射的になのか少し身体を離そうとする。回している腕の力を強め自分の方へと軽く引き寄せれば、たたらを踏むようにして体勢を崩し、JJはボクの肩に手を置いた。

「いちいちこんな事をしなくても、覚えられると言っているだろう……」
「ミスをしたのに?もっと酷く身体に教え込まないと駄目なんじゃないか?」
「っ……なんだってアンタは、俺ばかりにこんな……」

強く、それでも自分より上位の存在を前にしているとわかっているからか、僅かに瞳を揺らがせながらボクを睨むJJ。この表情が余計たまらなくさせると彼はわかっているのだろうか、もしわざとだとすれば随分としたたかだ。相手を夢中にさせる術を知り、それを理性で使いこなせるような性格ならば、ボクはJJにあっという間に落とされてしまうだろう。
それも面白いな、と自分の想像に口角を上げれば、JJはボクの表情の変化に気付き不可解そうに眉を寄せた。こうした素直な表情を見てしまえば、先程までの仮定は妄想でしかない事がわかるのだけれど。
ベストとワイシャツを捲くり裾から手を入れ、滑らかな肌を指でゆっくりとなぞっていく。くすぐったさにか身体を小さく跳ねさせた反応が伝わり、その可愛さに本来の目的を忘れそうになった。この全てが何の計算でもないというのだから恐ろしい、こうしたJJの仕草に酔わされ、先に理性を崩されるのはいつもボクだ。
一目見たときから思っていたが、彼はボクを惹きつける。一瞬でも目を離すのが惜しいと感じる程に。

「キミはボクが直々にスカウトしたスタッフだ。お客様に粗相があれば、ボクの監督不行き届きって事になってしまうだろう?」
「……もっともらしいが、それとこれとは別じゃないのか」
「あ、バレちゃった?ふふ、だってキミがあまりにおいしそうだから、つい手が伸びるんだよ」
「おいしそう……って、おい瑠夏」
「無愛想に閉じた唇も、襟から覗く首筋も、普段は服に隠れている全てを味わい尽くしてしまいたいと思うくらいに、ね」

そう言ってJJの身体を自分の上へ覆い被せるように抱き締めると、その首筋に遠慮なく噛みついた。痛みに漏らす声をすぐ傍で聞きながら今度はそこに舌を這わせ、蝶ネクタイを取りワイシャツのボタンを1つずつゆっくりと外していく。
今回はどんな風に教えようか、激しくするばかりでは彼も乱れ理性を飛ばし、また忘れてしまうかもしれない。ボクとしてはそれでもいいのだけれど、お客様の前に立たせるのならばもう少し細やかな部分まで覚えてもらわなければいけない。正式なオープンまでさほど時間もないのだから、と、言い訳にしかならないような言葉を心に潜めながら、JJのワイシャツの前を開いた。
細身でしなやかな身体、自分の痕を刻みつけてしまいたくなるようなすべやかな肌に、その衝動のまま赤い跡を散らしていく。

「っ、止め……跡は、残すな……他の奴らに見られる、だろ」
「キミが気をつけてくれれば大丈夫だよ」
「気をつけるといっても、限度が……っ」
「なぁJJ、優しく溶かされたい?それとも酷く激しいのが好きかい?」

決めかねていた事を問いかけてみれば、その頬は更に色を増していった。思わず噛みつきたくなる程赤く色づき、JJの感情の変化を伝えてくる。本当に、彼は可愛い。
こうして自分だけが知る表情が増える度、店に出すのが少しだけ惜しくなってしまう。きっと誰もが惹きつけられるだろう、気難しい霧生や宇賀神ですら、JJの前では表情を緩ませる事が多くなっているくらいだ。
いつまでもこうして、おとなしくボクの手の中には居てくれないかもしれない。それが少し寂しいと感じるのは、もうとっくに無くしたと思っていたくすぐったささえ感じる感情故か。まぁ、そこを突き詰めるのはもう少し先でもいいだろう。今はこの腕の中の存在に、ただ溺れていたい。

「……どっちも嫌だと言ったら?」
「なら、ボクの好きにさせてもらう」
「はぁ……それじゃあ選ぼうが選ぶまいが、アンタしか得をしないだろう」

呆れたようなJJは「ならせめて、さっさとしてくれ」とだけ告げボクの肩に頭をのせてきた。ざわ、と、本能が刺激されたのがわかりつい溜息を吐きそうになる。結局はそう、選ばせたとしても自分は彼を貪り尽くす事しか出来ないだろうと、こうして無意識の誘い方を知っているJJを相手に、ボクこそ選択の余地などないのだ。

「あっ……く、噛む、な」
「触る前から立たせていたのに?噛まれるのが嫌なら、こうかな……」
「んっ!舐めるな……っ」
「我儘だなぁ……なら、こう?」

ぷくりと膨らんでいる突起に触れていた舌を離し、代わりに指でそこを転がすように弄る。肩に置かれているJJの手の力が強くなり膝は頼りなさそうに震えている、どうしたって感じてしまうんじゃないか、と小さく笑えば、JJは恥ずかしそうに肩へ顔を埋めてきた。

「JJ、下は自分で脱いでごらん」
「ん、く……何で……」
「恥ずかしいと、もう忘れないだろう?だから脱いで、自分で後ろを解して」

拒もうとする彼のものをズボン越しに膝でぐい、と押してやると身体は大きく跳ねた、膝に固さが伝わってきて、JJも興奮しているのがわかり下肢にぞくりと甘い刺激が走る。そうして強く触れられたからか膝が崩れ、JJはボクの前へ跪いてしまった。

「っ、は……ぁ、瑠夏……」
「…………」

潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくるJJ、その視線に、また快感の予兆のような疼きが襲う。今すぐにでも彼をテーブルへ押し倒し、後ろから深く貫いてしまいたい。最初は苦しく痛がるかもしれないが、その顔はすぐ快楽に溶けるだろう。そうして乱れた姿も見せてくれた、最後、足りないとねだられたこともあった。
あぁ、耐えられそうにない。自分の中の獣を抑え込むのは得意ではないのだ。

「……ねぇ、JJ……舐めてくれる?」
「なっ……!」
「ボクは我慢強くないんだ、今すぐにでもキミを抱いてしまいたい」
「ま、待ってくれ、まだ……っ」
「だから、自分で慣らして、それまでボクが我慢出来るように、してくれるよね」




ぐちゅぐちゅと濡れた音が重なる、JJは指示の通りに自分で後ろを慣らしながら、ボクのものを精一杯その口に咥えている。その頭を撫で後ろ髪を結んでいるゴムを解く、ぱら、とうなじにビターチョコのような色をした髪が落ちた。その髪を指に絡めれば、うなじに触れる感覚にさえもJJは敏感に反応し、ボクのものへ軽く歯を立ててきた。
触り心地の良い髪から手を離し、指をJJの顎へ添えると上を向かせる。JJは口の端から先走りと涎の混ざったものを垂らしながら、先程手順を間違えた時と同じ表情でボクを見ていた。

「あ……瑠夏、悪い、今のは……」
「いいよ、許してあげる。それより、そろそろいいんじゃないかな」
「っ……」
「もう大丈夫だろう?自分でしていて、そんなに感じているんだから」

JJのものはすっかり張り詰め、漏れた先走りですっかり濡れてしまっている。ボクの言葉を受けてその瞳は熱っぽくこちらを見つめ返してきた、彼も限界なのだと、自分を欲しているのだと感じその額に口付けを落とした。

「これ、は……」
「隠したって駄目だ、ほら、テーブルに手をついて」

手をついて、と口ではJJへ行動を促しながらも、その身体を無理矢理立たせ背後から抱き込みながら、テーブルへと押し倒す。ガタ、とテーブルの上のグラスが揺れる、JJは反射的にか、それを両手でしっかりと掴んだ。テーブルへ置くときにグラスを倒し、テーブルクロスを水浸しにした上床に落下させ、粉々にしたことを覚えていたのだろうか。
そういえば、それが一番初めの「お仕置き」だったな、とぼんやり思い返しながら、彼が自らの手で解した場所へと昂ぶりをあてがう。

「待て瑠夏、コップが、――っあぁ!」
「っ……離しちゃ駄目だよ、割ったら、またお仕置きだ」
「ふ、くっ……止め、あ……っ!」

腰を抱え一気に深く貫けば、彼は悲鳴のような声を漏らした。それさえ今のボクには精神を高ぶらせる材料になり、そのままテーブルが揺れる程に激しく揺さぶり始める。熱く絡みついてくる内部の感覚で、すぐにでも達してしまいそうな自分に可笑しくなった。
ガタガタと音を立てるテーブルに上半身を載せながら、JJは必死にグラスを握り締めている。それでも零れてしまう水は彼の手やテーブルクロスを濡らしていく、その様子に笑みは更に深くなった。

「あっ、ぐ……瑠夏、激、し……っ」
「でも、君だってすごく締め付けてくる……搾り取られそうだよ」
「あ……っ!待、触る、な、あっ!」

JJの昂ぶりへと手を添えれば、そこは少しの刺激ですぐ弾けてしまいそうな程に張り詰めている。「これじゃ苦しいだろう?」と数度緩く擦ると、快楽が強すぎるためか彼は身体を逃がすように捩った。その背へ圧し掛かるように身体を密着させ一層深く貫くと、JJは喉を仰け反らせ甘く喘ぐ。
それでもグラスから手を離さなかったのは、何かにしがみついていなければいられなかったためか。弱いガラスだったならば割れてしまっていたのではないかと思う程それは強く握られ、力が入りすぎている指先は白くなっていた。

「あっ、あ……っ、も……!」
「一度、イくかい……っ?ボクも、そう長くは持たなそうだ」

中を何度も擦り上げる、抜けそうになる度に彼の内壁は逃がさないとでもいうように絡みつき、ボクはその快楽に酔わされながら深い抽挿を繰り返す。止めていた手の動きを再開させれば、耐えきれないというように中を締め付けられた。

「は……っ、も、出すよ、JJ……!」
「っ、俺、も……あ、あ……っ!」

手の中のものがびくりと跳ね、垂れているテーブルクロスへ白濁を撒き散らす。それに続くようにボクも彼の中の深い所へ熱を注ぎ、少し汗ばんでいるうなじに口付けた。視線をJJの手へと移せば、そこには中身が3分の1程になってしまったグラスが、それでもしっかりと握られていた。

「ん……ふふ、合格だよ、JJ」
「……何、が、合格だ……こんなこと、接客中にあってたまるか……」

不貞腐れたように言う彼の手からグラスを奪い、中身を口に含む。それからJJの肩を掴みボクの方へ体を捻らせ、その唇へと口付けた。口腔の水を移せば、戸惑いながらも彼はそれを喉の奥へ流し込んでいく。そうして水の無くなった後もその唇をたっぷりと味わい、満足してから口を離す。

「……なぁJJ、まだ物足りないんだろう?」
「な……!それは、アンタだろう……っ、おい、動く、な!」
「あぁ、ボクの方がもっと物足りない。だから、まだ付き合ってもらうよ」
「あっ、く……ま、た、オーナー命令とか、言うんじゃない、だろうな……っ」
「それでもいいな、でも、キミだって足りないだろう?」

口を噤んだJJへまた口付け、先程出したものを中で掻き混ぜるように抽挿を始めた。甘くなっていく彼の声を聞きながら、心地良い体温を重ねていく。
それは、ボクと彼以外知る者の居ない秘密の時間だ。その言葉にまたくすぐったさを思い出し、怒られるかなと思いながらも背に赤い跡を散らしていった。誰も手を出すなよと、口にせずとも彼以外へ伝わるように。







おわり