愛も落ちるものだと知った




※失禁ネタです。ご注意ください。












「……っ」

まずい、こんなに時間がかかるとは予想していなかった。落ち着かない気持ちを抱えたままでも周囲への警戒は怠らない、今日は表の顔で行っている商談だ、そうそう滅多な事は無いと思うのだが……それでも流石に、俺がこの場を離れるわけにはいかない。

「JJどうした?妙にそわそわしているね」
「あ、あぁ、その……何でもない」
「そんなに気を張る事は無いよ、ここには滅多な奴らは入って来られないし、人もあちこちにつけてる」
「あぁ、そう、聞いている……」

歯切れの悪い俺の言葉に首を傾げながらも、相手の上役らしき人物に呼ばれ「ほら、飲み物くらい口にしないと。干からびちゃうよ?」と俺にワインの入ったグラスを渡すと、片手を上げて踵を返した。俺はその背を見送り、手にしたグラスの液体をぼんやりと見つめる。
瑠夏が意識しての事ではないだろうが、今の俺にとってこれは嫌がらせに近い。しかし一度手にしたグラスをそのままテーブルに置くのも気が引ける、少し離れた場所で瑠夏が談笑しているのを眺めながら、俺はそれを無理矢理胃へと流し込んだ。






「あー……ようやく終わった。自慢話ばかり聞かされる方は楽じゃないよ、まったく」
「……だろうな」

ようやくその自慢話ばかりするという商談の相手から解放されホテルの部屋に戻ってこれた瑠夏は、溜息を吐きながらソファーに腰掛ける。俺は実際に相手をしていた訳でもないのでここでどんな言葉をかけるべきか迷い、なんのそっけもない台詞を返してしまった。ソファーの後ろに立っている俺の様子を、首だけを動かし瑠夏は不満そうに眺めている。

「JJ、疲労困憊のボスに、優しい言葉のひとつも無いのかい?それか、っと」
「っ、おい……!?」

瑠夏はソファーに膝を載せ身体を捻り、俺を両腕で掴むと無理矢理自分の方へ引き寄せてきた。ソファーの背に身体を載せるような形になってしまい、その勢いに一瞬足が浮き上がる。そうして腹部が自分の体重で圧迫され、俺は嫌な気配にぞわりと肌を粟立たせた。

「キミが可愛い姿を見せてくれれば、疲れなんて一気に吹き飛んじゃうんだけど」
「瑠夏、離せ……っ!!」
「ほら暴れないの。どうしたんだいJJ、いつもはそこまで嫌がらないのに」

両手で瑠夏を必死に押し返しせめて体勢を立て直そうとするが、俺の抵抗に瑠夏もムキになっているのか決してその手を離そうとしない。そうして小規模に争っている間も腹はぐいぐいと押され、いよいよ冷や汗まで流れ始めた。思わず顔を伏せた俺の様子に、流石に違和感を覚えたのか「JJ?」と顔を覗きこみ問いかけられる。
言ってしまった方がいいだろう、この年になってそんなことで慌てているというのは酷く情けなく恥ずかしい事だが、それ以上の失態を見せないためにも必要なことだと割り切るしかない。

「瑠夏、悪い……その……」
「ん?もしかして、具合でも」
「違う。その、だな……………………漏れそう、なんだ」
「……え?」
「アンタから目を離すわけにはいかなかったし、ここに来る前からタイミングが無くてな……その、すぐに済ませてくるから、手を……んっ」

離してくれと請う為の唇を塞がれ、俺はそれ以上の言葉を紡げなくなってしまう。近すぎる程の距離で見た瑠夏の表情は、どこか欲情した時のそれにも見えた。嫌な予感に身を固くすれば、瑠夏は口付けを更に深くしながら俺を強く抱き締めてくる。

「んっ、ぅ……瑠夏、頼む、今は……っ」
「……なぁ知ってるかいJJ、キミの恥じらう表情は、酷くボクを煽るって事」
「っく……!馬鹿、押すな、ぁ……!」
「とは言え、ここは一応ホテルの部屋だし……あぁ、でも、良い場所がある」

一度俺の身体を離すと立ち上がり腕をしっかり掴み直すと、そのまま瑠夏の足はバスルームに向かっていった。何を始める気なのか、瑠夏の先程の台詞からもそれが俺にとって楽しい事であるはずがないのはわかる。今すぐこの手を振り払って逃げてしまいたい、しかし痛くは無いにしろがっちりと拘束するかのように掴まれた腕は簡単には振り解けなさそうだ。
悪戯に刺激されたことで、少しでも気を緩めれば本当に漏らしてしまいそうな程に事態は切迫している。逃げる方法を思考することすら難しく、俺はそのまま碌な抵抗も出来ず服のままバスルームへ押し込まれた。

「うん、ここなら大丈夫だよ」
「……瑠、夏……何を、させる気だ」
「このままボクの前で、してくれないかい?」
「……何を」
「嫌だなぁ、わかっているだろう?今キミが一番したいことだよ」

俺を背後から抱き締めながら、そう耳元に囁いてくる瑠夏の言葉はどう聞いても本気のトーンだ。身体を捩って拒絶の意思を見せると、前にまわりこんだ手が下腹部をぐっと圧迫してくる。
強い刺激に全身が緊張する、膝が崩れそうになり風呂の壁に手をつくと、瑠夏は腹に添えていた手で今度は器用にベルトをカチャカチャと外してきた。そうしてまだ萎えたままの俺のものを取り出すと、そのままゆるく撫であげる。

「っ……!」
「ふふ、これだけで少し硬くなってきた……」
「止めろ、離せ、って……アンタ、何でこんな……っ」
「キミの色んな表情が見たいんだよ、ボクだけに見せてくれる特別な表情をね」
「ひっ、あ……瑠夏、嫌、だ……」

ゆるゆると前を撫でられ、瑠夏は同時に逆の手で後ろを探ってきた。いつの間に濡らしていたのか生温かい指がするりと後孔に入り込み、ゆっくりとした動きでそこを広げてくる。無意識に力を抜きそうになり、慌てて力を込めると瑠夏の指がはっきりと感じられ、小さく声を漏らしてしまった。バスルームの壁がそれを反響させ、鼻にかかるような自分の声が耳へと戻ってくる。

「こんなに締め付けて……ねぇJJ、このまま、いいかい?」
「待て、瑠夏……っ、アンタは少し人の、話を……!ひっ」

金属音の後、二本の指が入ったままのそこに熱の塊が押しあてられた。そのまま入り込んでこようとするものに慌てて腰を逃がせば、掴まれている自分のものがぎゅうと強く握られる。

「いっ……!止め、瑠夏っ!」
「大丈夫、痛くはしないから」

いや、すでに痛い。そんなツッコミをしている余裕がある訳もなく、どころか一瞬思考を逸らしてしまったせいで、指で広げられているそこに瑠夏のものがぐっと埋め込まれてしまった。いつもより強い圧迫感に身体から力が抜けない……この場合は良い事なのかもしれないが。

「無理、だっ……瑠夏、せめて指を、抜いてくれ……っ」
「苦しいかもしれないけど、でも痛くは無いだろう?こっちも萎えてないみたいだし」
「あっ!う、ぅっ……」

強く握られていたそこの力が弱まり、つぅとゆっくり下から先までを指の腹で撫でられる。それだけで、快感と先程から強くなる一方の感覚で頭が一杯になってしまった。生理的な衝動を抑え続けることは辛く、しかしこの男の望むとおりにするには理性を捨て去れない、こんな馬鹿げたこと、早く瑠夏が諦めてくれればいいと願うばかりだが……きっとそれはもう敵わないだろう。

「く……っ、は……!」
「ん……ほらJJ、もっと力を抜いて」
「出来る、か……っ、あ、やめっ」

昂ぶりを緩く握られたまま上下に擦られると、頭が痺れるような快楽が襲ってきた。感じまいとしている分余計にそれを意識してしまっているのか、耐え難い感覚に膝がガクガクと震えだす。

「なら、一度出すかい?我慢しなくていいよ」
「あっ……!動かす、な、ぁ……っ」

無理矢理埋め込まれたままだった指がくっと曲がり、ゆっくりと中で動き始めた。限界まで広げられたその周囲をなぞるように、焦らすように。もどかしい動きのそれが時折弱い部分を掠める、その度に俺がわかりやすく反応を返すのを楽しむように。
意識が塗り潰されていく、ただ一つの終わりを求めるよう、作り変えられていく。

「瑠夏っ、頼む指を……な、い」
「っ……JJ……?」
「奥ま、で、届かな、い……っ」

身体を捻り瑠夏に視線を合わせながらそう懇願すれば、瑠夏は口角を歪め耳元にキスを落とし「おねだりが上手になったね」と囁くと、指を抜きその手で俺の腰を引き寄せ、一気に深く貫いてきた。腹の奥まで満たされる感覚に入り込んで来たものを締め付ければ、背後から艶っぽい吐息が降ってくる。
それでもう、理性の制御は利かなくなった。

「あ、ぁ……っ、瑠夏……!」
「まったく……もっと焦らしてあげるつもりだったんだけど、な……っ」
「あぁっ!うぁ、あ……」
「そうだな……でももうちょっと、苛めてあげるよ」

腰を掴んでいた手が離れ、カタンと硬質な音がバスルームに響く。次いでコックを捻るような音、静かな水音、視線を向ければ瑠夏の手はお湯の出ているシャワーヘッドを握っていた。
床で跳ねた水が足元を濡らす、立ち上る湯気で全身が僅かに湿っていくのをぼんやり感じていると、また中を激しく穿たれる。

「あっ……!瑠夏、待……っ」
「っ……なぁJJ、もうすっかり忘れてるだろう」
「な、にを……っあぁ……!」
「ふふ……いいよ、そのまま……素直に感じていて」
「んっ……な、あぁあ!」

耳を軽く噛まれながら告げられた甘い言葉の後、ただでさえ痛い程に張り詰めていた昂ぶりへ突然鋭い刺激が与えられ、俺は悲鳴のような声で喘いだ。腰を逃がそうとしても、ぴったりと背後にくっつかれているため叶わない。同時に中を何度も深く抉られると、そのまま意識すら飛びそうになる。
シャワーを昂ぶりの先端に至近距離からあてられている、それは痛いくらいだが限界まで高まっていた身体は、その強い刺激にあっけなく果ててしまった。

「あっ、ぁ……っ」
「っ……は……」

射精の直前、瑠夏はシャワーヘッドの位置を腹の方へとずらす。水滴だらけの壁に、自分の吐き出した白濁がべっとりとついてしまった様を見ながら、腹の奥へ身体に触れるお湯より熱いものが流れてくるのを感じた。

「ん……はぁ……」
「……JJ、まだ、終わりじゃないよ……」

瑠夏の言葉が上手く頭に届かない、思考回路が鈍ったままの俺の身体を瑠夏は抱え直すと、腹にあてていたシャワーヘッドを更に強く押し当てそこを圧迫してくる。するとさっきとは別の熱が身体の外へ出ていこうと、力の抜けた身体はそれを止める事も出来ず、シャワーとは別の水音が、増えた。

「あ……あぁ……っ」

一度出てしまえばそれは止まらず、床で透明なお湯と混ざりあい排水溝へと流れていく。長く与えられなかった解放感に倒れこみそうになった身体を瑠夏はしっかりと支え、俺の肩へ顎を載せるようにしながら、戯れのような口付けを頬や首筋に落としてきた。

「JJ……」
「んっ……は……」

まるで自分に起こっている事ではないかのように、遠い。羞恥からの逃避かもしれないし、まだ先程の行為の余韻に浸ってしまっているだけかもしれない。力が入らないままの身体をぐったりと預け、溜まっていたものを最後まで吐き出すと瑠夏は「思った通り、可愛かったよ」と劣情の混じった声で囁いてきた。
その言葉を聞いてようやく、見られてしまったという後悔と、快楽に流されそれを許してしまったという情けなさにじわりと涙が滲んだ。何だって瑠夏はこんなことを俺に強要してきたのか、見ていて楽しいものだと、俺にはとても思えない。顔を上げられないままの俺の耳へ、優しく身体を抱きしめたままの瑠夏は楽しそうな笑い声を届ける。

「……止めろと……言っただろ」
「ごめん、泣かせるつもりは無かったんだよ」
「泣いてない、お湯が跳ねただけだ」
「うん、ごめん。でもどうしても見てみたくなったんだ、必死で耐えるキミも、快楽に流されるキミも、見ていて酷く興奮したよ……可愛かった」

気付けば、未だ中を埋めたままの瑠夏のものはまたその存在を主張していている。先程の言葉は慰めではなく、本気でそう思っているらしい。この男の嗜好は、もしかするととんでもなく歪んでいるのではないだろうか。背筋を走った悪寒は、この先に対する不安からだろう。

「ねぇJJ……今度は抱き合って、沢山キスをしながら、ね?」

昂ぶりが抜かれる、お湯が出たままのシャワーヘッドを元の位置に戻すと俺の腕をひき、足元でぐちゃぐちゃになっているスラックスと下着を脱がすと真正面から抱き合いながら、決して軽くは無いだろう俺の身体を瑠夏は簡単に持ち上げ、そのまままだ先程までの名残がある後孔へ、ゆっくりと己を侵入させた。
それだけで、じわじわと湧いてきていた羞恥も後悔も、どうでもよくなってしまう。嬉しそうに何度も何度も口付けを落としてくる男に逆らう術を、全て預けてしまっている俺はひとつも持っていなかった。

「ぁ……っ、もう変な、事は……させるなよ」
「んー……ふふ、どうしようかな」

不安定な自分をその大柄な身体にしがみつかせる、濡れた服が肌に貼り付き気持ち悪いのに、離れたいとは思わない。もう駄目だ、瑠夏が望むのなら、それ程嬉しそうに笑うのなら、と、うっかり胸にストンと落ちてきてしまったから。
誘うように唇を開きながら、焦点がぶれる程傍にある男の瞳を見つめる。そこに自分への愛しさを見つけるのは、もう随分と上手くなっていた。
だから、同じように見つめ返す。一層深くなった瑠夏の口付けは、きっと伝わった事の合図だろうと感じながら。





おわり