幸福の訪れ
「JJ、あーん」
「は?んぐっ!」
昼に節分だの豆まきだのでキングシーザーの連中が散々騒いだその日、夜は2人でとろうと部屋に呼ばれ、ソファーに座ってすぐ瑠夏が何かを重箱から取り出したかと思えばそれを無理矢理口の中へと突っ込まれる。舌でぐい、と追い出そうとしても瑠夏は更に奥へと押し込んできて、苦しさで目に涙が浮かんだ。
睨みつけても瑠夏はにこにこと見返してくるだけで、止めてくれる気配は無い。
「恵方巻きだよ、テレビとかでやってるだろう?恵方と呼ばれる方角を向いて無言で食べきれば幸福が訪れると言われている。さ、こっちを向いて」
体の向きをやや斜めにされまたぐっとその恵方巻きとやらを押しこまれる、苦しいのがわからないのかこの男は。仕方なくそれを口の中で少しずつ咀嚼し溜まっていく唾液ごと飲みこんでいく。口をめいっぱい塞がれてるとはいえ閉じる事が出来ないので、油断をすれば口の端から唾液が零れなんとも間抜けなことになりそうだ。
「ん……っ、ん」
「……」
俺が無言で食べ切ればいいのであって、瑠夏まで無言になる必要はないのではないだろうか。しかし太巻きを俺の口に押し込んでいるこの男は、いつの間にか先程までの笑みを消しじっと俺が食べる様を眺めている。
どうにも居心地が悪い。太巻きはようやく半分といったところか、大きいだけあって量も多い、これを食べ切れば充分腹が膨れそうだ。
「んぐっ……!んんっ!」
食べ続けることで少し余裕の出来ていた口腔に、残りの太巻きがまた無理やり押し込まれた。えづきそうになるのをどうにか堪え、許容量を超えそうなそれをどうにか咀嚼し喉の奥へと流していく。しかし衝撃に口の端から含みきれなかった唾液が零れ、俺はそれを拭おうと手を自分の口元へと伸ばした。が、届く直前に瑠夏の太巻きを持つ手とは逆の手に押さえつけられてしまう。逆の手を伸ばしても同じように。
この男は何がしたいんだと呆れながら、俺はとにかくこのわけのわからない時間をさっさと終わらせるため苦しさを堪えながら咀嚼したものをどんどん呑み込んでいく。
「ん、く……はぁ……っ」
「うん……ようやく食べ切れたね。これでキミには幸福が訪れるよ」
食べてる途中は散々な目に合わされたがな、と俺の不幸の当事者である男を睨みつければ、余裕の笑みを返され突然唇に瑠夏のそれで触れられた。そのまま肩に手を添えられソファーへと倒されてしまい、あまりにも唐突な展開に目を丸くしていれば大きな掌が性急に身体を撫でまわしてくる。
「っ、おい瑠夏……!」
「幸福のおすそ分け、くれたっていいだろう?それにさっきのキミの姿を見ていたら我慢出来なくなっちゃったよ」
「は?何を……んっ、止め……んうっ」
口の中へ指を入れられ、舌を撫でられる。淫猥にも感じられるその動きと、瑠夏の熱にあてられたのか身体はぞくぞくと官能を高めていった。2本の指で舌を挟みくにくにと弄りながら、獰猛な牙を覗かせ瑠夏が笑う。
「ボクのを咥えている時みたいな表情だったよ、可愛かった」
「なっ!アンタ、まさかその為に……っ」
「さぁ?……ねぇJJ、また、さっきの顔が見たいな」
欲情しきった瞳で見つめられ、情事のとき特有の甘い声で囁かれてしまえばこの身体は勝手に反応を返してしまう。その期待に応えたくなってしまう。瑠夏が指を抜き離れていく、俺は身体を起こし、ソファーに座る瑠夏の足元へと跪くようにしてベルトに触れた。
前をくつろげ、すでに少し反応をみせている瑠夏のものを両手で包む。そしてようやく自由になったばかりの口へと、その昂ぶりを招き入れた。
「ん……っ」
「ふふ……あぁ、歯は立てないでくれよ?」
からかうようにそう言ってきた男に、反撃のつもりで咥えているものにわざと少し歯を立ててやる。快楽と痛みの両方に襲われたからか低く呻きを漏らした瑠夏は、空いている両手で俺の頭を掴み、
「ぐぅっ……!」
「まったく……悪い子だね、キミは」
先程と同じように、無理矢理昂ぶりを奥へと押し込まれた。些細な悪戯のつもりだったが、瑠夏はそれすらも許さないというように俺の頭を揺さぶり無茶な奉仕を強いる。悪かった、許してくれと口にしたくとも苦しいほどに埋められている口腔では言葉を発することなど不可能だ。
せめてそれが少しでも伝わるようにと舌を添えれば、ようやく瑠夏はその動きを緩め、止めてくれる。
「んっ、は、はぁ……っ……アンタ、無茶苦茶するな……」
「JJが悪戯するからだろう?お仕置きだよ」
そもそも先に無茶をしてきたのはどっちだと毒づきたいが、今逆らえばまたお仕置きと称して何をされるかわかったものではない。その言葉を口にする代わりに、流石に大きさを増して含みきれなくなった瑠夏のものを浅く咥え、舌で先をぐりと刺激してやる。含めない部分を手で擦りながら、先走りを舐めとりそれを全体へ塗りつけるようにすれば、瑠夏の口からは艶めいた吐息が漏れた。
気を良くして続けていると、瑠夏は俺の髪を弄っていた手を下へと滑らせ、首筋をくすぐるように撫でてくる。ぞわりと肌が粟立ち身体に力が入りそうになってしまい、慌てて瑠夏のものから口を離した。また歯でも立ててしまえばそれこそこの男に滅茶苦茶にされてしまう。
「瑠夏……!妙な触り方をするな、また歯を立てられたいのか……っ」
「ははっ、流石にそれはお断りするよ。ただ、そろそろキミも物足りなくなる頃かと思ってね」
見透かされている。どんどんと濃くなる雄の匂いに興奮が高まっていたのは事実で、瑠夏に触れられた場所はそれだけでじわ、と熱を持っていた。見上げた先の瑠夏は妖しく微笑みながら、静かに、それでも俺を官能へと誘うような声色で告げる。
「おいで、JJ」
服を剥ぎ取られ瑠夏の上へと乗せられた俺は、後孔に入り込む指の動きに浅ましく腰を揺らしていた。胸の突起を甘く噛まれれば中で蠢く指を締め付けてしまい、そこはどんどん物足りなさを募らせていく。
「あっ、瑠夏……もう……っ」
「んー?ほら、ちゃんと言わないとわからないだろう?」
瑠夏の両肩に置いた手に力がこもる、言わなくてもわかっているはずの男は素知らぬ顔でぐちゅぐちゅと後ろに埋めた指を動かし続けていた。涙で滲む視界の向こうで瑠夏が意地悪く口角を上げたのを見たが、いい加減俺も我慢の限界だ。
早く瑠夏のものが欲しい、中を苦しいくらいに埋められたい、噛みつくように口付けてから、俺は懇願するようにして口を開く。
「指じゃ、足りな、い……っあ、瑠夏のが、欲しい……!」
「あぁ……可愛いなJJ、うっかり酷くしてしまいそうだよ」
後孔から指が抜かれ一瞬の喪失感、しかしすぐ後腰を抱えてきた瑠夏の手によって一気に熱い昂ぶりが埋め込まれる。息が止まるほどの衝撃に背を仰け反らせるが、瑠夏はお構いなしに下から何度も激しく突き上げてきた。
先程の口淫は中途半端に終わっていた、瑠夏も限界だったのかもしれない。激しい行為の最中しがみつくようにして抱きついた身体はしっとりと汗ばみ、俺より高い体温を伝えてくる。
「ひ、あっ!あ、ぅ……っ!」
「っ、は……JJ、もうイきそうじゃないか?すごく、んっ、締め付けてくる……っ」
「あっ、く……!そこ、ばっかり、止め……っあ!」
ぎちぎちに埋められたそこは、加減も出来ず瑠夏のものを締め付けていた。自分の身体だというのにまったく制御がきかない、奥の感じる部分を何度も突かれれば、長く煽られたせいですぐ絶頂へと押し上げられてしまう。
駄目押しとばかりに昂ぶりに触れられ擦り上げられれば、意識は白く染まった。
「あ、ああっ……!」
「んっ……!は、ぁ……っ」
俺が白濁を吐き出すと同時に、熱い飛沫が腹の中へと注がれる。くたりと力の抜けた身体を瑠夏に預けると、頬や額に何度も口付けを落とされた。合間に囁かれる甘ったるい言葉は、快楽の余韻を去らせてはくれない。
「ん……その、瑠夏……」
「ふふ……わかっているよJJ、まだ足りないんだろう?」
俺の中を埋めたままの瑠夏がまたゆっくりと動き始める。こうした触れ合いは幸福だろう、心を繋いだ相手と体温を感じ合える事は、きっと身に余るほどだ。
何かを確認するように何度も口付ける俺に、瑠夏は優しく応え続けてくれた。
おわり