誘惑の温度

瑠夏がある日突然コタツに興味を持ち、置いてみたので早速使ってみようと空き部屋へひっぱりこまれた。そこには、西洋風のインテリアで統一されていた部屋の真ん中に、圧倒的な存在感の、コタツ。流石にこれはどうなんだと思いながらも瑠夏にせっつかれ渋々入ってみて……いつのまにやら数十分。確かに今日はオフだし世間的には正月なのだからのんびりしていて悪い訳ではないのだが、仮にもマフィアのボスと殺し屋がこんな呑気にしていていいのだろうか。
……神は天にいまし、全て世は事もなし。そんな言葉をいつか聞いた。今日くらいはまぁ、そういうことでいいかもしれない。
それにしてもコタツというものには初めて入ったが、これは人を堕落させるという言葉の意味もわかる。じわりとあたたかくなるコタツの内側、毛布に包まれているのもあって緩やかな眠気を誘ってくる。室内の温度が低めに設定されているのかコタツから出ている上半身が少し冷える。もそりとコタツ布団に身体を少し潜り込ませれば、正面に座っている瑠夏がふふ、と笑いを漏らした。

「……何だ」
「ん?いや、随分気に入ってくれたみたいだから嬉しくてね」
「まぁ……悪くない。……そう言う瑠夏こそ、顔がすっかり緩んでるぞ」
「だってこれ……はぁ……もうここから出たくないよ。暖かくて気持ちいい……」

天板に頬をつけて目を閉じた瑠夏はどうやらすっかりコタツの虜になってしまったらしい。確かに、これは一度入ってしまえば出辛くなる魅力を持っている。俺はそんな瑠夏の様子をぼんやり眺めながら、当たり前のように天板の上に置いてあったミカンに手を伸ばした。

「……っ……む……」
「……んー?JJどうし……」

匂いか音か、あるいはどちらにも気付いたらしい瑠夏は頬を離し俺へと視線を向けて……固まる。たまには、と瑠夏に剥いてやろうとしたミカンは、半分程皮が剥けている状態で歪な形に潰れ、ぼたぼたと大量の汁を零してしまっていた。
力の加減を間違えた、つい強く握ってしまい上手い具合に剥けていたはずのミカンはべちゃべちゃだ。
自分の不器用さに嫌気がさし深く溜息をつくと、瑠夏が俺の手からミカンを奪い残っていた皮を綺麗に剥き1房に割ると自分の口へと運ぶ。そして綻ぶような笑みを俺へ向けてきた。

「うん、おいしいよJJ」
「……ミカンの味なんてどれも一緒だろう……」
「キミが剥いてくれたから美味しいんだ。ほらキミも、あーん」

恥ずかしい台詞を照れもせず言った瑠夏は、もう1房を指で摘まむと俺の口元へと持ってくる。これは、瑠夏の持っているミカンを食べろということなのだろうか。手で受け取ろうとすれば瑠夏は「違うだろう?」と不満そうな表情を浮かべる、しばらく逡巡した後、もう1度溜息を吐くと諦めて口を開いた。瑠夏は満足そうに微笑みそのミカンを俺の口の中へ差し入れてきた、歯で軽く挟み受け取ると瑠夏の指から口を離し咀嚼する。甘酸っぱい香りと味が口中に広がる、勿論たまに食べるそれとなんら変わりのない味だが……瑠夏は何がそんなに嬉しいのか、俺がミカンを飲み込むまでの様子をニコニコと眺めていた。
気恥ずかしさに視線を逸らし、とりあえずこの汁でべとべとになったこの両手をどうしようかと考える。一度コタツから出て手を洗いに行った方がいいのだろう、天板に零れてしまったのもどうにかしなければいけない。

「ん……JJ、手」
「手?あぁ、今洗いに行こうと、」
「ちょっと、貸してごらん」
「は……おい瑠夏、何を……――っ!?」

両手を掬われそのまま指先が瑠夏の口元へと近付いていく、嫌な予感に手を引っ込めるより早く、べとべとになった指にぬるりとしたものが触れる。瑠夏の舌だと気付いた時には、手は強い力で押さえられ逃がす事が出来なくなっていた。
指の1本1本を丁寧に、付け根から指先までを熱い舌が何度も這っていく。ついその動きを目で追ってしまうと、淫猥にも感じられる舌使いに身体がぞくりと震えた。伏せられた瑠夏の視線、妖しく口角を上げた唇から覗く赤い舌、それが這う指先はどうしてか敏感になってしまい快感に似た何かを拾っていく。
俺の視線に気付いたのか、瑠夏は俺を見ると仕上げとばかりに指先に口付けた。ぞわ、ぞわ、と背筋を這っていくそれは、覚えがない訳じゃない。

「JJ……すごくいやらしい顔してるよ」
「なっ……違う、アンタが……っ」
「違う?ふぅん……でも」
「ん……っあ……!」

意地悪そうに笑った瑠夏がコタツの中で動き、足先で俺の太腿に触れてくる。そのままなぞるようにしてゆっくり、中心へと、触れた。

「ここ……固くなっちゃってるみたいだけど?」
「馬鹿、止め……!痛……っ」

逃げようと焦って足を動かしたためかコタツの中で強かに膝を打ってしまう。痛みに悶えていると瑠夏は「ほら、大人しくしてないと」と言ってから足の指を強めに擦りつけてくる。びく、と反応したのが自分でもわかり羞恥で顔が熱くなっていく、そのまま数度上下に擦られれば、そこはすっかり昂ぶり窮屈そうに存在を主張してきた。
意味がないとわかっていても、きつく瑠夏を睨みつける。案の定楽しげに見つめ返してきた男はすっとその足を離すと、コタツから出て扉へと向かう。意味がわからず瑠夏を見ていると、「手を洗ってくるから、おとなしく待っているんだよ」と言って部屋を出て行ってしまった。
このままどうにかなってしまいそうな雰囲気で、どうして瑠夏は出ていったのだろうか。ここで放置して俺の反応を楽しむというのは確かにあの男のやりそうな事ではあるが、それでも部屋を出て行っては意味がないのではないだろうか。いや、観察されても困るのだが。

「……――っ!」

そこまで考えて、もうひとつの可能性に思い至る。指が汚れているのは気が引けたのだろう。それを、俺の……
頭を振ってその思考を追い出そうとする。しかしそうすればする程思い出してしまう、あの指でどんな風に身体を弄られ、内部まで好き勝手にかき回され、それで散々に煽られてしまう自分を。耳に触れる唇も、そこで紡ぐ言葉も、熱い吐息も体温も匂いも、瑠夏の全てが俺を追い詰めていく。理性がぐずぐずに崩され、全身は与えられる快楽だけを追う。限界を訴えても許されない行為にそれでも溺れていく自分を思い出すと、血が燃えた。
すぐに触れて欲しい、想像じゃ足りない、瑠夏の体温を感じたい。スラックスの中で張りつめているものの温度が増す、おとなしく待っていろと瑠夏は言ったがこんな中途半端にされてそれは酷というものだろう。コタツ布団の中でスラックスのファスナーを下ろし下着をずらす、触れればそこは熱くぬるりと先走りで手を汚した。塗りつけるようにして上下に擦れば、頭を痺れさせるような快感が襲ってくる。

「ん……っ、ふ……」

全身が燃えるように熱くなっていく、息が上がり意識はひたすらに自らの手が与える快楽だけを追っていた。粘つく音が部屋に響き、自分はこんな場所で1人何をしているんだと思いながらも手は止まらない。ゆっくりと昇り詰めていく感覚に溺れていると、突然扉がノックされる。

「っ……!」

瑠夏だとすれば、わざわざノックをするとは思えない。ならば今扉の向こうに居るのは瑠夏以外の誰かという事になる、そしてその扉に、鍵はかかっていない。焦ってコタツの中に身体を深く潜り込ませるのと、その人物……霧生が部屋へ踏み込んでくるのはほぼ同時だった。

「ん……?JJ、何故ここに……というか、なんだそのだらけた姿勢は」
「……ほっといてくれ、寒いんだ……それより、何の用だ」
「いや、ボスを探しに来てな。部屋に居なかったので、もしかしたらと思ったが……」

何故かお前が居た、と口にせずともその口調で十分に伝わってくる。俺は敷かれた絨毯に寝そべりコタツに身体を潜らせた状態で意識だけを霧生へ向けていた、コタツの中で下半身を露出し濡れた手を所在なさげに浮かせているのが何とも情けない。
今までここに瑠夏が居た事を告げれば、こいつは戻ってくるまで居座るだろう。すぐに出ていくならともかく長い時間誤魔化し続けられる自信はないし、今の状況がバレれば何を言われるかわかったものではない。とっとと出て言ってもらいたいが、多分上気しているであろう顔を見られずに上手く追い出すことなど可能だろうか。
一向に自分へ視線を向けない俺を不審に思ってか、「JJ?」と声をかけられた後足音が近づいてくる。思わず大声で静止の言葉をかけてしまいそうになるが、それではやましいことがあると自分から言っているようなものだ。しかしこのままでは数分もしない内にばれてしまうだろう、来るな、来るな、と念じながら固まっている、と、

「霧生、ボクならここだ」

先程までと今と、理由は違うが待ち焦がれていた相手の声が耳に届く。「ボス」と霧生が離れていく気配、遠くで2人が2,3言葉を交わす声を聞きながら俺はただ固まっていることしか出来なかった。長いような短いような時間の後、扉と鍵が閉まる音。びく、と肩を揺らした俺に向けられた笑い声はやけに楽しげだ、傍にしゃがむ気配に視線を向ければ、牙のように尖った犬歯を覗かせながら瑠夏が笑っていた。

「お待たせ、JJ……で、キミは何をしてたんだい?」
「……いや……その……」
「おとなしく待ってろ、って言ったよね?なのに、」

身を寄せてコタツ布団の中に手を入れると、いつから気付いていたのかすぐ昂ぶった俺のものに触れてくる。自分のものとは違う指の感覚、洗ってきたばかりだからかその冷たさに身がすくむが、それ以上にそのまま緩く撫でるような動きは身体の芯を熱くさせた。

「あっ……!」
「こんなに濡らして……自分で慰めてたのかい?そんなに待ち切れなかった?」
「ん、あ……っ、瑠夏……」

もっと強くして欲しい、瑠夏の手で、イかせてほしい。そんな思いで瑠夏を見つめると余裕のあった表情が少しだけ崩れる、瞳に熱量が増し、纏う雰囲気すら変化していく。耳元に顔を寄せ「おいで」と呟いた瑠夏に逆らう事も出来ず、身を起こしその身体に縋りつくように腕を伸ばし、身体を擦り寄せた。











「あっ……あ、も……!」
「そんなに手を動かして……自分でするのは気持ち良い?」
「馬、鹿……っ、あ、あぁ……っ」
「っ……そんなに締め付けられたら、ボクも我慢出来なくなりそうだ……」

後ろから抱き込むようにして俺の腰を支え、下から何度も突き上げられる。耳に熱い息をかけられると、まるで全身が性感帯になったかのようにぞくぞくと震えた。片手を天板につきもう片手で自分のものを擦っているうちに自然と腰が動き、自ら快感を追ってしまう。
あの後あっさりと手を引いた瑠夏は、核心に触れることなく体中を撫でまわししつこいくらいのキスを繰り返すと、念入りに慣らした後孔へゆっくりと自身を埋めてきた。痛い位に張りつめたものは解放を訴えているのに瑠夏はそこに触れてくれない、触ってくれと口にしても「駄ぁ目」と意地悪く笑うばかりで、最後には我慢出来ず自分でそこに触れ今に至る。
手の中のものが震え限界が近いのを感じる、腰を揺らしながら手の動きを速める自分は瑠夏の目にどう映っているのだろうか。気にかかるが、それを最優先に出来るほど今の俺に理性は残っていない。

「ひっ……!あ、瑠夏、そこ……っああ!」
「ん……っ、と……危なかった……あんまり締め付けが気持ち良くて、先にイきそうだったよ」
「あっ、止め……っ!あ、あっ、瑠夏、待て、って……!」
「次は一緒にイきたい、から……っ、キミも、いっぱい気持ち良くしてあげないと……ね」

固いもので中の弱い部分を強く擦られると、もう耐える事は出来なかった。俺が盛大に熱を吐き出しても瑠夏の動きは止まらず、同じ場所を何度も激しく突いてくる。冷めていくはずだった熱が無理矢理昂ぶらされていき、まるで終わらない絶頂の中に居るようだ。

「駄目、だ、瑠夏……っ、変に、な、あぁ……っ!」
「まだまだ……もっと気持ち良くしてあげる」

耳を甘く噛みながらそう囁いた瑠夏は、手を胸の突起へと這わせた。散々弄られていたそこは未だ固く尖り、それを瑠夏の指が転がし、押し潰す。甘い痺れのような快楽は下腹部へと集まっていく、そのままそこを爪先で軽く引っ掻かれれば、身体はびくんと揺れた。

「や……っ!待て、そんないっぺん、に……っ」
「だって、触って欲しそうにしているじゃないか……ふふ、すっかりぬるぬるだ」

逆の手で今度は俺のものをしっかりと包み上下に動かしてくる。そこはすでにとろとろと先走りを漏らし始め、瑠夏はそれを塗りつけるようにしながら性急に擦り上げてくる。中の弱い所を抉られながら胸も昂ぶりも刺激される、快楽同士がぶつかり合い身体の中を暴れ回って、おかしくなりそうだ。
限界はあっという間にやってきた、瑠夏もそのようで、突き上げる動きが更に激しくなってく。俺はその動きに翻弄されるばかりで、もうまともな言葉を口にする事は出来なかった。ひっきりなしに聞こえる自分の喘ぎが遠くなり、意識が白く染まっていく。

「あ、あぁっ!」
「っ……!は……」

俺が白濁を吐き出すのとほぼ同時に、瑠夏も中へと熱を注ぐ。じわりと腹に温かさが広がる感覚、瑠夏のものを咥えこんだままくたりと身を預ければ、顎にかけられた手で上を向かされ口付けられる。啄ばむような軽いキスが何度も繰り返され、最後はしっとりと長く唇を合わせた。

「JJ……愛してるよ」
「……なんだ、いきなり」
「なんだって……酷いなぁ、キミも応えてくれたっていいだろう?」
「……そういうのは……苦手だ。知ってるだろう」

まぁね、と諦めたように溜息を吐きながら呟いた瑠夏は、また軽く口付けを落としてきた。本当はこういった触れ合いも恥ずかしくてたまらないのだ、これで更に瑠夏のような愛の言葉まで言わされるとなればたまったものじゃない。
嫌……という訳ではない、ただ照れくささが勝るだけだ。しかしこんな間近で露骨に残念そうな表情を浮かべられてしまえば、それで済ませてしまうのは申し訳なくなる。
上半身を捻り向き合うような姿勢になってから、瑠夏へと腕を回す。俺の行動に不思議そうな表情を浮かべた瑠夏を見つめ、自分からその唇に触れた。瑠夏は驚いたように目を見開いたがすぐ嬉しそうに目尻を下げ、俺をきつく抱き締めながら深く唇を合わせてくる。

「ん……っ、ふ、ぁ……」
「ん……JJ……」

舌を絡ませ合っている内に、中の存在が張りつめていくのを感じた。まぁ……これは、予想しなかった訳ではない。煽るような行動をとったのだから、その分付き合う覚悟はある。せめて、俺が気を失う前には瑠夏が満足してくれるといいのだが。
今年も、この男の手で散々にされるのだろう。度々思うが、とんだ相手を選んでしまったものだ。
それでも手放す気は、きっとお互いにないのだけれど。








おわり