獣の爪先に口付けを

「……入れ」

聞いたこともないような低い瑠夏の声、それはさながら威嚇する獣の唸りのように思えた。ドアの向こうにいる獣に、俺は喰い殺されるのかもしれない。
しかし、俺はそれだけの事をした。組織の為、瑠夏の為だと言った所で掟を破ってしまった事に変わりは無いのだ。このワインを受け取るより前、瑠夏達に背を向け一人ビッグネストに向かった時から裏切り者として処分を受ける事は覚悟の上だった、それで瑠夏の命が守れるならと。勿論霧生を助ける事が目的だが、それ以上に、本当は深い底に押し込めた思いがあった。
一人で動いた方が効率のいい事も、瑠夏にわざわざ危険な賭けをさせたくなかった事も本音だ。掻き集めた、俺が動ける理由。組織に関わらせて組織を裏切るに足る、理由だ。
竦む身体、もつれる舌をどうにか動かし謝りたかった事を瑠夏に告げる。買収するようにワインを用意し、もう一度チャンスが欲しいなどと調子がいいにも程があると自分でも思った。しかしもし万にひとつでも許される可能性があるのなら俺はそれに縋りたい、この男を護らせて欲しかった、自分が唯一人、仕えてもいいと思えた相手を。

「……呆れたな。こんなもので機嫌をとろうなんて、浅ましいね」

寒気すら感じる蔑みの言葉に小さく肩が揺れる。気付かれてしまっただろうか、しかし瑠夏は何も言わず俺の元へ来ると、力無く握っていたワインを奪った。ラベルを見て、「石松たちの入れ知恵か」と小さく呟くと、ソムリエナイフを取り出し手際よくコルクを抜く。俺への興味を失ったのかもしれない、ただ俺は指一本自由に動かせない緊張感に呑まれていた。
優しいばかりの男でない事は知っていた、しかしこうも変わるのかと、これでは本当に肉食獣の巣に丸腰で立っているようなものだ。

「JJ、何を固まっているんだ?」
「……」
「そうして突っ立って許しを請うのが、お前の誠意か?」

何も、変わっていない。入室を許可された時から今まで、瑠夏の態度は少しだって揺らがない。似たような台詞を、俺は違う立場で聞いていたが……あの時とは、多くが違っていた。
ごくりと、ようやく通るようになった喉へ唾を流し込み、床へ跪く。土下座をすることで少しでも瑠夏の機嫌が直るなら易いものだ、しかし腕を床に着くより早く、瑠夏が俺の膝に自らの靴先が触れる程近くへと歩み寄ってきた。意図がわからず顔を上げると、「目を閉じていろ」と低く命令される。何をされるのか、しかしそんな些細なことより瑠夏に従う事の方が俺にとっては重要だった。言われた通り目を閉じれば瑠夏の動く気配だけが伝わってくる。そうしてすぐ、頭の上に冷たい液体が降ってきた。

「――っ……」

強い葡萄とアルコールの香りに、今頭にかけられているのは先程瑠夏が俺から奪ったワインだとわかる。髪をしとどに濡らし、額や頬、首筋を伝って服の中へ流れ込んでいくそれは体温で少しずつ温められ酷く気持ち悪かったが、俺は立ち上がろうともせずそれを受け続けた。上着も中も、この分じゃ全滅だろう。膝にも、項垂れた頭から垂れたワインがぼたぼたと落ち染みていく様子は見なくてもわかった。この分じゃ結局一度も値段を聞く事は無かった瑠夏のお気に入りだという絨毯も、赤黒く染みになってしまっているだろう。
それにすら気を払わない事が瑠夏の怒りを表しているように感じて、俺はかろうじて濡れていない服の裾で顔を拭うと、強張った身体を動かし瑠夏へ視線を向けた。無表情で俺を見下ろす瑠夏は、それだけでも充分すぎる迫力がある。

「瑠夏……頼む、霧生を救い出すまででもいい、俺をアンタの手足として使って欲しい」
「ボクの意思を無視して動くような手足を?」
「もう二度と勝手はしない、今ここで誓う。……だから……瑠夏……」

真っ直ぐと瑠夏の瞳を見つめ、腹に力を込めて震えを抑えながら懇願した。しかしそうして誓った所で、瑠夏の命を守るためならば俺は何度でも誓いを破るのだろうと、その思いを瑠夏は見抜いてしまうだろうか。

「信じられないな、お前は元々誰かの命令に従う性質じゃないだろう?」

嘲笑うような瑠夏の言葉に、それでも尚その瞳を見つめ続けた。ここで引いてしまえば瑠夏はもう俺を使ってはくれないだろう、傍に居る事は、きっと叶わなくなってしまう。

「……ならJJ、ワインで汚れたボクの靴を舐める事が、お前に出来るか?」
「……それをすれば、アンタは俺を信じてくれるのか?」

瑠夏は答えずただじっと俺を見下ろしている、靴を舐めるのは相手への服従を示す行為だ。汚れを舐めとれるくらいに相手の為ならば何でも出来ると、そう誓う行為だ。
俺は自分の身体を少し後ろへずらすと、瑠夏の靴先へ唇を近付ける。比較的綺麗とはいえ靴にあるのはワインの汚れだけではない、それでも舌を差し出し、ゆっくりと靴へ這わせていった。

「んっ……ぐ……」

革とゴムの匂い、芳醇なワインの香り、口に含めば吐き気をもよおす程不快な味だ。それでも必死に舌を這わせ続け、嘔吐感に苦しみながらどうにか片方の靴を全て舐め終わらせる。もう片方も、と続けようとした所で、瑠夏がしゃがみ俺の顎を掴むと無理矢理顔を上げさせた。

「もういいよ」
「っ……瑠夏……」
「なぁJJ、キミはもっと上手く出来るだろう?ベッドの上で、いつも見せてくれたじゃないか」
「ふ……ぅ……っ」

親指を口の中に突っ込まれ舌の根元辺りまでを擦られる、ぐっと込み上げてきた吐き気をどうにか飲み込みながら、苦しさから浮かんだ涙を残したまま瑠夏を見上げた。不愉快そうに笑っているが、興奮しているのか目元が薄らと赤く染まっている。瑠夏の言葉にこれから自分がどんな目にあうのかは察する事が出来た、それでも従うことで許されるのならばと、俺は綺麗な青を自らの瞳に映し続けた。








服を全て脱ぎベッドに上がれと言われ、ゆったりと腰掛けている瑠夏の前に膝をつくと、手を使わずに口だけで自分へ奉仕をするよう告げられる。いつもとは違う冷たい言葉で命令され、俺はその通りに従う事しか出来なかった。

「ん……っ、く」

ガチ、と咥えていた金具が外れてしまう、それをもう一度掬い歯で挟み直すと慎重に下げていく。金具同士がぶつかると所まで下ろし今度は下着をずらすと、張り詰めたものが鼻先に触れた。

「は……っ、んぅ……」

もう充分すぎる程に大きいそれの先を口に含み、ちろちろと舌先で刺激しながら含めない部分を手で扱こうと腕を伸ばしかけて、直前で瑠夏の言葉を思い出しまたシーツへと落とす。一度口を離し手の代わりに舌で根元から何度も舐め上げれば、それはびくびくと反応を返してきた。
瑠夏の小さな吐息が頭へ降ってくる、これ程に言葉を交わさずこの男とセックスをするのは初めてかもしれないなと、そんな事をぼんやりと考えながら漏れだした先走りごと先を軽く吸い上げてから限界まで瑠夏のものを口腔へ含んだ。

「んっ、ぐ……ん、ん……っ」

瑠夏の視線を感じる、今この男はどんな表情を浮かべているのだろうか。嘲るような笑みか、冷たく見下ろしているだけか、これまで口淫を求められそれを行う時に仰ぎ見る表情は、口角を上げ熱っぽく俺を求めるそれだったから、今顔を見るのは少し恐ろしかった。

「ぐっ……!ん、うっ!」
「ほら、もっと深く咥えて」

ぐい、と頭を押され、同時に喉の奥を抉るように下から突き上げられる。苦しさに思わず瑠夏のものを両手で包み、それ以上咥え込まされないよう抵抗した。すると瑠夏は俺の頭に置いていた手でまだワインでべとついている髪を掴むと、無理矢理後ろへ引いてくる。痛みに眉を顰めながら男を見れば、無表情のライオンが、牙を見せて俺を喰らおうとしていた。

「手を使うな、と言っただろう?JJ」
「痛……っ、瑠夏、これは……っ」
「ボクは言った、けれどそれをキミは守らなかった」
「違う、話を……!」

乱暴に肩を掴まれ、うつ伏せにベッドへ押し倒される。慌てて振り向こうとして、後ろの窄まりにあてがわれた熱に身体は固まってしまった。すぐ我に返りシーツに爪を立て前へ這いずり逃げようとするが、腰を強く掴まれ引き戻されてしまう。そしてすぐ、身体を引き裂くような痛みが襲った。

「あ……っ!ぐ……っ」
「っ……は……」

乱暴に埋め込まれていくそれは無理に中を拡げるように動く、四肢の先が血の気を失い冷たくなり、頭は痛みにやられまともに思考してくれない。身体は終わらない痛みに耐えるため強張り、自分の意志で力を抜くことすら出来ず指先をシーツにしがみつかせ苦痛に喘いだ。
瑠夏の怒りは収まるどころか増していく、許されるためにしている行為で余計に気分を害させていては本末転倒だろう。従順でいる事も出来ない自分に嫌気がさすが、せめてこれ以上不快にさせないためにと必死で痛みに耐えた。
自分への罰だと思えばいい、終わりは見えず縋る手もなく、泥水を啜り生きていたあの日々よりはずっと幸福なのだから。

「ひっ、あ……瑠夏……!」
「力を、抜け……っ、ボクを受け入れるんだ、JJ……っ」
「ふっ……く……は、ぁ……っ」

その言葉にどうにか身体の力を抜こうとするが上手くいかない、痛みから逃れるためそうすることには慣れていたはずなのに、瑠夏に抱かれるようになってからまるでやり方を忘れてしまった。

「っ、ん……痛がっている割に、こっちは萎えてないじゃないか」
「あ……っ、ひ、う……」

ぬる、と先走りを塗りつけるように、俺のものを包んだ瑠夏の手が動く。粘つく水音が響き鼓膜を揺らす、この状況でも尚萎えなかった自分の反応を思うと、瑠夏に揶揄されても仕方がない。

「ボクのを咥えているときから興奮していたね……本当は、早くこうして、っ、欲しかったんだろう?」
「違、あっ!止め、まだ動く、な……っ!」

全てを埋めた瑠夏は、そのまま深い抜き差しを繰り返す。切れてしまったのかそれとも瑠夏の先走りが潤滑油代わりになったのか、その動きは少しずつスムーズになっていった。中が瑠夏の形になじむと苦痛は和らぎ、内を擦られる事は快感へ挿げ替わっていく。それは瑠夏へも伝わり、抽挿に容赦がなくなった。シーツに爪を立てぐしゃぐしゃと乱しながら、瑠夏の激情を受け入れ続ける。

「やっ、あ……瑠夏、瑠夏……っ」
「っ……まだ、許しを請うのかJJ……っ、こんな扱いをされても?」
「あっ……!ア、ンタに見放され、たら……俺に行く場所は、ない……だか、ら、せめて瑠夏の為に……っあ、死なせて、くれ……!」
「――っ!!」
「ああぁっ!」

ギリギリまで抜けたものが、腹の底を抉るように貫いてきた。同時に強く前を擦られると快楽は弾け、シーツへぱたぱたと白濁が落ちていく。深い所に瑠夏の熱を受け、それでも萎える事のないそれがまた俺の中で動き出した。俺はそれをぼんやりとした意識で受け入れる。
行為が終わるまで瑠夏は俺の顔を見ようとはせず、そして言葉をかけてくることも無かった。













「ようJJ、もう怪我はいいのか」
「っ……石松、か……あぁ、まぁな」

ドラゴンヘッドとの話し合いが当然の流れだったとは言え決裂し、偽の霧生に自ら気付いた瑠夏はそれを無表情で撃ち殺すと、内に秘めていた獅子の牙を覗かせながら、ドラゴンヘッドの殲滅を指示した。その中で負傷しつつも劉を討ち取った俺は評価され、今では瑠夏に一番近い幹部としての位置に立つ事が出来ている。もっともそれも霧生が復帰するまでの短い間なのだろうが。

「でも顔色が良くないぜ?……っつーか、赤いな。熱でもあるのか?」
「い、いや……大丈夫、だ……っ……!」
「JJ?おい、本当に大丈夫なのか?」
「本当、に……大丈夫だ……っ、だから、放っておいて、くれ……っぁ……」
「放っておけってお前……お、おいJJ!」

ガクリ、と膝が崩れる。耐えられず床へ膝をつくと、心配したらしい石松が傍へ来て俺の肩に触れた。それだけで身体は過剰に反応し、思わずその手を跳ね除けてしまう。
普通ならそれで気を悪くするだろうに、石松はそれでも「馬鹿、強がってる場合か!」と怒鳴ると俺の腕を引き立たせてきた。そのまま自分の肩に回させ支えるようにして歩き出した奴に俺はもう逆らう気力も無く、引き摺られるようにして廊下を進んでいく。
角から、金色の髪が見えるまで。

「――っ……瑠夏……」
「おっ、瑠夏!丁度よかった、こいつ具合悪いらしくてよ、休ませたいんだが問題ないか?」

ズボンのポケットへ手を入れたまま立ち止った瑠夏は一瞬目を細めたが、すぐ痛ましそうな表情を浮かべると俺達へ近付いてきた。俺は目を逸らす事も出来ずただ瑠夏の瞳を見つめ続けた。

「JJ、具合が悪いのかい?」
「その……っ、ぐ……!」
「JJ!?」

突然口を押さえ俯いた俺を、石松は慌ててその場へ座らせる。戸惑った様子で俺の顔を覗きこみ「吐きそうなのか?」と背中をさすってくれるが、今は触れないでくれる方がありがたい。

「んっ……ふ、ぅ……っ」
「吐きたいなら無理しないで吐いちまえ、な?」

見当違いな優しさだ、それでも本当に心から心配してくれているだろう事を思うと申し訳なくて仕方なかった。俺は必死で声を殺しながら首を振った、違うという意味合いだったが、石松には嫌だ、という意味にとられてしまったらしい。どうしていいかわからず瑠夏を……俺が今こうなっている原因の男を見上げる。

「……石松、彼はボクが看るよ。キミは今から出るとこだろう?」
「そうだけどよ……いいのか?」
「あぁ、ボクは丁度これからしばらくフリーだからね」
「わかった、なら任せる。おいJJ、意地張らねぇで瑠夏に看てもらうんだぞ、今お前に倒れられたら大変だからな」

そう言って苦笑しながら俺の頭をぐしゃりと撫で立ち上がると、石松は瑠夏が姿を見せた廊下の角へ消えていった。瑠夏は未だに両手で口を塞いている俺をまた立ち上がらせ、無理矢理歩かせると自分の部屋へ押し込むようにして入らせた。すぐドアに押しつけられ、瑠夏がポケットから出したものに指をかける。途端、中に埋められているものが更に強く主張を始めた。

「あぁっ!あ、く……っ、止め、てくれ……」
「そんなに物欲しそうな顔をして、止めてくれなんて説得力無いよ」
「瑠夏、も、抜い、ああぁ……っ!」
「……イったのか?……なぁJJ、今日”コレ”で何回イった?ボクに教えてくれるかい?」

妖しく、それでも冷たい響きの言葉で瑠夏は俺を嬲ってくる。もうとっくにドロドロになっているスラックスの中を余計に乱すようぐちゃぐちゃと布越しに擦りながら、逆の手では服のファスナーを下ろし突起を指の腹で捏ねるよう弄ってきた。その刺激も相まってまた固さを取り戻した俺のものに気付いたのか口角を上げ、瑠夏の手は上にずれベルトを外し始める。

「あ、やっ……瑠夏、せめてベッド、に」
「駄目だ……抜いて欲しいなら、今すぐそうしてあげる」

そのまま前をくつろげられ、ドアに顔を押しつけるように身体の向きを変えられるとスラックスは重力に従い下がっていった。下着をずらされてしまえば、後孔から伸びるコードも露わになる。瑠夏の指がそれを掴んだのか、中のものが引っ張られ当たる位置を変えた。

「っ、う……」
「そんなにこれがいい?随分締め付けてるね」
「違、う……も、抜いてくれ……っ、あ、あっ!」

中で振動していたものがようやく抜け思わず膝が崩れそうになるが、ドアにしがみつくよう体重をかけなんとか身体を支える。
昼頃瑠夏にローターを挿れられ、自分の仕事が終わり部屋に行くまで抜くなと言われたので必死に耐えていたが、石松の前で限界が来てしまい、何よりそれをこの男に見られたのは失態だった。ポケットの中に入れていたらしいリモコンで振動を強くし、どうにもならない状況に俺を追い詰め楽しんでいたのだろう、口を塞いでいなければあられもない声を漏らしてしまいそうで、石松の言葉に答える事も瑠夏に縋る事も出来ない様子を見て、嗤っていたのだろう。

「っあ……」

熱く固いものがまだ痺れているような後孔にあてがわれる、ぞくりと身体に走ったそれは期待だろうか。思わず腰を揺らした俺の反応に、瑠夏は喉を鳴らすようにして笑った。わざと俺を煽るように、双丘の間を濡れた昂ぶりが何度も滑る。身体ごと捻るようにして瑠夏に視線を合わせると、あの日からずっと変わらない青い瞳が冷たく俺を見つめていた。
もう、俺と瑠夏の関係はこれ以上どうなる事も無い。霧生が戻れば僅かに変わるだろうが、きっとそれは俺が望む変化ではないのだろう。一番近くには、きっと居られなくなる。
それでも瑠夏に許されるまで、俺は瑠夏の傍に居る事が出来るのだ。この身と心を差し出しそれを好きに扱われながら、酷くされる程に安心して、それを繰り返す。

「あっ!は、瑠夏……っ」
「そんなに悦さそうな顔をするなよ、挿れただけでそんなにいい、のか?」
「い、い……っ、また……あぁっ!」

埋め込まれていくものを締め付けながら、俺は何度目かの絶頂に背を仰け反らせた。瞬間弛緩した身体を、瑠夏のものが遠慮なく貫いてくる。声も出ずただ必死に身体を支え、後ろからの突き上げに揺さぶられた。

「石松に、縋ればよかったじゃないか、っ、ボクに酷い扱いを、受けてる、って」
「あ、うっ!瑠夏、瑠夏……っ!」
「あんな物欲しそうに見つめてきて……っ、石松にも、そんな顔を見せたんだろう?」
「見せて、な……っ瑠夏が来たから、だっ」
「信じられないな……キミは、縋れるなら誰だって、いいはずだ……っ」

腹の奥に何度も鈍痛が走る程の激しい抽挿、擦りあげられる事で昇り詰めていく熱、苦しさすら快楽に変える浅ましい俺の身体を瑠夏は嫌っているのかもしれない。それでもこの男は俺を抱き、自らに縋らせるため快楽を与えてくる。
俺の全てを信じようとはしない、それでも手放してなどやらないと、その執着に縛られるのは不思議と心地よかった。死神の自分に真っ当な愛など与えられはしなかっただろうから、この男に囚われただけでも俺は充分だ。きっとあの時願ったように、男の為に死ぬことは許してもらえないのだろう。しかしそれは同時に、深い底へ沈めた想いを叶えてくれる。
瑠夏が俺に執着する限り、どんな形であれ霧生へ強い想いを向ける姿を、見なくて済むのなら。

「アンタ、だけだ……っ、瑠夏、俺は……ひ、ぁっ!」
「信じない……っ、キミはボクの為に死んだり出来ないし、させないよ……そうしてずっと、望まないように生きるんだ……!」

アンタの傍に居られるのならそれは俺の望みだと、しかしその思いは決して口にしない。
無理矢理に顔の向きを変えられ首の筋が痛んだ、そうしてすぐに唇が噛みつくような勢いで塞がれる。
あぁ、キスは随分久しぶりだと、きっと快楽のせいで滲んだ涙が、ゆっくりと頬を伝っていった。











BAD END