とある黒猫の愛し方

目の前にいる黒猫の扱いについて、俺はここ数日頭を悩ませていた。
数日前拾ってきて以来すっかり居ついてしまったこの黒猫は、JJに似ているという理由から「ジャック」という奴をもじった名前を与えられ、すっかりファミリーの一員のようになっている。元々の性格からか露骨に甘えたりはしないようだが、それでもボスにはわかりやすく懐き、猫好きのパオロと居る場面もよく見かける。石松は色んな餌を買ってきては食わせているようだが、戦果は5分5分といったところらしい。
そんな中、どうしてかこの猫は少しも俺に懐こうとはしなかった。自分も大概猫の扱いは下手だと自負しているが、それでも一切の接触を許されない程に嫌われるようなことをした覚えはない。
ボスが不在の間の世話を任されたのはいい、俺を信じて任せてくれたということは喜ぶべきことだ。しかし今も部屋の隅で警戒しながらこちらの様子を窺っている姿を見ると、パオロあたりに代わってもらった方がいいのではないかとすら思える。

「おいジャック、せめて飯くらいは食え」

猫缶を開けた皿を差し出すが、奴は俺から視線を外そうとはせず、その場を動かない。腹が空けば食べるだろうと昨日はそのまま放置していたが、朝になっても皿の餌は少しも減っていなかった。他の奴らに何かジャックに食べ物を与えたかと聞いても全員が同じように首を横に振っていたので、こいつは丸一日何も食べていないことになる。
元々弱っていた身でそんなことをすれば、また具合が悪くなるだろう。俺は先程パオロから手渡されたものを懐から出す。小さな瓶に入っているのは、粉末状にしたマタタビだ。これを少量餌に振りかけてあげれば食べるかもよ?とパオロがくれたものだが、これでも駄目ならこの瓶ごとジャックをパオロに渡すしかないだろう。
ボスに命ぜられたことを遂行出来ないのは恥ずべきことだが、自分の意地にこの小さな生き物を巻き込むつもりはない。
そう思い瓶の蓋を開けたところで、ふいにジャックが居る場所の影が大きく動いたように見えた。何だと視線を向けると、そこにはありえない光景が広がっていた。

「は……な、な……っ!?」
「っ……ん……」

虚ろな瞳でぼんやりと俺を見ているのは、居るはずのない男。先程まで俺を警戒し固まっていたジャックが居た場所には、今は任務で屋敷を空けている筈のJJが、一糸纏わぬ姿で座り込み、壁に寄りかかっていた。そして何より目につくのは、頭から生えているように見える猫のような耳と、床に垂らされた尻尾。その色は、ジャックとまるで同じだ。いや、ジャックの毛色がJJに似ているのだったか。
違う、今はそんなことを考えている場合ではない。とにかく落ち着こうとするが、あまりに現実味のない光景に動揺したらしく先程蓋を開けたマタタビの瓶が手から滑り落ちる。咄嗟に手を伸ばすがその瓶は俺の手にマタタビの粉をばら撒きながらそのまま床に落ちてしまった。中身の8割は零れてしまっただろうか、自分の手にも大量の粉末がかかってしまっている、掃除が大変そうだとどこかで冷静な頭が呟いた。

「ん……」
「……?……っ、JJ!?」

いつの間にか傍に来ていたJJは床に零れた粉末をじっと見ると、そこに顔を寄せあろうことか舌でそれを舐め取り始める。しばし呆然とその様子を眺めてしまったが、我に返ると急いでその顔に手を添え無理矢理上を向かせた。

「き、汚いだろう……!」
「…………」

邪魔をするな、と言わんばかりの恨みがましい視線を向けられるが、床に零れたものを人間が舐めている光景は見ていて気持ちの良いものではない。人間……人間で、良いのだろうか。こうして傍で見ても、やはりついている耳と尻尾は本物としか思えない。

「じゃあ、こっちなら、いいのか……?」
「っ!?しゃべ……っ!?」

いや、人間の姿をしているのだから喋っても不思議ではない。しかしどう考えてもこいつは先程までそこに居たジャックのはずだ、ドアが開けば流石に気付くだろうし、そもそもこの場にJJが居るのはおかしい。しかも何のためか耳と尻尾をつけてまで。あまりに非現実的なことだが、ジャックが人間になったという方がまだ納得出来る、ように思う。だとすればそれがどうしてJJの姿なのか、多少舌足らずではあったが、声もJJと同じに聞こえた。
混乱で定まらない思考に溺れていると、JJは俺の手を掴み鼻を寄せると、そのまま指をぺろりと舐める。

「お、おいJJ……!?」
「んっ……ふ、ぅ……」

Jjは俺の指の1本1本を、先から付け根まで余すところなく丁寧に舐めていく。そこにマタタビの粉末が付着しているのだと思い出す頃には、3本程が綺麗に舐め取られた後だった。ふと、パオロの言葉を思い出す。マタタビは与える量が決まっていて、決して与えすぎないようにと注意を受けていたのだ。床を舐めていた分も含めると、多分とっくに適正量は超えている。
それどころではないはずだ、だが想像を遥かに超えた事態に遭遇すると、人はどうでもいいことばかり優先させてしまうようだ。一種の現実逃避のようなものだろうか。俺は慌てて手を離させようとするが、JJはベッドに腰かけていた俺の身体に圧し掛かるようにして尚も指を舐め続けた。マタタビの作用で興奮しているのか、頬は赤く染まり、潤んだ瞳でうっとりと俺の指を見つめながら舌を這わせる様子を見ていると、熱が下腹部へと集まっていく。つい息を飲んだ俺に気付いたのか、その視線を今度は俺へと合わせる。
きっと、そこにも粉が付着していたのだろう。ぐっと顔を寄せてきたJJは、そのまま俺の唇をぺろりと舐め、満足そうにその口元を緩めた。そして力の抜けた身体を預けるようにして全身で擦り寄られると、隠せないほどに張りつめたものが布越しに刺激される。弾けたのは、きっと理性の糸だ。

「んっ?きりゅ……?」
「――っ、JJ……!」
「っん……!」

体勢を入れ替えると、目を丸くしたJJが俺を見上げてくる。しかし先程のようにその瞳は潤んだままで、ぞくり、と情欲の火が更に煽られた。噛み付くような勢いで口付けると、苦しさからかJJは俺の腕を掴み押し戻そうとする。しかし上手く力が入らないらしい、同時に尻尾でもぴしぴしと抵抗してきたがしばらくして諦めたらしく、JJは両手で俺のスーツにしがみつきながら、長い口付けを受け入れ続けた。

「ふぁ……っ、あ、きりゅう、なに……」
「っ……煽ったのは……お前だからな……」

晒されている胸の突起に舌を這わせると、JJの身体は大げさなまでに跳ねた。喉の奥から小さな喘ぎが漏れ、それは俺の耳を甘く揺らす。舌で転がし、時折吸い上げるとじれったそうに体を捩じらせる。逆側に手を添え、そちらも指でぐいと押し潰すとJJは一層甘い声を上げる。何時ものこいつからは考えられられない程の艶めいた仕草と甘ったるい声に、じりじりと内の炎が勢いを増していく。

「あっ、あ……やっ……」
「んっ……JJ……」

俺の与える愛撫が焦れったかったのか、JJは両手で俺にしがみつき頬を擦り寄せながら腰を浮かせると、昂ぶった自らのものを擦りつけてくる。そして俺を見上げながら、舌足らずに俺の名前を呼ぶ。甘えるような声色と、何かを求めるような瞳にぞくり、とまた身体が震えた。ここまできてしまえばもう止めることは出来ない、自分の服を取り払うとJJが擦りつけてきているものをぎゅうと握り込み、上下に擦る。

「あぁ……っ!あ、きもち、い……!」
「このまま……一度、出せ」
「ふぁ、あっ!やぁ、で、る……きりゅう……っあぁ!」

同時に胸を刺激しながら強く擦り上げるとJJはすぐ切羽詰まった声を上げ、びくびくと身体を跳ねさせながら俺の手の中へ熱を吐き出した。JJの足を掴み抱え上げ、手に残る白濁を後ろへと垂らし指で馴染ませるように周囲をなぞる。時折その指を飲み込もうとするように収縮する様子を見て、自身が更に昂ぶっていくのがわかった。
充分に濡れたそこへつぷり、と指を半分程埋め込むと、JJは苦しそうな吐息を漏らした。痛かったか、と抜こうとした指に内部が絡みつきぎゅうっと締め付けてくる。

「JJ……?」
「や、ぁ……ぬく、な……っ」
「――っ!」

窺うようにJJの顔を見ると眉を苦しそうに寄せながら、それでも欲情しきった瞳を俺にぶつけてきた。告げられた言葉に煽られるようにして指を根元まで埋め込むと、JJはその指を更に強く締め付ける。そのまま抜き挿しすると少しずつ内部は解れていく、指を増やしていくとその度にJJは強く締め付けてきた。まるで物足りないとでもいうかのように身体を捩りながら両手でしがみついてくるこいつを見ていると、どうしようもない欲が胸中で暴れまわる。指を抜くとJJは小さく声を漏らす、切なげに、そして何かを期待するように見上げる瞳に俺はJJの腰を高く抱えると、自分のものを解れたそこへとあてがった。

「っ、あ……」
「JJ……入れる、ぞ……」
「あ、きりゅ、う……はやく……!」
「あぁ……っ!」

ゆっくりと中へと自らのものを埋め込んでいくと、中は待ちきれないというようにぎゅうっと締め付けてくる。加減が出来ないのか、それはいっそ痛いくらいだ。JJの表情を窺うと本人もきついらしく苦しげに眉を寄せている。
どうにか楽にしてやれないかと、JJの眉間に顔を寄せるとそこに軽く口付けを落とす。JJは不思議そうに俺を見上げ、それでも心地良さそうに小さく声を漏らした。そのまま額や頬に口付けを落とすと少しずつJJの身体から力が抜けていく。ぐっと腰を動かし無理矢理全てを埋め込むと、それがわかったのか組み敷いている身体はふるりと震えた。

「あ……っ、ぜんぶ、はいっ、て……」
「っ……あ、あ……」
「きりゅう……」

Jjは器用に尻尾を俺の腰へ巻きつけると、また頬を寄せ猫のようにすりすりと擦り寄ってくる。いや猫のように、というか、やはりこいつは猫のジャックなのだろうか。姿も声も、俺の知るJJと同じだ。しかし意思の通りに動く耳と尻尾はどう見ても猫のものだし、口調と……性格も、いつものJJとは似つかない。舌足らずな喋り方に、何より自分の快楽を素直に口に出し先の行為をねだる姿なんて、普段の姿からは想像も、

「っ……JJ……!?」
「あっ……!ん、きりゅう……あ、あっ」

俺の下でもぞりと動いたJJに突然肩を押され、繋がったまま体勢を逆にされる。そのときに中の感じる部分を擦ったらしく、JJはぎゅうと内部を収縮させながら甘い声を上げた。そして熱っぽく俺を見下ろしながら腰を動かして始めるが、力が抜けてしまった身体ではうまくいかないらしい。何度も浅く抜き差しを繰り返してから、縋るような目で俺を見た。そのあられもない姿に煽られるようにしてJJを自分の上へ乗せたままその身体を抱きしめ突き上げてやると、喉を仰け反らせながら苦しげに喘いだ。
ピンと立った尻尾が視界に映りなんとなしに付け根の部分をするりと撫でると、JJの身体はブルッと震え俺のものをきつく締め付けてくる。

「っは……!」
「あ、あ……っ!も、きりゅ……!」

崩れそうな身体を俺に預けるようにして首元に擦り寄ったJJは、熱い吐息と共に俺の名前を呼んだ。そして寄りかかったままもぞりと両手を動かすと、腰を小さく揺らしながら昂ぶった自分のものを握り上下に擦り始める。耳元にJJの荒い吐息がかかり、そこから漏れる喘ぎを聞いているとこの異常な状況全てがどうでもよくなった。

「JJ……JJ……!」
「っあ、あぁ……!」

最初と同じようにその身体を組み敷くと、そのまま何度も深く中を抉る。ただ自分の快楽だけを求める行為、それでもJJは甘い喘ぎ声を上げ、その手は動きを止めようとしない。うっすらと開かれている瞳が俺を窺うように見つめた、小さく呼ばれた名前に誘われるように、唇を合わせる。

「んっ……きりゅう、あ……っ」
「っ……」
「あぁっ!そこ、もっと……っん、あ……!」

腰を抱えるようにして貫くと、中の感じる場所を擦ったらしくJJが脚と尻尾を絡めてきた。ぴくぴくと震える耳に、いつもよりやわらかそうな髪、触れるとそれらは思った通りやわらかく手に絡んでくる。
熱に浮かされているのか、この異常な状況下で混乱しているのか、それとも自分を求め受け入れて名前を呼ぶからか、
この男を愛しいと、感じるなんて。

「あ、あ!も、でる……っ、きりゅう……!」
「っ、く、あ……!」

びくびくと身体を跳ねさせながら自らの胸や腹に白濁を撒き散らすJJ、それに煽られるように俺も中へと熱を注ぐ。繋がったまま荒い息を落ちつけていると、きゅう、と先程欲を吐き出したものを煽るように刺激された。視線をJJの顔へ向けると、苦しそうにしながらもまだ物足りなそうに俺を見つめている。

「お、おいJJ……」
「きりゅう……まだ、たりない……」
「っは……こ、こら、締め付けるな……っ」
「もっと……してくれ……」

Jjは俺の首へ腕を回し、擦り寄りながら首筋へと口付けてくる。煽っているのか猫の習性なのか、その内そこへと舌を這わせ、軽く歯を立ててきた。くすぐったさと共に、ぞくりと腰が疼く。落ち着いたはずのものは、埋め込まれたまま固さを増していく。
もう知るか、と再度腰を動かし始めると、JJはまた甘く鳴き始める。そうしてJJが求めるままに、俺は奴を抱き続けた。



気を失うようにして終わった行為の後、何かが動く気配に意識が浮上する。まだぼんやりとする視界の中でその気配を追うとそれは自分のすぐ隣から感じられた。視線を移したとき、昨夜の記憶が全て蘇る。
申し訳程度にかけられた毛布に包まるようにして穏やかな寝息を立てているのは、一糸纏わぬ姿のJJ。顔に熱が上がってくるのを感じながら、そっと髪に触れると、そこに昨夜見たはずの猫の耳は見当たらない。次いで毛布に手を差し込み腰の辺りを探るとやはり尻尾もなくなっていた。流石にくすぐったかったのか「ん……」とJJは小さく声を漏らす、それ以上刺激しないようにと動きを止め様子を見ていると、すぐにまた安らかな表情で寝息を立て始める。
こうしてこの男が穏やかに眠っているところなど、始めて見た。眠らなくても平気だ、という言葉を本気にしたことはないが、1人孤独に生きてきたこいつが安心して眠れたことなどあったのだろうか。

「っ……」

こみ上げた感情が何だったのか、考えるより先に身体が動いた。そっとその身体を包むように抱き締め、額に口付けを落とす。流石に起こしてしまうかと思ったがJJは目を覚ますことなく、温もりに縋るように手を伸ばし俺の身体を抱きしめた。

起きたら何を言われるかわからない、そもそも昨夜の記憶があるのかすら……昨夜の状況が何だったのかすらわからない。
それでも、今だけでもこの男が求めるものを与えてやれたらと、抱き締める腕の力を強めて、俺もまた目を瞑った。









おわり