確執とその解消法について

ここキングシーザーの屋敷に来た初日、霧生に私刑を受けたことはまだ記憶に新しい。ようやくあの時の傷が目立たなくなり始めていた矢先、俺はあの時のように地下で数人の男に囲まれていた。あの時と違うのは、男たちの目にギラギラとした光が宿り、俺を舐めつけるように見ていることだ。仕事に使う荷物があるという理由でここまで連れてこられたが、途中で感じた嫌な予感をそのままやり過ごすべきではなかった。

「何のつもりだ……っ、離せ……!」

抵抗はした、数人の身体や顔には痣や擦り傷がついている。それでも両腕を抑えられ床に倒されてしまえばこれ以上暴れることは出来ない。うつ伏せになり無様な姿で床に顔を擦りつけている俺の頬を、1人の男が蹴り上げる。鈍い衝撃と痛み、口の中に鉄の味が広がり、俺は眉を顰めながら唾と共にその血をその男の靴へ吐きつけてやった。怒声と共に今度は腹に重い衝撃、胃液が逆流したのか喉が焼けるような感覚の後、口の中に嫌な苦みが広がる。

「げほっ!っ、く……」

俺が観念したと思ったのか、抑えつけている男は俺の上着に手をかけ乱暴な手つきで脱がせていく。この状況で服を脱がされる、その行為の意味するところなど1つしかない。どうにか身体を捩り拘束から逃れようとするが、数人がかりで抑えつけられたままでは文字通り手も足も出ない。あっというまに上半身の衣服を全て剥ぎ取られ、当たり前のようにスラックスへと手が伸びる。この先自分の身に降りかかる出来事を想像し、ぞわりと悪寒が走った。

「やめろ……!」

必死に抵抗するが、また、今度は肌の晒されている腹へときつい一発をくらう。思わず咳き込むと血の混じった唾が床へ吐き出された。そのままその上へ頭を抑えつけられる。ぬるりと、こめかみ辺りに自分の吐き出したものが擦り付けられ嫌悪感に男達を強く睨みつけるが、それを受けた奴らはニヤニヤと下卑た笑いを返してくるだけだ。どこまでも腐っている、と心の中で毒づいた。
穏健派とすら言われるキングシーザーといえど、末端の構成員はそこいらのゴロツキと変わらないらしい。下っ端として働いている中で、内部での分裂もあるように感じた。飄々とした立ち居振る舞いをする瑠夏といえどその辺りには手を焼いているのだろう。

「……っ!」

スラックスが下着ごと下され、下半身が外気に晒される。男達の不躾な視線が自分へ向けられることに、俺はまた悪寒を感じた。いくつもの手が俺へ伸ばされ肌の上を好き勝手に這いまわっていく。胸の突起を痛いほどに捻られ、萎えている俺のものを握り無理矢理勃ち上がらせようとする。濡れてもいない指が後ろへ入り込み、俺は苦痛に情けない声を漏らしてしまった。
男達が笑う。嘲るような笑い声は過去の記憶を喚起させた。硝煙と土、むせ返るような木々の匂い、好き勝手に這いまわる男達の手、身体中に吐き出され注ぎこまれる欲望。1人の虎が俺を捕らえるまでは、そうして男達の慰み者にされていた。

「くっ……あ……んぐっ!」

1人の男が俺の顎をつかむと、口の中へ昂ぶった熱い塊を無理矢理押し込んでくる。独特の味と匂いが広がり、舌で押し返そうとするが頭を掴まれさらに押し込まれると苦しさにえずいてしまう。いっそ噛みついてやろうかと思うが、この男1人に痛手を負わせたところでこの場から逃げることは叶わない。突破口を見つけこの状況を打破するまでは、みすみすチャンスを潰すような行動はとるべきではないだろう。
歯を立てる代わりに舌を這わせると、満足そうな声が聞こえた。嫌悪感を無理矢理飲み込みながら俺は体中に与えられる刺激と吐き気に耐えながら、男達の気が緩む瞬間を待つ。

「ふぅ……ん、む……っ」

こんな最低な状況でも、感じる場所を刺激されれば身体は熱を上げていく。無理矢理に擦られていた場所はそれでも先走りを垂らし始め、胸の突起に与えられる刺激に身体は震えてしまう。
浅ましいと男達が笑う、俺の返す反応を見て嘲笑う。本当に俺の望むチャンスなどくるのかと、絶望に似た感覚が生まれる。このままチャンスがこないまま嬲られ、殺されたっておかしくはない。瑠夏に誘われここに入ったとはいえ所詮まだ下っ端で、俺を認めている奴らなどほとんど皆無の状況だ、俺が嬲り殺されていたとしても惜しむ奴は居ない。霧生辺りはむしろ、喜ぶのではないだろうか。

「ぐっ、う、げほっ……!」

ぶるりと震えた男が、俺の口へ欲を注ぐ。耐えがたい味と匂いに俺は解放された口からそれを吐き出した。またその上に頭を擦りつけられ、男に拘束されていた腕が後ろ手に括られ、縛られる。腰を高く上げさせられた情けない恰好に、俺は次に自分が何をされるのか悟った。思考と同時にカチャリと後ろから金属音がする、男がベルトを外した音だろう。
自然と身体が硬くなる、まだ充分には解されていないそこに熱いぬめりを感じ、俺は衝撃を覚悟して目を瞑る。
途端、カン、カン、と、遠くから別の金属音が響いてくる。それは、そう、この地下に降りてくるときに自分達も慣らした音だ。後ろに居る男がびくりと身体を揺らし、慌てた様子で俺から身体を離した。他の男達も伸ばしていた手を引き、その音の主へと目をやる。紺色のスーツが見え、俺は瞬時にそれが誰なのか気付いた。残念なことに、俺にとって嬉しい救いの手ではなさそうだ。

「……お前達、何をしている?」

不愉快そうな低温の声、この位置からだとその表情は見えないが眉を寄せ男達をきつく睨みつけている姿は容易に想像できる。床に転がる俺には気付いていないのだろう、男達へさっさと仕事に戻るよう指示し、奴らがすごすごと階段を上がっていったところでようやくこちらへ視線を向け、目を見開いた。次いで、その顔が耳まで赤く染まっていく。

「っ……!?JJ、お前、何を……!?」
「……聞く、な……思い出したくも、ない……」

括られた腕を解こうと腕を動かすが、固く縛られているらしく一向に緩む気配がない。舌打ちをしながらせめて身体を起こそうとするが、さっきまでの行為で無理矢理昂ぶらされた身体は言うことを聞かず、脚にうまく力が入らない。

「おい、JJ……?」
「何でもない、いいからお前はさっさと……っ」

愛しのボスの元へでも戻れ、と皮肉の一つも言ってやろうとしたところで、霧生が俺の元へと歩み寄ってくる。そして、流石に目に余ったのか腕の拘束を外そうとしてだろう、その指が俺の腕に触れる。びくりと、小さく身体が跳ね、俺は過剰なまでの自分の反応にまた舌打ちをした。
いくら霧生とはいえ、俺の姿とこの独特の匂いを嗅げば何が起こったかくらい想像がつきそうなものだが。横目でその表情を窺うと相変わらず顔の熱は引いていない、どころか気まずそうに俺から視線を逸らすようにしている。やはり気付いてはいるようだ。

「ちっ……同情のつもりなら、止めろ。虫唾が走る」
「違う。お前のことは認めていないが、それでも部下の不始末だ」
「……お前も、似たようなことをしただろう、俺に」
「あ、あれとこれは別だろう!俺はこんな……っ!」

言葉を詰まらせる霧生に、俺はこれ以上の会話をするのが馬鹿らしくなり口を閉ざす。こいつにこんな姿を見られること自体相当な屈辱だというのに、その上助けられるなんて恥の上塗りもいいところだ。

「と、とにかくだ、腕くらいは解いてやる、後は好きにすればいい」
「……そうさせてもらう」

お互いに渋々といった様子で言葉を交わす、俺は霧生から視線を外すと、もぞりと身体を動かした。
まだ、無理矢理昂ぶらされたものはそのままになっている。あの状況で感じていたのだと知られるのは嫌だった、たとえ生理現象といえど、胸と前を弄られ今にも達してしまいそうな状態にまで追い詰められてしまっているのだ。
他人にそれを気付かれ浅ましいと嘲られる屈辱を、知っている。俺は霧生の目に触れないよう体の向きを変えた。

「おいJJ、動くな」
「うるさい、早く済ませろ……っあ!」

やりずらかったのか、霧生が俺の身体の向きを変えようと腕でぐいと押される。その動きで、昂ぶっていた自分のものが床に擦れ、俺は鼻にかかるような甘ったるい声を上げてしまう。霧生の手がびくりと震え、1度離れる。

「お、おい、JJ……?」
「っ……く、あ、あ……!」

その刺激が、最後のひと押しになってしまった。俺は焦らされていた分強くなったらしい射精の快感に、堪え切れない声を上げながら身体を震わせる。そして自分の吐き出したものが撒き散っている床に、どうすることもできず身体を倒れ込ませた。少しの間意識が混濁し、自分の状況すらはっきりしなくなる。身を横たえながら俺は荒い呼吸を繰り返す、まだ完全には引いていない快感の波が過ぎていくのを待たなければ、身体を動かすことは出来そうになかった。

「はぁ……は……」

そんな俺の顔を、誰かが覗き込む気配がした。ようやく俺はこの場に居るのが誰なのかを思い出し、その覗き込んできた男を睨みつける。しかしその先にあった表情に、俺はぞくりと身体を震わせる羽目になってしまった。
霧生が、俺を見ていた。頬どころか耳まで赤く染めたまま、どこか獰猛さを秘めている瞳で、俺を見ている。俺を嫌っているはずの奴が俺が感じている姿を見て興奮したとでもいうのか。男の性だとしても、同じ男である俺に対してそんな風になる感覚をこいつが持っているとは思えない。

「霧、生……」
「お、お前、その……今……」
「っ……言うな……」

これじゃあとんだ晒し者だ、さっさと腕を解いてくれという思いで霧生を睨むと、奴は尚も熱っぽい瞳で俺を見つめている。だからどうしてそんな目で俺を見るんだ、さっきの男達のようなギラギラと歪んだ欲の塊のような瞳ではなく、まるで熱に浮かされ俺自身に欲情しているような、そんな求める瞳で。

「霧生……腕を、」
「あ……あぁ……あ、いや、その、だな……」
「……何だ」

嫌な予感がする、というよりは嫌な予感しかしない。そうしてすぐにその予感は現実のものになり、俺は腕を縛られたままの状態で霧生に身体を押され、無理矢理仰向けに転がされる。

「お、い、何のつもり……っ!」

霧生の手が、俺の腹をなぞる。付着している白濁を広げるような動きに、気持ち悪さとくすぐったさの両方がぞわぞわと肌を粟立たせる。そのまま胸の突起に触れると、不慣れな手つきでそこを弄り始める。まだ敏感になってしまっている身体は、その焦れったい刺激で簡単に熱を上げていく。
止めろと言いながら身体を捩るが霧生は空いている手で俺の肩を押さえ、今度は指で触れているのとは逆の突起に顔を寄せ、舌で刺激してくる。

「ぁ……っ、止め……!」
「ん……声、を……」
「っ……?」
「もう1度、聞かせろ……さっきの、声」
「霧生、何言って、ん、あ……っ!」

胸を弄っていた手が離れ、昂ぶり始めてしまっている俺のものへ触れる。先程出したもので濡れた霧生の手がそこを擦り上げると、ダイレクトな快感にまた甘ったるい声が漏れる。粘つく水音が耳に響き、その音を立てているのが俺のものを握っている霧生という状況は、未だにわけがわからない。
どうしてこんなことになっているんだ。軽蔑されるのならわかる、霧生は俺のことを嫌っていて、存在を疎ましく思っているのだから。こうして男達に蹂躙されていた状態を見て、無様にも床に自分のものを擦りつけ射精してしまった姿を見て、その時に上げた声を聞いて、どうしてこの男は興奮した様子で俺の身体に触れているんだ。
痛めつけるわけでもなく、不慣れながらに快楽を与えてこようと、するんだ。

「や、め、霧生……!」
「っ……足りない、か?」
「ちが、あっ、止め、手を、離せっ!」
「……は、ぁ……っ」

霧生が、切なげな吐息を漏らす。そして俺の脚の間へと無理矢理身体を割り入らせると、太ももの内側へ固くなった己のものを押しつけてきた。濡れた手が俺のものから離れ後ろへと滑り、その周囲をゆるゆると撫でる。男達の手で解されていたそこは、その指を飲み込もうとひくりと震えてしまう。

「霧生、止めろ……もう、っん!」
「……熱い、な……」

制止も聞かず指を挿し込んだ霧生は、ぼんやりとした口調でそんなことを呟いた。そのまま指の抜き挿しをしながら、ゆっくりと指の本数を増やしていく。長い指が中を擦り上げるたび、俺の口からは小さい喘ぎが漏れていく。男達の乱暴な愛撫の後だからだろうか、慣れないながらも慎重な愛撫は妙な具合に俺を興奮させていた。中の指を何度も締めつけながら、その内俺は制止の言葉すら紡げなくなっていた。

「う、ぁ……あっ……!」
「JJ……そろそろ、いいか……?」
「あっ、な、にが……ん、あ……っ」
「っ……」

我慢できないといった様子で今度は俺の身体をうつ伏せに転がすと、後ろに回った霧生は自分の前をくつろげ、熱い昂ぶりをあてがった。先程の男達の行為が一瞬頭によぎり思わず腰を引くが、奴は俺の身体を抱え込みそのままゆっくりとその昂ぶりを埋め込んでいく。

「く、ぁ……き、りゅう……っあ……」
「は、あ……っ」

切なげな声を上げながら全てを埋め込んだ霧生は、俺の背中へと熱い息を吐いた。そのくすぐったさに俺はぞくりと身体を震わせ霧生のものを締め付けてしまう。それに、霧生は苦しそうな声を漏らした。

「お、い……あまり、締め付けるな」
「っ、知るか、さっさと、抜け……あっ」

ずっ、と中のものが動き出した。ゆるゆるとした動きで始められた抽挿と、背中にかかる霧生の吐息は想像以上に俺を煽る。床に爪を立てながら、俺は中を擦られるたびにせり上がるもどかしい感覚に耐えていた。しばらくすると、中が霧生のものに馴染んだのか、動きがスムーズになる。抽挿が少しずつ荒く、激しくなっていく。調子に乗りすぎだと文句をつけるため口を開いた途端、霧生のものが中の弱い部分を擦り上げる。

「――っあぁ!」
「っ……J、J……その、声、を……もっと……!」
「やめ、あっ、霧生……!」

霧生の揺さぶりが一層激しさを増す。見つけ出された場所を集中的に突かれ、俺は奴の望むままに喘ぐことしか出来なくなっていってしまう。俺の声に、霧生はますます興奮した様子で荒い息を吐いた。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が地下の部屋に響く、その音は俺の鼓膜を揺らし、熱くなった身体はそれすら興奮の材料にしてしまう。
すっかり張り詰めたものを霧生の手が握り込み、性急な動作で擦り上げる。膝が崩れそうな快感が襲い、俺は中のものをきつく締めつけながらそのままびくびくと熱を吐き出す。

「ん、あぁ……っ!」
「はぁ……っ……く、う……!」

霧生も限界が近いのか、抽挿を深くする。程なくして、俺の中に霧生の熱が注がれた。きつく俺を抱えながら、霧生は快感に震える身体と呼吸をゆっくりと落ちつけていく。そうしてようやく俺の中から霧生のものが抜けていき、同時に吐き出されたものが零れ内股を伝っていく。嫌でも、自分が霧生に犯されたのだとわからせるように。
しかし文句を言う気力もなく、俺は力の抜けきった身体をまた床に倒れ込ませた。ひんやりとした床の温度が、火照った身体を冷ましていく。

「……JJ……その、だな……」
「……何だ……」
「わ……悪かっ……」

謝罪の言葉でも告げようとしたのか、しかしそれは多分本人の中でも消化しきれない気持ちのせいか、最後までは言葉にならなかった。俺自身、どうして霧生とこんなことになったのかわからない。俺たちは互いに良い感情を持っていなかったはずだ、霧生は俺を疎ましく思い、俺もあの私刑以来霧生に対しての不満を募らせていた。
だとすれば、この状況は何だ。

「……もういい、犬に噛まれたとでも思っておく……とりあえず、腕を解いてくれ」
「あ、あぁ……」

俺は男どもに嬲られていたせいで中途半端に昂ぶらされていた、霧生は目撃した異常な状況で俺の痴態を見て、妙に興奮してしまっただけだ。互いにそれをぶつける相手が目の前に居たというだけで、それ以外の感情などなかった。そう思わなければやってられない。
霧生は俺の腕を縛りつけていたものを解くと、散らばっている服を集め傍に置き、背中を向ける。短く切り揃えられた髪から覗く耳は未だに赤い、それも、こいつがこういった行為や状況に慣れていないというだけだろう。

「あ、あいつらには俺の方から然るべき処罰を与えておく……っ、失礼する!」

カンカンと、けたたましい音を鳴らしながら霧生は階段を駆け上がっていった。俺は動くのも億劫なほどに疲弊した身体をどうにか起こし、服を着込む。どこもかしこもベタベタになっている肌に服が触れるのは酷く不快だったが、拭うものがないので仕方ない。
ゆっくりと立ち上がろうとする直前、床に目をやる。そこは男達に嬲られていたときに吐き出した唾や白濁、それと今の行為の跡が色濃く残っている。この地下はめったに使われていないようだが、それでもこのままにしておくわけにはいかない。
何が悲しくて、自分が犯された後の始末を自分でつけないといけないんだと、深くため息を吐いてから俺は立ち上がり階段を上がっていく。どこかで掃除用具を調達して、またここに来なくてはいけないと思うとうんざりした。

霧生もその辺りにもう少しくらい気を遣っても良いだろうと、今は居ない男に心の中で悪態を吐いた。














つづくかも