tastingはご自由に

「売り上げが落ちてる」

一度駆り出されてからというもの、魚住に「これも社会経験だよ」と言われ事あるごとにホストとして仕事をさせられてるが、なかなか慣れるものではない。わかっていたことだがどうも俺には愛想が足りて無いようで、回数を重ねた程度でそれは鍛えられるものではなかったようだ。
そのため、店が閉まった後も魚住に今日はここが駄目だった、この対応の仕方はありえない、とその日の駄目出しをされることも多く……今日も、そうした説教が始まるものかと思っていたのだが。

「そうか……大変だな」
「何他人事みたいに言ってるの、売り上げが落ちて宇賀神さんから怒られるの俺だけじゃないんだからね」
「は……?」
「今月、JJも結構な回数出勤してたでしょ、それで売り上げが落ちてるってことは……アンタの責任、って判断されるかもよ?」

やれやれ、と髪を掻き上げた魚住は俺の座るソファーの横へと腰掛けた。客の前では決して見せないようなだるそうな態度で背もたれに身を預けネクタイを緩めている魚住の顔には、隠しきれない疲労の色が浮かぶ。態度こそ軽く飄々としているが、店長として店を取り仕切ったり……俺のような奴を指導するのは楽ではないだろう。
あまり感謝のしたい連中ではないとはいえそれなりに世話になっている分、こうして疲れた表情を見てしまうと何か出来る事は無いかとうっかり口にしてしまいそうになる、しかしそれを言えば今度は何をやらされるかわかったものではない。例えばまた鰐淵の相手をさせられるのは、流石に勘弁したいところだ。次は魚住のフォローがあっても止められる気がしない。

「その……俺のせいなのか?」
「んー……いや、単に上客が少なかったってだけ。新規で大きい金額落としてくれる客もあんまいなかったしなー……まだ10日位はあるし、残りで巻き返せれば問題無いんだけど」

眉を寄せたまま目を瞑り何事か思案してる魚住に、俺はせめて邪魔をしないようにとじっと言葉を待った。短い時間の後、瞼を開いた魚住はゆっくり俺へ視線を向けると、何かを見定めるような瞳で俺を見つめてくる。
嫌な予感に身を離そうとすれば、優しくだが有無を言わせないように太股を掴まれ動きを阻まれてしまった。

「な、何だ」
「JJがもう少し客を取れれば、違うかな……でもすぐ気に入られるようなタイプじゃないし、性格を変えるのは難しい……なら……」
「おい、魚住……?」
「妙な魅力はあるんだよね……ていうか、色気?時々ドキッとする艶っぽさを見せるよねアンタ」
「んっ……な、妙な触り方をするな……!」
「ほら。そういう方向もありかな……でもそれならもっと誘い方を覚えてもらわないと」

魚住はそう言って身体を離すと、携帯で誰かをここへ来いと呼びつける。いや誰かというか、口調的に王だろうと予想はつくのだが。
帰りたい、というか、魚住の中では一体どういうプランが練られているのか不安で仕方がない。王まで呼び出して今からここで何が始まるというのだろう、出来ればその全てを王へ押し付け逃げてしまいたいところだ。あいつなら魚住の無茶なフリにも慣れているだろうし、と思った所で店の扉が少し乱暴に開かれる。

「王、早かったね」
「たまたま近くの警備をしてな……で、突然呼び出した理由は何だ」
「そうだなぁ……とりあえず、JJを拘束して」

は?と俺と王の声がぴったりと重なった。「いいから、ほら」と魚住が王をせっつくと、奴はわけがわからないという顔をしつつも俺へ向かって歩いてくる。焦り立ち上がろうとしたところで王は動きを素早くし、あっという間に俺の後ろに立つと腕を背中で拘束してきた。身を捩り足掻いてみるが王も戦いのプロだ、これは油断を見せた俺の負けなのだろう。
ドラゴンヘッドで気の緩みなど見せないつもりでいたが、知らずこいつらの前ではそうなってしまっていたようだ。

「じゃあ、王はそのままソファー座って。あ、手は頭上で縛っちゃっていいよ」
「お、おい魚住、一体何を始める気だ?」
「JJの売り方を変えようと思って。こういう愛想のないタイプが、実は客を誘う淫乱とかウケよさそうじゃない?」

こいつは何を言い出すんだ、と呆れた様子の王は、それでも俺の拘束を解こうとはせず言われた通り己のネクタイを解きそれで腕を頭上に固定し縛り付けた。魚住の口から何でもない事のように告げられた言葉に、俺はますます不安を募らせていく。
ソファーへと仰向けに寝かされた俺の上へ魚住が覆いかぶさった、そのまま慣れた手つきでネクタイを解くと次にワイシャツのボタンを外し始める。

「へぇ、意外に綺麗な身体してるね。脱ぐと細身だし……」
「おい、いい加減に……っ」
「アンタ、宇賀神さんに役立たずって判断されたいの?あの人のいびりはキツイよー?……って、JJも知ってるんだっけ」

からかうように笑いかけてきた魚住は俺の話を聞く様子を少しも見せないまま、ワイシャツの前を全て肌蹴させるとつい、とその細い指で俺の鎖骨をなぞった。くすぐったさに漏れた声に対して「いいね、その抑えたような声」とどうしてか満足そうに感想を告げてきた魚住に、せめてこの行為の理由を教えてくれと問う。逃げる事がほぼ不可能だとして、わけもわからないまま続けられるよりはその理由を明確にされた方がまだマシだ。

「客を誘って金を落としてもらうんなら、流されちゃ困るんだよ。だから、アンタがどの程度快楽に弱いのか確かめようと思って」
「お前……物言いが露骨すぎないか?」
「王は黙ってて。快楽に流されるタイプなら、また方向性を考え直さないと。まぁJJはここの正式な従業員って訳じゃないけど、困った時は助け合うのが家族でしょ」
「っ、なら、この役は王でもいいだろう……!」

何を言い出すんだ!と上から怒鳴り声が降ってくる、しかし家族だから助け合うなどと言うのならば俺でなくてもいいはずだ。王もホストを経験したのだから、要素は満たしているだろう。
俺の発言に魚住は考える様子を見せてから、「そうだなぁ」と言って身を起こした。そしてソファーから降りテーブルへ軽く腰掛けると、王へと視線を向ける。

「じゃあ、王がJJを抱いてみてよ」

は?と、また俺と王の声がぴたりと重なった。流石に意表をつかれた様子の王は、魚住へ訝しげな視線を返す。魚住が何をさせたいのかいよいよわからなくなってきた、しかし当の本人は楽しげに口角を歪め俺たちを眺めている。

「よく考えたらその方がJJの様子をじっくり見れていいしね、ほらー王早く」
「……1度だけだからな」
「なっ!王!お前まで何を……」
「こいつがこういう事を言い出すと、もう止めさせるのは無理だ。悪いが諦めてくれ」
「諦められるわけ、っ、おい……!」

王は一度ネクタイを解くと俺の身体をソファーへとうつ伏せに転がす、腕が自由になった隙に逃げれないかと王に肘をくらわそうとするが、まともに動けない状況でのそれが当たるわけもなく、そのまま今度は後ろ手に腕を縛られてしまう。
背中に圧し掛かった王は、そのまま俺の胸へと掌を這わせた。少しかさついた無骨な手が肌の上を撫で回していく、くすぐったいばかりのこの動きからどう快楽を拾えというのだろうか。

「王―ちゃんとやってよ、JJ全然気持ち良さそうじゃ無いじゃん」
「そう言われてもな……」

これは一体どんな状況なんだ、王も俺もその気ではないというのに行為を強要され、強要した本人は高みの見物。こうなってしまったのならとっとと終わらせて欲しいのだが、王の手際ではそうもいかなそうだ。いっそ魚住が飽きてくれれば話は早い、ちらりと魚住に視線を向ければひとつ溜息を吐いてから、胸ポケットから何か錠剤のようなものを取り出す。

「王、口開けて」
「は?……何を飲ます気、っぐ」
「その気になる薬。ほら飲み込んで」

王の口にその薬とやらを放りこむと掌で口を塞いでしまう。その一連の動作全てにやる気が無さそうで、そのくせ有無を言わせない感じはここの誰よりこういった空気に慣れているからか。
水も無く無理矢理薬を飲み込まされた王はしばらく咳き込みながら魚住を睨みつけていたが、ふ、と何かに気付いたように自分の喉を撫でると「そういうことか」とため息交じりに呟いた。

「……?っ、あ……!?」

また王の手が肌に触れてくる、が、今度はその触り方が違った。先程より熱を持った指先が何かを探るように這い回る、突起を掠めそこを摘み捏ねるよう刺激されれば喉の奥から勝手に声が漏れた。

「即効性だし、よく効くでしょ?今日客に貰ったんだけど、使い所なくて困ってたしちょうどよかったよ」
「お前……俺で試しただろう」
「だって誕生日プレゼントにって貰っちゃってさ、センスはともかく捨てるわけにもいかないし。有効利用じゃん」

魚住は今日誕生日なのか、と、妙にのんきな方向に思考が働いた。どうやらもう俺も諦めているようだ、魚住の言うように快楽に弱い様を見せなければもうこんな事態にならないのだろうし……なるようになれと思う。俺の様子に気付いたのか、魚住は「JJのそういう諦めの良さ、いいよね」と満足そうに笑った。

「ん……あ、ぅ……」
「……下、脱がすぞ」
「っ……いちいち言うな」

首の後ろへ妙に熱っぽい吐息をかけながら、王は俺のベルトへ手をかけると金属音を鳴らしながらそれを外し、スラックスと下着をずり下ろす。外気に触れ僅かに反応を見せている俺のものを王の手が包み、そのままゆるゆると擦り上げた。そのダイレクトな感覚に無意識に腰が引けてしまう、と、腰辺りに何か固いものが当たる。

「……王……その……」
「言うな、わかってる……薬のせいだ」
「そ、そうか……大変だな」
「……どちらかというと、お前が大変だと思うがな……これから」

バレてしまったからか、王は自らの昂ぶりをぐいと押しつけてきた。いや、確かにこれからそれを受け入れるのは俺なのだが……同じ男として、今の状況が相当辛いだろう事はわかる。王は俺のものを擦る手の動きはそのままに、逆の手で後ろを探り始めた。その指は自分の唾液ででも濡らしたのか、ぬるりと滑るようにして後孔へと入り込んでくる。

「んっ、く……っ」
「力を抜かないと、辛いぞ」
「は、ぁ……っ、わかってるん、だが……」

数回抜き差しをした後、指の数が増えた。そうして更に奥へと入り込んできた指はゆっくりとそこを拡げるように動き、その感覚に身体の奥からはむずむずとした疼きが湧き上がってくる。快楽を知っている分身体は従順にそれを受け入れていってしまい、3本に増えた指がスムーズに動くようになった頃、王はそこから指を抜いた。
一度離れた王の身体が、また改めて覆い被さってくる。同時に、解された後孔には焼けそうな程の熱の塊が触れた。

「痛かったら言え、その……加減が出来ないかもしれない」
「っ……いい、もう……好きにしろ」

言わない、けして口を滑らせたりはしないが……俺も限界だった。王の余裕の無さにあてられたか触れられるほどに熱が高まり、欲は吐き出し口を求めて身体の内で暴れ回る。視線を背後の王へ向けると、赤く染まった目元と熱っぽく潤んだ瞳が見えた。
何かを言おうと口を開いた途端、王の手が俺の肩を強く掴み昂ぶりをゆっくりと埋め込んでくる。

「あ……っ、く、う……!」
「っ、は……これは……くる、な」
「な……あっ!待、て、王……っ、あぁ……!」

じっくりと埋められていく感覚につい中を締め付けてしまうと、王は低く声を漏らし突然動きを激しくしてくる。口調につい油断してしまっていたが、王は薬を飲まされ余裕を無くしていたのだ。何度も何度も深く抉られソファーへ顔を擦りつけながらその衝撃に耐える俺の頬を、細い指先が撫でる。苦しさに閉じていた瞼を開き、俺に触れた男、魚住を見上げた。

「すっかり俺の事忘れてくれちゃってさー……何2人の世界作ってんの」
「あ、っう……!お前が、やらせたん、だろ……んっ!」
「まぁね。でももう充分見れたし、俺も混ぜてもらおうと思って」

何を言い出すのかと思えば、と呆れていると、魚住は俺の顎を掴み無理矢理視線を合わせてくる。にやにやと意地の悪そうな表情に今度は何をされるのか快楽に溶けかけた頭で思考するが、それより早く口の中へ何かを無理矢理ねじ込まれた。
それが魚住のものだと気付きどうにか口腔から追い出そうとするが、両手を拘束され後ろを王のもので埋められてるこの状況ではせいぜい首を動かす事しか出来ない。しかしそれすら、魚住の両手で塞がれてしまう。

「サービスしてよ?ほら、俺今日誕生日だし」
「ん、う……っ!」
「ちゃんと舌使って。したことない訳じゃないんでしょ?」

こんな状態で上手くやれとはこの男も無茶を言う、もう勝手にしろと口腔に含ませたそれに舌を這わせていくと、「そうそう、上手いじゃん」と魚住は俺の髪をくしゃりと撫でた。きちんと言う事を聞いたペットを褒めるくらいの感覚なのだろうか。
そのまま魚住は上機嫌に俺の口腔を犯し、王は更に動きを激しくしていく。

「んんっ……!む、ぐっ!」
「JJ……っ」

前を強く擦られ、快楽に身体が跳ねる。高まっていた快感はそのまま限界を迎え、勢いよく白濁を撒き散らしてしまった。同時に中のものを強く締め付けてしまい王が俺の肩をぎり、と強く掴んだ。そしてギリギリまで抜いたもので深く貫いてくると、そのまま中へ熱を注ぎ込む。

「は、ぁ……っ」
「ん、王終わったの?なら、次俺ね」
「んぅ……は……?」

咥えていたものを口から抜かれ、まだ定まりきって無い意識のままぽかんと魚住を見上げる。するといきなり身体を起こされ、縛られていた腕を解かれるとそのまま胸を押され王の方へと倒された。流石に驚いた様子で俺を受け止めた王は、魚住へ「おい、そろそろ止めてやれ」と少し慌てたように告げた。しかしその甲斐無く、また後孔へと熱が侵入してくる。

「あ……っ、も……!」
「ん……だって、JJ見てたら俺も興奮してきちゃった。そもそもがっついてた王が言えた義理じゃないだろ?」
「あれは薬で……というか、お前がやれと言ったんだろう!」
「うるさいなぁ……まだ足りないなら、口でしてもらったらいいじゃん」
「何を、勝手に……っあ……魚、住……まだ、動くな……っ」

そんなやりとりの間に全てを埋め込んだ魚住は、そのまま容赦のない動きで抽挿を始める。達したばかりで敏感になっている身体へたて続けに与えられる刺激は耐え難いものがあり、俺はただそれに耐えるため王のスーツへとしがみついた。

「っ……お、おい……大丈夫か……?」
「あ、う……っ!早、く……終わらせて、くれ……あ、あっ!」
「やっぱ反応そそるよね、アンタ……それにその簡単に落ちない感じ、悪くないなぁ」

内の熱はまた高まっていく、魚住は俺の中の感じる場所を的確に見つけ出し、そこばかりを何度も強く擦り上げた。その度に大げさに跳ねる身体をつい王へと擦り寄せれば、王は俺の唇へと指を触れさせてくる。快楽に浮かんだ涙で滲んだ視界の向こうで、奴は諦めたように溜息を零した。

「んっ……!う、ぐ……っ」
「確かに……こいつは、中々性質が悪いな」
「だろ?全部無意識とか、性質悪すぎ……っ」

頭をぐいと押され今度は王のものをむりやり咥え込まされる。魚住は、そんな中でも反応しトロトロと先走りを漏らしていた俺のものを包むと、それを塗りつけるようにして上下に手を動かした。快楽を受ける度に身体に力が入り中を締め付けてしまうのだが、背中に落とされる吐息は快楽が混じったように濡れている。

「しばらくは俺たちだけで楽しむってのも悪くない、かな……宇賀神さんには怒られるだろうけど」
「……目的が変わってないか?」
「何、不満?」
「……いや」

会話の半分も頭に入ってこない、理性は快楽に塗りつぶされていき、全身は酷く煽られ翻弄されていく。ただきっと、終わりはまだ随分遠いのだろうという事だけはわかった。与えられる快楽と求められる快楽に必死で応えながら、せめてそれに流されないようにと細い糸のような理性に縋る。
しかしそれがあっけなく切れてしまうような予感も、消えずに残り続けた。









おわり