願いが叶いますように

「あっれー?JJってこんなにちっちゃくて可愛かったっけー?」

壁際に追い詰めた俺の顎に手を添えながらそう楽しげに言う男は、見覚えがあるようで無い。本人曰く癖毛だという特徴的な髪型と服装は俺の知るそいつのものだが、体格がまったく違う。不思議と、どうしてこんな状況に追い詰められているのかは少しも覚えていなかった。まるで、今夢から覚めたばかりのように。
俺より少し高い位置から見下ろすようにしている男を見つめながら、確認のため口を開く。

「梓……?」
「何だよJJ、そんな驚いたような顔して」

やはり、目の前に立つこの男は俺の知る梓と同一人物らしい……信じられない事に。成長期はとっくに過ぎているはずの、いやそもそも成長期だとしても一晩で俺を追い越すほどに身長が伸び体格が良くなるとは思えない。状況を飲み込めず固まったままの俺を、梓はにやにやと眺めている。

「もしかして、俺に」

だらりと垂らしたままだった手をとられ壁に押さえ付けられた、意外にもその力は強く振りほどこうとしても梓の腕はびくともしない。これも、俺の知る梓とは違う部分だ。生意気な口をきくあいつを押さえ付けた事はあっても、こんな風に力負けした事は一度もない。

「こんなことされるって、思わなかったのか?」
「……梓、離せ」
「嫌だ。……JJは俺がそう言って、離してくれたことなんてなかったじゃんか」

何を思い出しているのか少し頬を赤く染めながらムッとした顔でそう言った梓は、次の瞬間良い事を思い付いたとでもいうように表情を明るくした。コロコロと感情が移り変わる辺りはこいつらしい、主導権を握っているからかやたら威圧的だったが、どうやら根本の性格は変わっていないらしい。まだどこかで別人が成り済ましているのではないかと考えていたが、それはなさそうだ。しかしそうなると、ますますこの状況の意味がわからない。

「そういえば、JJには随分滅茶苦茶にされたよなぁ」
「……おい、何を考えてる」
「あの時俺がどんな気持ちだったか……JJにも味あわせてやるよ」

唐突に二の腕を掴まれ身体を強くひっぱられる。そのまま傍のベッドの上へと突き飛ばされ、スプリングが悲鳴のような音を鳴らした。それに気をとられていた隙をついて上へと覆い被さってきた梓は、俺の両腕を頭上で押さえ付け布で縛るとベッドサイドへ繋いだ。

「っ……」
「良い眺め……これで、JJはもう逃げられない」

梓の瞳に浮かぶのは、強者の持つ支配者の色だ。俺を組み敷いて、その状況に興奮しているのか目許が赤く染まっている。腕を解こうと身体を捩り足掻いてみてもベッドを軋ませるだけで大した効果はない。そうしているうちに梓は性急に俺の服を剥ぎ取り、何の反応も見せていないものを握り込んでくる。

「梓……っ、いい加減に……」
「……うるさいなぁ、少し黙ってろよ」

そのまま手を動かし始めるが慣れていないでぎこちなく、くすぐったいばかりでそこに快楽を見出だせなかった。不満そうに眉を寄せた梓は、口をもごもごと動かしてから触れているものに顔を寄せ、溜めていたらしい唾液を垂らしてくる。

「お前、何を……っ」
「……何だよ、JJだってこっちの方が気持ちいいくせに。ほら、固くなってきた」
「っ……梓……!」

きつく睨み付けてやっても梓は態度を崩さない、どころか感心したかのような表情で俺を眺めた。粘つく音を響かせ俺のものを擦りながら、ずいっと顔を近付けてくる。

「へぇ……JJに睨まれるのちょっと怖かったけど、この状況なら全然怖くないや」
「っ、く……!」

滑りの良くなった手で何度も強く擦り上げてくる梓、乱暴で痛いくらいの愛撫に、それでもぬるりとした感覚はゆっくりと身体を昂ぶらせていく。自分で行うのと違う動きは喉の奥からあられもない声を押し出そうとする、息を吐く事でどうにか誤魔化そうとするが、その吐息に湿ったような声が漏れる。

「ん……っ、く、は……」
「……JJ、感じてるのか?」

見てわかれ、というのが正直なところだ。梓の触れるそこはすっかり昂ぶり、先程塗りつけられた唾液に先走りを混ぜていく。このまま続けられれば梓の手によって射精することになるのだろう、抵抗も出来ずよりによって自らが抱いていた相手にそうされることは屈辱だったが、それよりさっさと梓が満足してこの状況から解放して欲しいという気持ちが強かった。必死に声を堪えながら与えられる快楽に震えていると、汗ばむ肌に梓の手が触れてくる。

「震えてる……何か、やばい、俺……」
「あず、さ……っ?」
「本気で、JJが可愛く見えてきた……俺の手で気持ち良くなってるJJ見るの……すげー楽しい」
「――っあ……っ!」

昂ぶりを握る手の力を少し弱め、梓は顔を俺の胸へと寄せてきた。突起に唇で触れると、舌を押し付けるようにしてねぶってくる。瞬間ぴり、と電流のような快楽が身体に走り思わず声を上げてしまう。「何だよその声……JJもそんな声、出すんだな」と嬉しそうに微笑みながら言った梓は、気を良くした様子で胸と昂ぶりへの刺激を続けた。舌で転がされ、吸われ、昂ぶりの先をぐりと擦られると身体が小さく跳ねる、俺の反応を見ながら、梓の愛撫は徐々に慣れた手つきへと変わっていく。

「は、ぁ……っ、梓、離、せ……っん……!」
「声、我慢するなって……ってか、もうイきそうなんだろJJ、ここ、びくびくしてる」
「馬鹿……っ、よせ、もう……っんん!」

頭が痺れ、意識が遠くなる。腰の奥からせり上がってくるものを止める術もなく、俺は自分の腹へと白濁を撒き散らした。せめて声を漏らすまいと必死で歯を食いしばったが、それでも堪え切れなかった喘ぎはきっと梓の耳に届いているだろう。荒い呼吸を繰り返しながら梓を見れば、奴は昂ぶりに触れていた手を離し今さっき俺が腹に吐き出したものを指でなぞってきた。敏感になっている身体は、そのくすぐったさにすらびくりと反応を返す。

「うわ……何か、JJすっげえエロい」
「……お前は、俺をどうしたいんだ」
「いや、酷くしてやろうと思ったんだけど……いいや、止めた」

指に白濁を絡めるようにしてから俺の脚を抱え、それを後ろへと滑らせてくる。半ばわかっていたとはいえ、そこまでする気かと梓を睨む。しかし、何故か楽しそうに笑っているこいつを睨んだところでその効果は薄そうだ。最後まで付き合ってやるしかないのかと溜息を吐いた途端、後孔をくるくるとなぞっていた指が中へ入り込んできた。
骨ばった長い指、自分の中を埋めていくそれに久しく忘れていた抱かれる側の感覚を思い出し、ついその指をきつく締め付けてしまう。

「っ……おいJJ、力抜かないと動かせないだろ」
「知る、か……っ!」
「ったく、そういうとこは可愛くないまんまだよな」

そう言って梓は姿勢を低くすると、俺のものをその口に咥える。生温かくぬるりとした口腔に迎えられ、自然と腰が浮いてしまった。この体勢だと梓の表情は髪で隠れて全く見えなくなってしまうのだが、それでも先程からのこいつの反応を思い出せば、きっとその口元は笑っているだろうと容易に想像出来た。

「ん……ふ……っ」

唇で挟まれ上下されるとそこはすぐに張りつめ昂ぶっていく、それで意識が散ったためか指への締め付けが緩み、梓は侵入させた指をくにくにと動かしながら探るようにしてそこを解していく。その内指が2本になり、増やされた3本目もスムーズに動くようになった頃、届きそうで届かない奥が疼き始める。1度覚えてしまった感覚はこびりついて離れる事はないのかもしれない、雄に貫かれたいと願う気持ちが湧き出て止まらなくなっていく。
梓が俺のものから口を離すと同時にずるりと内を埋めていた指が抜かれ、ついその顔を見つめてしまう。その視線を受けた梓は熱っぽく俺を見つめると、ごくりと唾を飲んだ。

「JJ……俺が、欲しいのか?」
「あず、さ……っ」
「――っ、JJ……!」

梓はベルトを外し前をくつろげると、すっかり昂ぶったそれを俺の後孔へとあてがう。ぐっと先が押し入ってくる圧迫感、しかし充分慣らされたためか痛みはなかった。苦しそうに眼を閉じた梓は、それでもゆっくりと自身を侵入させてくる。中が埋められていくことにすら快楽を見出し呼吸に喘ぎが混ざっていく、きっともう、声を堪える事は出来ないだろう。

「ん……っ、全部、入った……は、JJの中、熱い、けど……気持ちいい」
「ん、ん……っ」
「っ!お、いJJ、締め付けるなって……っ、ちょっと、待って」

俺の頭上へと手を伸ばしそこの拘束を解いていく梓、もう俺が抵抗しないと思ってのことだろうか。そしてその通りに、自由になった俺の両腕が真っ先にした事は、梓の背に手を回ししがみつく事だった。

「ん……なんかこの方が、JJを抱いてるって気がしていいな」
「さっきから、思ってたんだが……お前は言葉責めの趣味でもあるのか」
「は?ないよそんなの……JJじゃあるまいし……」

俺だってそんな趣味はないと反論するより早く、梓が埋めたものを動かし始める。熱く固いものが中を擦り上げる度俺はどんどんまともな言葉を紡げなくなっていき、ひたすら梓の背中にしがみつきあられもない声を上げ続けた。
互いに昇り詰めていきながら、姿が多少違うとはいえ自分が抱く側だった相手に抱かれるというのは妙な感覚だと、途切れ途切れな理性が思う。あっさりと流される自分もどうかと思うが、梓の表情ひとつで絆されてしまう位に、俺はこいつを、

「あぁっ……!あ、梓……!」
「J、J……!一緒に……っ!」

意識が白む、白濁を吐き出すと同時に腹の中に熱が流れ込んできた。不思議とそのままその熱に包まれていき、意識は更に遠くなっていく。




ふ、と目を覚まし、一瞬意識が混乱する。目を覚ましたという事は今までの事は夢だったのか、俺を追い越すほどに成長した梓、壁際に追い詰められる前の記憶がなかったのもそこから夢が始まったのだと考えれば納得がいく。自分の意識はあったように感じていたが、それでもあの異常な状況を夢だと結び付けられなかった辺りそれははっきりとしたものではなかったのだろう。
久しぶりにまともなベッドで寝たからか自分には珍しく熟睡していたらしい、まだ少し寝ぼけているような頭を起こすため水でも飲もうと、立ち上がりリビングへと向かう。冷蔵庫の前には、見慣れたひとつの影。

「梓……?」
「――っ!え、あ……おは、よう……JJ……」

呼びかけた声に過剰な反応を見せた梓は、何故か俺を見て顔を真っ赤に染めた。そしてそれを振り切るようにか手に持っている……牛乳を一気飲みし、はぁはぁと息を荒げた。朝からこいつは何を一人バタバタしているんだと思いつつ、俺も冷蔵庫から水を取り出す。

「おはよう……お前が牛乳を飲んでるなんて珍しいな」
「あ、あぁ……その……まだ、間に合うかなって……身長」
「は……?」
「背が伸びて、JJよりでかくなったら……あ、駄目だ、初夢って人に言ったら叶わなくなるんだっけ……」
「お、おい梓……?」
「待ってろよJJ!1年……は無理でも、数年以内には、正夢にしてやるからな!」

そう言って「牛乳なくなったから買ってくる!」と言い残し玄関を飛び出した梓を、俺は呆然と見送ることしか出来なかった。






おわり!