迷惑なMay sickness

その恐ろしい病がキングシーザーの屋敷内で蔓延していた事にまず気付いたのは、病の名前すら知らなかった俺だった。

「あー……だるいなぁ……」
「仕事なんてやってらんねえな……寝てぇ……」

いつもは無駄なくらいにやる気で溢れている幹部二人の口から決して下の連中に聞かせてはいけない類の台詞が飛び出し、しかし何より俺が驚いたのは、常ならばそれを誰よりも先に叱咤するであろう男が、壁にもたれたまま俯いていた事だ。
そしてこの時奴、霧生に問いかけた言葉は、後々になって思えばあながち的外れでもなかったのだが。

「おい霧生、具合でも……もしかして、病気か?」
「……あぁ……いや、少し……やる気がな……」
「は?」
「……疲れた……悪いが、先に休ませてもらう……」
「俺も、先に部屋に戻るぜ。悪ぃな」
「JJーボスへの報告は任せたよー」
「は……は?」

屋敷の廊下をバラバラに歩いていく三人の後ろ姿は、どいつこいつももよろよろふらふらと頼りない。あれで部屋まで辿り着けるのだろうかと心配になるが、奴らに託されたようにボス……瑠夏への報告が先だろう。
パオロに石松、霧生があんな態度に出た理由はわからないが、まぁそんな気分になる時もあるのかもしれない。そう自分を納得させながら瑠夏の部屋の扉をノックし足を踏み入れ、そこの主がソファーにだらしなく横たわっている姿を見た瞬間、先程の三人の姿が重なる。

「瑠夏……?アンタ、どうかしたのか」
「JJ……いや、少し、休んでるだけだよ……はぁ」

少し休んでいるだけとは言っているが、それにしては随分と具合が良くなさそうだ。傍に膝をつき額に手を置くが、いつも高い瑠夏の体温と自分の手では、今でなくとも俺の方が低いので熱があるかどうかもよくわからない。
されるがままの瑠夏は、目を閉じたまま眠りたそうにしている。仕事の報告をしなくてはいけないのだが、特別急を要するものでもなかったはずだ。休ませてやってからでも問題は無いだろう。

「また明日の朝にでも報告に来る、だから休んだ方がいいんじゃないか」
「……ん……そうさせてもらおう、かな……悪いね、折角来てもらったのに」
「気にするな、最近忙しかったから疲れが出たんだろう。ゆっくり休んでくれ」

そのままにしていた手を額から離し、そのままソファーで眠ろうとする瑠夏をどうにかベッドまで連れていく。少しだけ、何かあるのではないかと思ったが、おとなしく毛布をかぶった瑠夏はすぐに穏やかな寝息を立て始めた。自分の思考に溜息を吐いてから、部屋を出るため扉へと歩いていく。
今日は、自分のベッドで眠るのか。瑠夏が居る屋敷で別々に眠るのは妙な気持ちだったがよく考えればそれは当たり前のことで、一度だけ瑠夏の寝室を振り返るとドアノブを捻り、蘭の香りに満ちた部屋を出ていった。





最初の内は、一日二日でも休めば元通りになるだろうと思っていた、が、それが甘い考えだとわかったのは三日目、世間的にはGWという連休に入った日の事だ。

「お前ら……いい加減にしろよ」

テーブルに突っ伏している三人へ、俺はいい加減苛々としながら告げる。この三日、仕事が落ち着いていたのをいい事にこいつらは雑用を俺に押し付け、こうして何をするでもなくだらだらと過ごしていた。
と言ってもこの三人だけの話ではなく、屋敷内の人間はほとんどが部屋に籠っていたり、姿を見かけても背中を丸めだるそうに歩いている様子で、この屋敷全体にいつもの覇気が感じられない。
平気そうにしているのは、俺くらいなものだろうか。

「だってぇー……動くのも面倒くさいよ」
「おめぇは元気だな、JJ……あーだりぃ……」
「はぁ……悪いが、俺は部屋に戻る……」
「おい、待て」

席を立とうとする霧生の腕を掴むとうんざりとした視線を向けられるが、うんざりしているのはこっちだ。何度懐の銃を抜きたくなる衝動を抑えたと思っている、こいつらが今日も生きていられるのは、ひとえに俺がなけなしの忍耐を身に着けていたからにすぎないというのに。
今も、そのうっとうしそうな視線を向けられた瞬間つい逆の手を軽く懐に差し入れてしまって、小さく息を吐いてから誰にも見咎められないようその手を下ろす。
しかし脅し程度に撃つくらいしなければ、この三人は動こうとしないのではないだろうか。

「……何だ」
「俺が言えた義理じゃないが、もう少ししゃっきりしたらどうだ」
「……わかった、気をつける……もういいか」

頭がじわりと痺れる感覚、それが怒りだと気付いた時には、霧生を目の前のテーブルに引き倒していた。流石に奴も驚いた様子で抵抗してきて、二人でテーブルの上を転がると近くに座っていた石松にぶつかってしまう。

「ってえ!何しやがんだ!」
「わっ、ちょっと暴れないでよ。JJ、霧生くんも!」
「こいつがいきなり殴りかかってきたんだ!」
「殴ろうとはしていない、軽く撃ってやろうと思っただけだ」
「尚悪い!お前はその何でも銃で解決しようとする癖をどうにかしろ!」
「何でも拳で解決しようとするお前に言われたくないな」

パオロと石松が俺と霧生を引き離し、互いの手が届かない位置まで距離を取らせた。「JJは銃をしまって!」とパオロに言われ、しぶしぶ銃をホルスターへ戻す。とりあえず落ち着けと再び椅子へ座らさせられ、それぞれが席に着いた途端、パオロが大きく伸びをした。

「あー……何か、おかげでちょっと気力が戻ってきたよ」
「は……?」
「確かにな。さーて、仕事すっか」
「おい」
「……感謝はしないぞ」
「あっさりすぎるだろう……!何だったんだ、ここ数日の様子は……」

それぞれに立ち上がった三人に、今度は俺がぐったりとしながら問い掛ける。奴らは顔を見合わせ、少ししてパオロだけがにっこりと俺へ向かって微笑んだ。
そういえば、この笑顔を見るのも数日ぶりかもしれない。

「五月病」
「ごが……は?」
「色んな事がめんどくさくなったり、体調が悪いわけでもないのにだるかったりすることだよ。五月になるからそう呼ぶんだ。なってみたらJJもわかるよ」

そんなざっくりとした説明を残したまま、パオロを先頭に石松、霧生と続いて部屋を出ていく。残された俺は、今初めて聞いたその病名についてぼんやりと考えを巡らした。しかし経験がない俺が考えた末に出したのは、怒りすら湧いてくる結論だ。

「……つまり、サボっていただけか」

この症状を目にした最初の日、ソファーに寝そべっていた男の姿を思い返しながらそう呟き、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。瑠夏にもやる気を出してもらわなければ仕事は滞る一方だ、何か手を考えなくてはいけない。偶然上手くいったとはいえ、流石に自分のボス相手に同じ手段を取る訳にはいかなかった。瑠夏に銃を向けたとあらば、特にやる気を取り戻したばかりの猟犬が黙っていないだろう。
そしてこうした馬鹿らしい話を聞いてくれそうな相手など、俺の狭い人脈では一人しか思いつかなかった。





「おやおや」

俺の話を静かに聞いてくれたマスターは、レモンを添えた水を俺に差し出しながら苦笑を零す。一応は仕事中だから気を使ってくれたのだろう、一口飲めばレモンの香りが鼻を抜けていき、僅かに痛みだしていた頭がマシになった。

「マスターは、その対処法というか、例えばよく効く薬を知らないか?」
「そうですねぇ……病、とはついてますが、薬で治るものでも……」

途中で言葉を切ったマスターは顎に手を置くと視線を落とし、少しの間考え込んだかと思えば名案を思いついたかのようにポン、と手を叩く。見えた笑顔に、この人がこういう顔をする時は大体俺にとっては碌なことにならないのだと、そうわかってはいたがまぁいざとなればその案を跳ねのければいいだけだと思い直し、話を聞くためグラスを置いた。
勿論それは、突飛もない話を聞いてしまった時にうっかりグラスを倒したり割ってしまわない為だ。

「効く、かどうかは瑠夏本人とキミ次第ですが、これを使ってみなさい」
「は……?瑠夏次第なのはわかるが、俺は関係ないだろう」
「使ってみればわかりますよ、さぁこれを持って戻りなさい。あまり長い時間キミを独占していると、瑠夏に怒られてしまいそうです」

渡された錠剤をとりあえずポケットへしまい、言われるままにバーを出ていく。外の風が春にしては冷たく、コートの前を合わせる前に渡されたものをもう一度だけ指先で確認してから、足早に屋敷への道を戻った。
そうしてそのまま瑠夏の部屋へ向かい、扉をノックする。

「……誰だい?」
「JJだ、今いいか」
「JJ……あぁ、構わないよ。入ってきてくれ」

ドアを開ければ今回はかろうじてデスクについてはいたが、椅子の背に全力でもたれかかっている様子からやはり仕事はしていなかったらしい。溜息を吐いて、あぁ、この数日で一体何回溜息を吐いたのだろうか。
呆れながら瑠夏のデスクの前に立つと、疲れたような視線だけが俺に向けられる。こころなしか、その碧眼がくすんで見える気がした。

「どうしたんだい、何かあったか?」
「何かあったのは、アンタの方だろう」

はは、と力なく笑う瑠夏も、自分の今の状態はわかっているようだ。パオロ達もそうだったように、自分の状態を認識しているだけではどうしようもないらしい。そんなものに縁が無かった俺にとって、正直理解出来ない症状ではあるが。
ここに来る前に調達しておいた水のペットボトルと共に、マスターから貰った謎の錠剤を瑠夏のデスクへ置く。きょとん、と軽く目を見開いた瑠夏に、しかし上手い説明も出来ず「飲め」とだけ告げた。
訝しむ男に、マスターから貰ったとつけたせば「ショウから?」と不思議そうにしつつも、言われた通り錠剤を口へ放り込み、水で流しこんでいく。

「わざわざ、ボクの事をショウに相談しに行ったのか?」
「いい加減やる気を出してもらわないと困るからな」
「そうだね……数日、キミにも触れてなかった」

手を伸ばした瑠夏は俺の頬を撫で、意味ありげに微笑んだ。あの日から瑠夏は俺を夜に呼ぶ事も無く、日中の触れ合いもほぼ無いに等しかった。相手が欲しくなるのは、何も瑠夏だけではないというのに。

「……ん……この薬、もしかして」
「瑠夏?」
「ショウ……やってくれるな」

俯いてしまった顔を覗きこめば、薄く頬を染め呼吸を乱している様子の瑠夏。それと先程飲んだ薬とを結び付ければ、マスターに渡された錠剤の正体も見当がつく。
あの人は本当に、俺達で遊ぶことを生き甲斐としているのではないだろうか。

「……媚薬か」
「そうみたいだ……全く。今度会ったら覚えておけよ、ショウ」

俺を熱っぽく見つめてくる瑠夏の視線に、身体の芯がぞくぞくと反応する。触れて欲しい、薬に浮かされたまま、焦れていた数日を埋めるように。しかし触れようとした瞬間、ここ数日の鬱憤が頭を掠める。
首に滑ってきた瑠夏の手を掴み離させると、代わりにその目の前へ、横に積んであった書類を置いた。

「え……」
「やる気が出たなら、まずはこっちを片付けてくれ」
「いや、そっちのやる気じゃないというか……JJ……?」
「ここ三日、俺はアンタ達がだらけていた分も働く羽目になったんだ……責任くらい取ってくれるだろう?」
「目が怖いよ、JJ……」

凄んでみせれば瑠夏はたじろいだ様子で、しかし俺の本気さが伝わったのかしぶしぶペンを手に取り書類に滑らせ始める。それ程量は無いので三十分もかからず終わるだろうが、この間も薬が瑠夏の身体を蝕んでいるようで、こめかみを一筋の汗が伝い眉間には皺が寄りっぱなしだ。流石に可哀想だっただろうか。

「……」
「……っ……」

あぁ、これは失敗したかもしれない。瑠夏が媚薬で身体を蝕まれている間、俺も焦らされるという事だ。
……だからもう少しなら、瑠夏に対する不満を晴らしてもいいだろうか。気分が乗ってきた事もあって、俺はその衝動のままにデスクの下へと潜り込むと、瑠夏の太腿へ手を添えた。ペンを止めて俺の行動を見ていた瑠夏が、ピクリと震える。

「JJ……?」
「……さっさと終わらせてくれよ……ん」
「っ……は……これは、サービスが良すぎるな……」

スラックスの下で張り詰めていた瑠夏のものを取り出し、浅く咥えるだけでそれはより硬度を増した。根元まで舌を這わせ、唾液を全体に塗していくような動きを続けていると、瑠夏の片手がおれの髪をくしゃりと掴む。

「キミを焦らすと、こういうサービスがあるんだね……覚えておくよ」
「ふ……う、言ってろ、んむ」
「んっ……なぁ、JJ……準備も、しておいて」
「……っは……準備……?」
「ボクの仕事が終わった時自分がどうなるか、っ、わからない訳じゃないだろう……?」

ここまでしたんだから、と、獰猛な牙を覗かせるような声色に息が詰まった。どろりと濃い期待が胸に落ちてきて、俺は深く瑠夏のものを咥え込みながら自分のベルトを外しスラックスと下着をずらすと、すっかり昂ぶっていた自分のものを擦り先走りで指を濡らしていく。
ペンの走る音と二つの水音、降ってくる瑠夏の苦しげな吐息は、ますます俺を興奮させた。

「っ……ん、う……!」

充分に濡れた指を後孔に挿し込むと、自分の指だとわかっていても中はそれをきつく締め付けてしまう。そのまま狭い内を解していくように抜き挿しすれば、自然と自分の弱い場所を探ってしまい、その速度が増していった。
前を擦り後ろを解しながら、瑠夏のものを咥えているせいで酸素が足りず、頭がぼやけていく。限界が近付いていくと声も上擦り、俺を見ていないはずの男にも容易くそれを知らせてしまった。

「……JJ、先にイクのは許さないよ」
「っう、あ……何で、だ……」
「一人で果てたら、その後はボクが満足するまで果てることは許さない。それでもいいなら、そのまま続けるんだね」

瑠夏の足先が俺の太股をなぞり、そのまま先端を弱く踏みつけてくる。ぐっと全身を強張らせなければそのまま果ててしまいそうな甘い痺れが襲ってきて、俺は涙の滲んだ瞳で瑠夏を睨みつけた。

「そうだ……終わるまで我慢、しててくれよ……?」

俺の姿を見て満足したのか、また瑠夏は書類に視線を戻してしまう。いつの間にか立場が逆転している事が悔しく、口淫を激しくすればまた瑠夏の息が乱れていった。
早く、早く抱いてくれと、本能が悲鳴を上げている。ペンの音が止まるのをひたすらに待ちながら、後ろを解す指をまた増やした。

「んっ……あ、ぅ……瑠夏……っ」
「切なげな声で呼ばないでくれよ……キミから仕掛けてきた事なのに」

半ば無意識で名前を呼んでしまい、瑠夏が甘い声で懇願のような台詞を吐く。続いて聞こえてきたペンを置く音に、俺は小さく肩を揺らした。
期待と恐怖で、心臓が飛び出そうだ。

「さぁJJ、出ておいで。ぐちゃぐちゃにしてあげるよ……嫌という程にね」







「うあっ!あ、あっ!」
「っは……あぁ、駄目だまだ……止まらないよ……っ」
「ひっ……!ああぁっ!瑠夏、待、待っ、あ!」

何度目かの熱を注がれ、それでも治まらないらしい瑠夏は昂ぶったままのもので中を容赦なく掻き回していく。俺はシーツをガリガリと引っ掻きながらその律動に翻弄され、自身もまたベッドへ染みを作ってしまった。
あれから、書類を脇へ雑に寄せただけのデスクの上へ押し倒され、瑠夏は普段以上の激しさで俺を抱いた後ベッドへ場所を移し、もうこれで何度目だったかも覚えていない。ただわかるのは、後孔がすっかり痺れ、全身どこを触られても感じてしまう程神経が剥き出しになっているという事だ。

「ん……っ、やっぱり、今度は正面から抱き合いたいな」
「あ……っ!は、瑠夏、少し、休ませてく、――っああ!!」
「大丈夫、三日分キミを堪能したら……っ、く……寝かせてあげるよ」

尖った犬歯を覗かせながら妖艶に笑った瑠夏に、俺は抱き殺されるのではないかという甘い戦慄を覚える。恐ろしく艶っぽい響きで「愛してるよ」と耳へ囁かれ、その声色にぞくりと身体を震わせれば、今度は肩口に噛みつかれた。

「も……っう、触らな、いで、くれ……うぁ……っ」
「だってここ、こんなに尖って……ボクに触れて欲しがってる」
「違、あ……っ!瑠夏……!」

腰の動きを緩めながら、瑠夏の指は俺の胸を弄り始める。こねられ押し潰され、軽く引っ掻かれるだけでも身体がしなる程の刺激に襲われ、俺はそれを止めさせる意味も込めて両腕を瑠夏へとしがみつかせた。
耳元で、ふ、と満足そうな吐息。瑠夏の指先は胸の代わりに中心へ絡みついてきて、限界まで開かされた脚の先がピンと張る。ああまた、意識が飛ぶほどの快楽が与えられてしまうのだろう、しかし少なくとも男の身体を蝕む薬が切れるまで、気を失う事は許されないはずだ。
興奮で薄く濡れた瞳が、言葉にしないままそう訴えてくるから。

「まだ、期待してる顔だ」
「っあ……んっ、う……」
「……ん……可愛いな……だから、もっと欲しくなるんだよ、JJ」
「ふっ……!んっ、う!」
「キミが……っ薬以上に、ボクを狂わせるんだ」

中を穿つ動きがまた激しくなっていく、そうして俺はまた、瑠夏が与えてくる快楽の波に意識を塗り潰されてしまう。
ただ望まれるままに喘ぎ、肢体を擦り合わせ、何度も瑠夏の名前を呼び、そんな三日ぶりの瑠夏との行為が終わったのは、日を跨ぎ夜がすっかり更けた頃だ。昼過ぎから夕食も食べずに抱き合い、俺がとうとう意識を飛ばすまで。
眠りが許された僅かな時間が終わり、身を這う感覚に目を覚ませば、まだ物足りなそうに俺の全身へキスを落としている男と視線が合う。

「っ……は……アンタ、人が眠ってる間くらい、んっ」
「だって、何をされてもいいから、JJはボクにあんな悪戯をしたんだろう?」
「あ……っ、あれ、は……」
「三日も放っておいて悪かったね、でもキミと、ショウの薬のおかげで……ようやくいつも通りになれそうだよ」
「瑠夏……っ、も、許し……あっ」


抱え起こされ、まだ力の抜けている身体を瑠夏の上へ乗せられた。熱い昂ぶりが後孔へ触れると、もう限界だと思っていた全身はそれでも期待に震えてしまう。瑠夏はすぐその反応を見抜いたのだろう、そこへ擦りつけながら首筋へいくつもの赤い痕を残し、俺の身体がまた燃え上がるのを待っているようだ。

「寂しがらせた分、まだまだたぁっぷり、愛してあげるよ」

その声は俺を食い破りそうな程に獰猛に響いて、好きにされればそれこそ本当に抱き殺されるだろうとわかっていながらも、身を任せたくなる誘惑に逆らえそうにない。三日は動けなくなりそうだが、それは三日余計に働かされた分、五月病だと言ってだらだらしていたこの男や他の奴らに働いてもらえばいいだろう。
腰を下ろし掠れた声を上げながら、俺は放置されていた数日を取り戻すように、朝までの長い時間を瑠夏と抱き合い続けた。


後日、首元を隠しながらふらふらと覚束無い足取りで廊下を歩いていると、すっかりいつもの調子を取り戻したパオロに「JJも五月病?」と問い掛けられたので、「治した結果だ」とガラガラになった声で答えてやった。




終わり